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メゴマ奪還戦 Ⅰ

――シバーシン・正門前


多くの魔獣の死骸が横たわっている。

一方的な戦いであったのだろう。

成体のベヘモト一体は、半身が焦げた状態で血を流し、横たわっている。

残る二体は、地面に半分以上埋まった状態で横たわっている。


幾つもの巨大な焚火が赤々と燃えている。

疫病を防ぐために火葬している。

火傷は大方回復しているが、服はボロボロのままで正門をくぐる。

町の中には被害はないようだ。

それに、戦勝ムードが漂っており、露店も戦勝にあやかった菓子などが出ており甘い匂いが漂っている。

そこらじゅうで、自分の功績自慢が語られており浮ついた空気を感じた。


不明者リストが掲示されているが、そこには僕の顔しか載っていなかった。

シバーシンの目論見通り、あの大群に対して誰一人犠牲が出なかったようだ。


寮の自室に帰るとシャワーを浴びてから、一休みする。

起きたら、ひとまず服を着替える。

ベストにワイシャツ、黒のジャケット、灰色のズボン。

茶色の革靴とちょっとインテリ風の大学生っぽい姿。

眼鏡なんぞかけて(伊達)学生に紛れて、この都市をさるつもりだ。


再び、戦勝に浮かれた都市を通り抜ける。

少し図書館を利用できなくなることが、心残りではあるが、ただこの都市にのみ留まるわけにはいかない。


正門を抜けたところで、黒い影が行き先をふさぐ


「随分早い出立ね。英雄なら英雄らしくこの宴を楽しんでゆけばいいのに」


シバーシンは、僕がこの都市を去る事を知っていて先回りをしていた様だ。

その為、不明者リストに掲示しておいたのか。この騒ぎに紛れて僕が去るのを織り込み済みで。


「礼は、知識でいいわね。これを見てから行きなさい」


《腐敗》《猛毒》《病魔》等の弱体化魔術の数々であった。

最後に、マナを流してから魔術が発現するまで、少し時間をずらす回路の組み方を教えてもらう。設置型の魔術には有効であろう。


「スィが夢中になるのもわかる気がするわ。あなたには可能性があるもの」


「可能性は誰にだってあるさ」


「そうね。その通りね。さあ、はやくお行きなさい。あまりもたもたしてると、スィがまた暴走しかねないわ」


一礼して、学園都市を去る。

図書館塔がその後ろ姿を見送ってくれているような気がした。


――メゴマ周辺のひなびた村


クンヘルの空間へ久しぶりに帰った後、メゴマへ旅立った。

メゴマは、光守という二つ名がつくほどの、教会都市となっており、その最高神官である。

生前は、温厚で多くの人々に慕われていたという。

大戦後四年後には、魔族の生き残りに殺害されて、殉教したとの事。

その後は、後継者がたち、都市を支えている。


町並みは、教会を中心に、巡礼の道と呼ばれるやや傾斜がある螺旋状の道がつながっている。外苑に沿って川が流れており、守りやすく攻めづらい要塞の様な形状である。

川の外には、巡礼者の為の宿泊施設や食事処、お土産などの露店等、日本でいう門前町と同じ作りになっている。


そして、その周囲に村が点在する。

巡礼者からのお布施と周辺町村からの献上により、都市は維持されている。

祀る神は、精霊王であり、根源神とのことである。


このひなびた村は、メゴマからは最南端にあるとの事で、なかなか経済的な恩恵は受けることができないらしい。

久しぶりの宿泊客との事で、少し埃くさい部屋へ案内された。

学生の様な格好であったからかなとも思ったが、旅行者が居ないのも事実であろう。

宿屋の親父さんは、すごく気さくで、何でも話をしてくれた。

一回は、酒場になっているとの事で、常連しか今はいないが夜になったら降りてくるといいとの事。宿泊得点にエール酒を一杯無料にするとの事。


村には、約三十世帯が住んでおり、全部で百人強との事。

若い人は、それぞれ別の都市に行くことが多く、なかなか人口減少を止めることができないらしい。


南は平原になっており、ノェウからの道が敷かれている。大戦時はメゴマの聖騎士軍団の進軍経路になっており、多くの食料品や日用品などの消費が行われ、経済的に裕福になった。たしかに、村長の家は大きく館は、小貴族と同じ規模くらいはあるだろう。


北側は、川が流れており、川魚がよく取れるらしい。

西側は、岩山になっており、昇ると村一面が見えるが、さほど高くはない。

東側は、平地ではあるが、所々がぬかるんでおり雨が多いときは、小さな沼になるそうだ。


村の中には畑と家が点在している。

広場があるが、子供たちの遊び場になっている。


さびれているが、のどかないい村だ。

少し散歩をした後に、広場のベンチで、【マテリアル】によりカートリッジ型の魔石を作成する。金物屋の親父が趣味で作った薄いカード型のホルダーが売っていたので購入して、魔石を挟める。


「カード型の魔術誘導装置って感じかな」


最近は、実用的なモノじゃない魔導具を作るのにもはまっている。

この数ヶ月で、実際には八年以上だが多くの事ができるようになり、余裕が生まれたからか遊び心をくわえるようにした。

《氷結》のコアに《爆発》を【リンク】する。範囲を一点にして氷の槍がカード中央から発射し、約五秒後に炸裂し、氷のつぶてをぶつける仕掛けとした。


最近は、【バイオス】にも慣れてきたようだな。

虚脱感はあまり感じない。


次に、この周辺の村に伝わる。精霊王の守りという革製のブレスレットを買ってみた。

再び広場のベンチに腰を下ろし、付け心地を調べる。

中々腕にフィットする感覚が心地いい職人のいい仕事を感じさせる一品である。

お土産屋の親父も絶賛していただけはある。

職人はもちろん村の人らしい。

お土産屋や雑貨や農家団体の食料品屋などが、行商をしてこの村の経済を支えているらしい。


ブレスレットの厚さは約四センチほど。

コアには《障壁》、【リンク】で《繁茂》。範囲は、自分の前面。【プラントウォール】

コアには《炎焼》、【リンク】で《暴風》範囲は直線での一文字。【フレイムカッター】


魔石をブレスレットに装填して、魔力の弱いモノでも扱える攻防一体型の魔導具。

自分で装着してみて、見栄えも確認。

なかなかいい出来栄えだ。


広場から声がする。

「アルスお前その年になっても【フレイムボール】も撃てないのかよ」


「どんくさいし使えないよな。お前」


三人の十代中盤くらいの男の子たちが、同い年の男の子を取り囲んで馬鹿にしていた。

なんとなく、それを眺めながら、この世界では魔術によりある程度社会的地位も変わってくる事を改めて気づかされた。

アルス少年は、ただ下を向いて悔しがっているようだ。


「俺が、教えてやるよ」


【フレイムボール】


アルス少年に向かい男の子は、魔術を放つ。

日本でいうと中学三年から、高校1年生くらいの少年は彼の拳より一回り大きな火の玉を作り、詠唱と共に放つ。


アルス少年に思いっきり命中する。


「ぐっ」


少年は、少しだけ苦悶の声を上げたが、その痛みに耐えたようだ。

魔術の見た目ほどのダメージは負っていない。


他の少年も次々に、【フレイムボール】撃つ。

アルス少年は、苦悶の声は上げるが、あまりダメージを負ってはいない。


「テメーは、本当に砂袋には良いやつだよ」


【フレイムアロー】


一点集中火力があり、【フレイムボール】より熱量が高い。

しかも詠唱に時間をかけており、先ほどまでの魔術よりも魔力消費は高そうだ。


さすがにまずいかな?


アルス少年は全く避ける様子もない。

魔術発現の瞬間を見計らう。

詠唱終了の少し前に、ブレスレットを装備した右腕を振り下ろす。


【フレイムカッター】


【フレイムアロー】を打ち落とし広場の逆側にある木製のベンチを焼き切る。

熱風の一閃は他の三人に、軽い火傷を負わせた。

突然の魔術に、三人は驚いた様子だ。

さっきまで、僕いたんですがね。オブジェと思われてたのかよ。


「アッちぃー」


【フレイムカッター】

明後日の方向へ撃ちはなつ。

三人は完全に戦意をなくして、逃げるように去っていく。


「大丈夫かい?」


「別に助けなくてもよかったのに」


「そうかい」


「ありがとう」


ぶっきらぼうに言ってから、アルス少年は立ち去ろうとする。


「待ちなよ。これを持っていきな」


ブレスレットを取り外して、彼に投げ渡す。

怪訝な顔をしながらキャッチする。


「付けてから、上部の紋章に意識を集中してみな」


「俺は魔術が得意ではない」


「僕もだよ」


さきほどの攻撃を見て、その言葉を信じろというほうが難しいだろう。

やはり怪訝な顔をしてから、半信半疑にブレスレットをつけて、上部に意識を集中している。


【プラントウォール】

植物の壁が彼の前方に出現した。


同系統の技や魔術、水系統の技や魔術を防ぎやすくする壁。

また、接近してくる敵から身を守り隠す事ができる。


「で、できた……」


彼は興奮気味に、一礼してから走って去っていく。

たぶん、アルス少年は、魔術の発現は不得意だろうが、魔力量自体は高いはずだ。

魔術抵抗が高いところから、それがうかがえる。


彼はいい使い手になりそうだと思いながら、夕暮れをむかえた広場を見まわして、

宿屋で一杯やりに行くかなと考えてから、宿屋にもどるのだった。

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