メゴマ奪還戦 Ⅲ
――メゴマ周辺辺鄙な村の唯一の宿屋
空が白やんでくる。
もうすぐ夜が明ける。
寒さはあまり感じない。
窓を開けると風が心地よいくらいだ。
朝食は、黒ずんだしょっぱいパンと、牛系の魔獣の肉だそうだ。
魔獣の肉は、想像より柔らかく、マナが少しのこっているのか、魔力量が少し上昇したように思えた。
食事を済ませた後、紅茶を啜り。
まとめた荷物を抱えて、宿屋の親父に礼を言って出発する。
すでに前払い金で、宿代は払っていた。
昨日約束した通り、貧相な平屋に向かって歩みを進める。
もうすでに、太陽は昇り、少し気温があがっている。
汗ばむ程度では無く、散歩するには心地良い。
歩いていると、炸裂音がしてくる。
【氷槍・スピサ】
はっきりと氷の槍をかたどった魔術が、彼の掲げるカード型の金属性のフォルダーから放たれる。数秒後、氷槍が爆散し、氷の礫が飛び散る。
何という、厨二感のある名前だね。カッコいいぜ。
結構な威力が出ている。
何度もやっていたのだろう、効率的に放たれる一撃は、強力だが魔力消費はかなり抑えられている。
「フォルダーに、これをはめてみな」
鉄製のプレートを投げ渡す。
突然の声に驚いてはいたが、アルス少年は、見事にプレートをキャッチして、その鉄板をスライドしてフォルダーに装填する。
魔力を流して気づいたのだろう、手元にある魔術回路と同じつくりである事に、
【氷槍・スピサ】
先ほどよりも、大きな氷の槍が発現し、林の奥へ放たれる。
数秒後、爆発音と共に、氷の塊が木々に撃ち付けられる。
木を倒すほどの威力は無いが、木には大型の動物が齧ったような
後が残り、そこを中心とした幹が氷結している。
アルス少年は、急に削ぎ取られた魔力に膝をつく。
「【氷槍・スピサ デュアルフォース】ってところかな。どうだい? 短期間の間に、連発できる君にとっては、消費量が倍にはなっているが、膝をつくほど吸われてはいないはずだよ。魔術を放つときに注意しなければいけない事は、その消費量の差が大きいと、精神的には大きな負担になる。魔力量がいくら強大にあっても同じことだよ」
アルス少年はそれを聞くなり、すんなりと立ち上がった。
「どの程度消費したら、どれだけの精神負担があるのかだけは覚えておいた方がいいよ」
【氷槍・スピサ デュアルフォース】
今度は、膝をつかずに撃ち放つ。
覚えが早い、魔力消費については、自分自身がそういうものだと思うか、思わないかというだけで精神的負荷は変わってくる。
プレートを改めて二枚投げ渡す。
アルス少年は、指の間でキャッチする。
くっ!かっこいいじゃん
無意識にやってると事が、更にカッコいいし。
「その魔術回路は、コアを《炎焼》として、【リンク】に《不可視》を入れてある。色の無い炎が対象を燃やす。だが、当然マナの流れが変わるから、分かるやつには、見えなくても感知されるから気を付ける事だよ」
「なんで、よくしてくれるんですか?」
なんでだろう?
たぶん君は、僕と同じだからだと思う。
ただ、何も言わずに微笑む。
そこへ、おばさんが慌てて走ってくる。
「たいへんだよ!聖騎士が現れたってよ。早くポールさんとこに知らせなきゃなんないよ!」
ポールは、金物屋の親父の事である。
そういって、はしり去るおばさん。
アルス少年は、急におばさんとは反対側の方向へ走り出す。
その少し後ろについていく事にした。
暫く走っていると、人だかりが見えるのが分かった。
中心には、髭面で大きな盾と、重そうな鎧を着こんだ大男と、アルス少年と同い年くらいの、少女がおり。大男に髪の毛をわしづかみにされていた。薄い緑がかった髪色で、鼻筋が通っており、しっかりした顔立ちである。
痛みで、少し涙目になってはいたが、大男を睨みつけており、芯はしっかりしている娘だと思った。
「がはっはは!献上が少ないようだから、わざわざ来てみれば本当に何にもないなっ!
まあ、今日はこの娘で許してやる」
頑固ものの村長が前にでて
「わしらは毎年、献上させていただいております。他の村に比べれば少ないとは思いますが、精いっぱいの物をお渡ししております」
「誠意が足りないんだよ!まあ、この娘っこで楽しむとするから、今年は許してやろう。来年も、この娘っこと同じくらい面子い娘を用意しておけよ!村長さんよう。拒むってのはどういうことか分かるよな?がっははは!」
「おじいちゃん、私はいいから、大丈夫だから!」
悔しそうな顔をして村長は、遅れて到着した金物屋の親父にいう
「ポール!これからは、この村はお前さんが支えろ!今日から、おんしがこの村の長だ!」
そう叫ぶなり、走り出し、大男へ掴みかかる。
大男はその気迫に、やや押され、娘の髪から手を放す。
当然力の差は歴然であり、右手を払い、元村長を横に吹き飛ばす。
当然体力はおろか防御力も少ない老人である。
丸太の様な大きな腕で一撃されたら一溜りもない。
血を流しながら、咳払いをしている事から、何とか生きているようだが、瀕死の状態だ。
「おじいちゃん!」
少女は、焦りの表情で叫ぶ。
ポールは、老人の真意を理解しているからか、拳を握るだけで動けない。
アルス少年を虐めいていた少年たちは、震えて一歩も動くことはできないだろう。
当然、聖騎士の集団は、一騎ではない。
その大男を先頭に、後九騎後ろにいる。いずれも兵士であり、大男に負けないくらい筋肉隆々とした姿だ。
大男は気を取り直し再び、少女に手を伸ばす。
その瞬間。
【フレイムカッター】
丸太の様な腕が、まさに切断される。
煙を上げる傷口。
血が噴き出す事は無いが、肉がただれた時の脂が焦げる異臭が漂う。
「ぎゃああぁぁああぁぁあああ!」
大男は、先端の無くなった自らの腕を抱える。
恐怖で顔が青ざめている。
やりやがったな。アルス少年。
その焦りが、多くの禍を呼ぶ。
僕も、この村の事をほったらかすつもりは無かった。
少女を連れ去った後、メゴマまでの道のりで必ず近隣の村によるだろう。
その周辺で襲撃して、少女を奪還して、装備品などを剥ぎ取り、夜盗の仕業にしたてて、なおかつ通報は、別の村に押し付けるつもりだった。
これでは、完全にこの村が絡んでいる事がバレバレだ。
アルス少年は、更に【フレイムカッター】を発現させて、大男の首を切断して、絶命させる。
他の聖騎士が、当然動く、何やら詠唱するものと、馬で突撃するものに分かれている。
【プラントウォール】で馬の進路を閉ざす。
滑走距離が少なく馬は、前足を上げて嘶いた。
慣性の法則により、騎乗していた騎士はバランスをくずす。
それに、後方の詠唱組は、水の球体を放ってきたことから、蔦の壁がそれを難なく防ぐ。
【氷槍・スピサ デュアルフォース】
動きが止まった馬を狙い、氷の槍が進む。
馬の顔面を貫通して、聖騎士の一人の喉を裂いて絶命させる。
数秒後、氷の塊が炸裂し、前面に位置している騎士は落馬する。
さすが、聖騎士を名乗るだけはあり、氷の塊だけでは、びくともしない鎧を着ている。
ただし、氷結で氷付き動きを妨げている。
アルス少年は、荒い息を上げる。
戦場の雰囲気にあてられている。
実践経験は、まだまだだね。
倒れている三人の騎士に、次々に【フレイムカッター】を首筋に打ち込み殺害していく。
まさに、復讐者だ。
夜盗と同じ事をした聖騎士どもを、感情を乗せず次々に絶命させる様は、正常ではない。
後方の騎士が、詠唱を開始する。
さすがに、そこまで気は回らないであろう。
すかさず、
【テレポーテーション】
で後方の騎士の真横まで回る。
【ウインドボール トリプルフォース】
ゼロ距離の、暴風の玉が、並列で陣取った後方部隊を、一掃する。
騎士は、どんな重厚な鎧を着ていようが、肌が露出している部分があり、それは継ぎ目は特に弱い。
のっている馬も含め、ズタズタに肉を切り裂く。
「アルス!殺害するならば、馬も殺すんだ!逃げたら面倒だよ」
興奮気味の彼であるが、その指示を聞き入れ、氷槍で次々に串刺しにする。
最後に残った、一騎が吠える
「テメーら絶対許さないぞ!」
【魔人化】
男の丸太の様な腕が、更に倍増して、歯には牙が生える。
馬をその体重で潰してしまう。
その背中に差した大剣を抜き、一振りする。
空振りしたのに、風圧がすごい、塵が舞う。
「なぜ、聖騎士が【魔人化】するんだ!」
「しかもオークです。一撃が重いので気を付けてください」
「まあ、そんなに焦る事もないがね」
そういってから、距離を詰めて、一撃を加える。
急所は、だいたい人間と同じだろう、みぞおちの右の部分に拳がめり込む。
苦悶の声をあげ、涎を噴出しながら頭を垂れる。
そこに、【フレイムカッター】で、後頭部を焼き切る。
前のめりに、顔面から倒れ込む。
アルス少年は、興奮から醒めてしまったのだろう、自分がしでかした事に、後悔するように立ちすくんでいた。
「アルス……しでかしてくれたな。それにレオナール、その俺が作ったフォルダーは武器になっていたのか」
「ポールさん、彼を責めるのは、お門違いだよ。彼が動かなければ彼女は助からなかった」
「しかし、これでは村を巻き込んでしまった」
「彼女が連れていかれる時点で、村が巻き込まれているんだよ。彼女は村の一員だよね?」
「……し、しかし」
アルスは、気を取り戻し、少女と一緒に元村長を安全な場所に運んでいる。
「今考える事は、死体の処理と何故聖騎士が魔人なのかという事と、後日くる調査隊への対応を考えた方がましだ」
「……そうだな」
「宿屋の親父、またしばらく厄介になる。それと、会議は酒場で行う。各世帯の代表者は昼が終わった後に集まる事」
それだけ、指示を出した後。
死体処理の手続きに入る。
腐敗と分解により、痕跡をなくすようにした。
昼までに跡形もなく消した。
村の各世帯代表者が、酒場に集合した。
皆不安な表情。
何故よそ者が仕切るのか。
アルスを突き出せば解決する。
自分の危機に対して、責任転嫁によって、解決しようとする人間ばかりだった。
当然だ、自分と家族の安全が侵されてしまっているんだから。
そして開口一番に僕が放った言葉に、皆青ざめる。
「お集まりいただき、ありがとうございます。今回の件から、この村の身の振り方を考えなければなりません。今回の件で、聖騎士が魔人であったりと、メゴマの統治体制に疑問を感じざるおえません。最悪のシナリオでは、メゴマに攻め込む必要性もあります。そうです。戦争をしましょう」




