メゴマ奪還戦 Ⅱ
――メゴマ宿屋一階酒場
夜を迎え、農作業や商売を終えた中年の男どもが、村唯一のこの酒場に集まる。
筋肉隆々な彼らは、見た目はかなり悪い人だが、性格は、いい人ばかりだ。
彼らは、酒を水のように飲みほしている。
昼間会った金物屋の親父もいる。
「どうだったよ?俺様の作品は」
「良かったよ。ほらこんな感じに加工してみたよ」
「おお、かっこいいじゃねーか。やっぱり俺の作品は最高だぜ」
今度は、カード型のフォルダーにはまる薄い板を作ってくれることになった。
明日の夕方には、五十枚は用意できると吹いていたが、忘れてしまいそうなくらいお酒を飲んでいる。
まあ、期待はしていないんだけどね。
暫く、金物屋の親父と飲み続けていると、一人の老人が入ってきた。
「まったく、おんしらは、いっつも飲んだくれおってからに」
「あんたもだろう村長さん」
その場にいるみんなが一斉に笑う。
村長は、鼻で息をしながらカウンターへ腰を下ろし、宿屋の親父が無言で一杯つぐ。
村人は比較的うまくいっているようだ。
平和なら何よりだな。
夜も深まり各々が帰路につく。
あと数人というところで、僕も宿屋の二階へあがり就寝する。
――次の日の昼過ぎ宿屋
明日の出立の準備をすまして、宿屋の1階で茶葉を発酵させた紅茶の様な飲料を飲みながら心ピョンピョンするんじゃーと思っていると、金物屋からの連絡役として、小僧が訪問してくる。
昨日話していたプレートができたらしいとの事。
忘れずに作ってくれた事に驚く、やはりそこはプロの仕事なのでろう、あれだけ飲んでいても仕事はしっかりしてくれる。
少ししたら行くとの伝言を伝えるようにいってから、小遣いにするように銀貨を数枚渡した。
小僧は、笑顔になり走って、金物屋に帰っていった。
ころぶなよ~
さあ、急いで行ってもしょうがないだろう。
荷物の再チェックをしてから、自室におく。
お金だけもって、ゆっくりフワフワ歩いていく。
小僧の到着よりも先に行っては、小僧の面目もないだろう。
ちょうど宿屋と金物屋の中間くらいの位置に、一軒の平屋があった。
裕福ではない村の中でも、明らかに貧相な家であった。
外に、人影があり、よくよく見ると、アルス少年の様だ。
魔石を使用しているかの判別はつかないが、【フレイムカッター】の練習をしているようだ。
なかなか、良い切れ味の風の刃が、木材に傷跡を残し、少し煙が上がっている。
恐らく、自分自身の魔力で起動しているのだろう。
威力は弱いが、刃の当て方が上手い。
数本の木材は、切断されている。
紋章術を利用した魔導具の特徴として、術者が使用すればするほど、伝導率があがり、低消費の魔力で高威力となる。威力や消費量減少には当然限界があるが、その差は戦闘においてアドバンテージになる。
顔には、やや疲労が浮かんでいるが、使うたびに成長している感覚が、彼を駆り立てているようだ。一心不乱に、木材に向けて【フレイムカッター】を発現させている。
リンク付きの魔術であり、決して魔力消費が低いわけではない。
それを、連発できる事からしても、彼の魔力量は常人のそれとは違うのであろう。
他の魔導具も試させてみるか。
少し期待しながら、金物屋へ歩みを進める。
コンプレックスを心に抱えている人は、自分の得意分野を見つけたときに大きな力を発揮する。今まで蟠っていたものから解放されたエネルギーは、計り知れない。
僕自身は、社会人時代のコンプレックスはまだあるし、この能力も他人からあたえられたものだと思っている。
しかし、帝鬼との八年間(後半は、ほぼ【多相童子】相手だったが)は、自分自身の弱さから解放されて大きく成長したような気がした。
彼にも、その解放感を味わってほしいと思う。
後輩(教える相手)を持った感覚も悪くはないものだ。
少し鼻歌まじりの上機嫌で、金物屋の前までくる。
親父は、昨日の酒場での様子とは違く、職人の顔をしている。
親父は、小僧を怒鳴りつけながら、自分も手を動かしている。
弟子を持つっていうのは、こういう事なんだ。
親父が感じているものは、さっき僕が考えていた感覚と同じなんだろう。
「邪魔するよ」
親父は、手を止めて
「おお、やっと来たかコンチキショー。あんまり遅いから、フォルダーも十個作っちまったよ」
「ありがと、代金は置いとくよ」
「おお、そこにまとめてあるから持ってきな。後代金は、銀貨十枚でいいぞ」
破格の値段だが、その倍を置いてから、まとめてくれた小包を貰っていく。
親父は、気が付いていないので、そのまま去る事にした。
帰り道、また小さな平屋の所に寄ってみたら、まだ彼は【フレイムカッター】を撃ち続けていた。
「そのぐらいにしたらどうだい?」
アルス少年は突然の侵入者に驚き、一瞬警戒したが、僕だと気づくと手を止めて一礼してきた。
「魔導具は、使用すればするほど、効率的に魔術の発動はできるけど、無理に発動させ続けるよりは、少し休憩を入れた方がいい。魔力を回復させる事も練習だよ」
「わかりました」
なんだか急に敬語になっており、少しこちらも硬くなってしまう。
休憩がてら、少しアルス少年の話を聞いてみた。
彼は、青みがかった髪をしており、耳が少し隠れるくらいの長さまで伸ばしている。
目も、青色が強く出ている。
端正な顔立ちである。
毎日、畑仕事をしているらしく、筋肉はしっかりついている。
全体的に締まった体であるが、栄養状態があまり良くないらしく、やや窶れてみえる。
父は、メゴマの聖騎士となったが、四年前のメゴマ殺害時に、魔族によって殺害された。
メゴマ殺害後、後任者がたったが、その際財政を圧迫しているとして、多くの聖騎士が、浪人化した。
多くが夜盗となり、各村々を襲っている。
その被害に巻き込まれ、母親も最近連れ去られ、後日遺体で発見されたらしい。
今は、祖父の家にいるらしい。
自分が弱かった為何もできなかったと後悔したが、それでも何もできないと諦めていた時に、僕と出会ったらしい。
「この力で、夜盗から村の皆を守りたいです」
「それは、君の望みかい?人は、自分の満足感の為に強くなるんだからね」
「わ、分かりました。僕は、僕の欲望の為、強くなりたいです」
「そうだよ。守るっていうのは、エゴだよ。それを、肝に銘じれば、エゴでも構わないんだけどね」
「はい!」
素直でよろしい。
でも、その素直さが、彼の弱点でもあろう。
まあ、その弱点も経験していく事で、いい感じにすれていくだろう。
ただ、彼の焦りのようなものについては、気を配らなければならない。
それは、彼にとって命とりになりかねないから。
昨日、作ったカードタイプの、魔導具を取り出した。彼が練習に使ってた木材の山に向かって、魔術を撃ちだす。
氷の槍が真っ直ぐに飛び出し、直進する。
その後、着弾前に、轟音とともに炸裂して、木材を粉々に砕くと同時に、凍結させる。
「紋章術で作成した魔導具には、特に詠唱はいらないけど、好きな魔術名でもつけて使ってみな。それと、このカートリッジタイプの石は魔石だから、魔力を使えない時や、自分の魔力量以上の威力を出したいときに、紋章部分ではなく、まず魔石を溶かして消費するイメージを送るんだよ」
一通り、新しい魔導具の説明をしてから、また明日くるから、撃てるようにしておきなさいとだけ伝え、立ち去る。
暫く道を歩いていると、後部から炸裂音が聞こえてくる。
自分の成長もうれしいが、弟子の成長というのも、また違った喜びを感じるのであった。




