寄り道とシバーシンと百万書架・五
――図書館塔
ドレイク討伐後に、スィを探して、図書館塔への入室の許可を得てくる。
この十二時間が至福の時である。
歴史書の記載を眺めながら、過去には神具と言われる各精霊を模した
道具があったところとが書かれていた。
マナの利用制限がない自立型であったとの事。
今まで、光、風、土の精霊回路を見かけた。
おそらく、この図書館塔は、火の精霊回路が張られているに違いない。
火は物事の道を照らすから。
残りは闇、水であろう。
精霊回路の作り方は今だに理解できない。
紋章とは、もともと王の権威を示すためや戦時中の旗、手紙や伝令時に自分の身や執筆者の本人確認のため使用されていた。いわゆる免許書のようなものだ。
そこに、マナを封じて、偽装等を防いだことから、その魔術的な効力が証明されていった。
紋章術においての難しいところは、仲間の強化である。
自分自身が魔導具を利用する場合は、特に問題なく利用できるが、補助的な魔術になると、対象を限定する事が難しい。全員に効果を及ぼす事は簡単でも、数人の仲間にのみ力を与えるのは、複雑な過程が必要になる。
それには、いったん紋章を分解してみることにした。
紋章は、コア部分を記述する。例えば、《氷結》《暴風》などの効力を表すもの。
それと範囲を表す記述。例えば【ウインドボール】は球体である。
それから、対象はとらないので、【ウインドボール】は射出のみ。
ほぼ、直線状に飛んでいきある程度すると、マナが霧散して消える。
それでは、【リインフォース】を仲間にかける場合は、コア部分を《強化》。範囲は点それと強化部位。対象物一つとする。【バイオス】では作成できないので、【バイオス・デュオ】を使い対象を特定する書き込みを加える。常に、効果を持続させる必要もあり、直接繋がりは無いが、マナの道のようなものでつながっている。当然物理的な障害には引っかからないが、その距離により、効果が弱まったり、魔力消費が増える。また、対象者を増やすと同じ事が起きる。
更に、魔術への抵抗力で打ち消されることもある。
マナの道は、魔術により切断される事もある。
今回新しく読んだ書物には、マナの道を作り、遠隔で紋章を起動する事ができる者がいること。マナの道を再現できるものは、書物の初版が書かれた時代の皇帝とクジュラの名を名乗るもののみ。かなり希少な能力であるとのこと。
ただ、魔術技工士の頂に至れば、発現する事ができるとの事。
そういえば、【魂捧陣】で遠隔起動させたけどあれは、これとは違うのかなと考えたが、その答えは得られなかった。
今回の本も読み終わり、そろそろ一二時間が立ちそうだったので、図書館塔を出ることにした。夜も更けているのでスィへの報告は翌日にしようと考え自室へ帰り着く。
ベットに倒れ込み、そのまま闇の中へと潜っていく。
――朝七時・自室
まぶしい光が、部屋の窓からこもれ出てくる。
微睡ながらも、なんとかベットから起き上がる。
瞬間、誰かの気配を感じて身構える。
「昨日は、ずいぶん遅いお帰りでしたね」
淡々と話すその姿に戦慄を覚える。
目がすわってますよ。
「スィさん……怒ってます?」
「お約束をしたと思いますが、図書館塔退出時はご報告をと申し上げましたが……」
「いや……遅かったし……」
「遅いからなおさらです」
「うっ!」
その後、一時間ちかくお説教をされてしまい。
朝夕は必ず一緒に食事をとる事が、今後図書館塔に行く条件となってしまった。
どうもスィは、昨日の二時頃図書館塔から帰らないとの事で、四時まで探しており自室にいるのが分かり。
そのまま、朝まで起きるのを待っていたとの事。
どうして、僕の部屋の鍵を持っているんだい?
怖くて聞けなかった。
――訓練塔
あの夜の一件以降、朝夕は、スィの手作り料理を食べるようにしている。
かなり料理が上手く、キチンがない寮ではなく、料理塔で、学食の材料を借りて作っているようだが、学食で出せば相当な値段がつくであろう。
かなり健康的な生活を送ることができた。
健全な肉体には、健全な魂が宿る。
魔力の質も良くなった気がする。
今日の講義もリザ含めて、いつもの人数しか居なかった。
しかし、その眼の輝きは、以前とは違い皆真剣だ。
案山子に向けて攻撃をする訓練は継続しているが、お互いで使いあい改善点を各々が考える講義のスタイルに変化していった。
それぞれの魔導具の質は上がってきている。
リザなどは、デュアルクラスの魔術まで引き出せるようになっていた。
彼女は見た目に反して、かなり真面目な性格のようだ。
最近はやたらべたべたしてきて、そのたびに、スィが人を殺すのではないかという目をしているが……。怖くて聞けない。
ドレイク討伐戦の時にだした【ウインドボール・クワッドフォース】を発現させる。
学生たちは、それを真剣に見ていた。
国宝並のその魔導具をこの数日間で作り上げた事。
強力な魔力消費、しかも詠唱では時間がかかる威力の魔術を、ほぼウェイトなしで、発現させた事への尊敬のまなざしを向けてくる。
討伐戦で半信半疑だった噂の証明を見て、尚更学生たちは興奮しているようだ。
大先生と呼ばれるようになった。
講義が終わり、各々が別の講義やアルバイトなどにいく。
「このところの学生は、あなた様の講義を楽しみにしているようですね」
嫌味ではなく、素直にほめてくれているようだ。
「ありがとう。ところで教えてもらいたいことがあるんだけど、いいかな」
「何ですか?」
「道術についてだけど、前回の試合の時に、中盤全然攻撃が当たらなくなったのはどうしてかな?」
「お分かりなのにお聞きするんですね」
「三道は自力で発動できる。ただ、あれはその三道とも違ったようだけど」
「おじさまの三道は、究極の集中を追求したもの。深層へ落ちていく道。
それに対し、わたくしの【仙道】は、意識の上層へ昇華させる道。究極の分散。あなた様は戦闘中に水の流れ、風の声、大地の香り、火の揺らぎを感じた事は、ございますか?」
「……」
その言葉、体にしみこんでいるその言葉を彼女は知っていた。
究極の集中と分散、反面するそれらが、頭の中をかけめぐる。
【仙道】
【フロストアロー】【フレイムアロー】【ライトニングアロー】【ウォーターアロー】【グランドアロー】
「!」
無詠唱でも驚くべきことだが、五つの魔術を同時に発現させた。
それに、属性が全て違う。
これが分散思考が成せる業か。
あの試合では、手を抜いていたな。
【仙道】
彼女から放たれる五連撃を、回避し着地すると同時に、
【ウインドボール・ペンタフォース】
通常一つずつ読み込むべき魔術回路を、5つ同時に読み込み。
発現までの時間を短縮した。
当然彼女に、当たらないようにずらして、逆側の壁に暴風の塊を当てる。
轟音と共に、空気が荒れる。照明器具が壊れ落下してくる。
内装が削られ、外までむき出しになる。
「いくら何でも、二度見ただけでは、道を探し当てる事はできませんよ」
スィは、驚嘆していた。
ただ、僕としては、ずっと心に残る言葉を実行しただけであり、二度しか見ていないのでは無い。だから、そこに心を配置できた事には、決して驚いてはいない。
「たまたまだよ」
何となくはぐらかす様な言い方になってしまった。
「そうですか、講義お手伝い頂ありがとうございました。夕食までの四時間は図書館塔に行っても構いませんよ」
何だか、自分が彼女のペットにでもなってしまったのでは無いかと感じる。
それでも、そう言われて、遊ぶ時間を貰った子供の用に嬉しいと思うところから、自分が恐ろしく彼女に順応していることに気づく。
いや、気づかないふりをしよう。
図書館塔には直行せず都市の外に出てみる。
何故でたかって、決して拘束されるのが怖かったわけでは無いんだ。
外の空気を吸いたかったんだ。
《あんな美人なのに、独占欲が強いなんて、いつかお主殺されるやもしれんぞ。あなた様を殺して、わたくしも死にますって……》
「勘弁してくれ」
まさに、思っていたことを直球で言われると困るとは、このことだ。
《でも、儂もそんな風に深く愛されたいのう》
「深く愛してくれてるのか、深く愛している自分を愛しているのか分かったものではないよ人は」
《お主、その歳で悟っておるの……釈迦か》
「何で、元の世界の教祖様の話が出てくるんだ」
《ところで、中々お主と連絡が取りにくくなっているが、最近は精霊関連の事に巻き込まれておるのかのう》
そうか、この次元の狭間の世界は、精霊回路がある場所には、出現できないのか。
ちょうど講義中であったことから、ブローチも外してきていたから、ここにはこれなかったのか。
《お主、今シバーシンに居るのじゃな?図書館には行ってきたか?》
「ああ、いろんな本を読ませてもらっているよ」
決して、紋章学や精霊回路についてとは特定しなかった。
《その様子では、まだ儂には至れていないようじゃのう》
「どういう意味だい?」
《自分の目で確かめよ。それより、モーガスでは中々ふるえる闘いじゃったな》
「二人のモーガスのおかげだよ。僕はなるようにしかなっていない」
《それは、それでよい。儂からは、これをくれてやる》
そう言うと頭の中に、構造が流れ込む。
【リーディング】《解読》
『元始回路』
「なっ!」
『精霊回路』『魔術回路』の二回路しかないのではないか。
しかもこの回路は、他の回路と違い、迂回路となる。
《どうじゃ。この回路は迂回路じゃ。例えば魔術回路に付ければ、術者のマナを生命維持に問題ない程度に吸い尽くす。例えば、魔力量一が生命維持に必要な魔力量だとすると、魔力量一の者からは発現しないが、魔力量が二以上あるものについては、その魔力量を一にするまで吸い尽くす》
「術者によっては、とんでもない力を引き出せるということかい?」
《そうじゃよ。お主がその腕輪のように、同じ紋章を重ねて威力を強化しているが、その紋章の制限がなくなり、強制的に吸い尽くして発現するイメージじゃな》
「使い手によっては、世界を押しつぶす事ができるという事かい?」
《何をいっておる。魔石を自由に構成し、蓄積していくお主は、すでに少し時間を掛ければ、この大地を焦土にする事など容易にできるがのう》
新しい回路がある事自体も驚いたが、それが規格外であることにも驚く。
「あ、あなたの目的が聞きたい」
動揺が隠せていない。
まだ、こいつには勝てないだろう、それが、僕自身にとって望んだ答えじゃなくても抗えない。
《儂は、本物のレオナールが望んでおった、平等な社会を目指しておるだけじゃ。それでは、その使い道には気を配ることじゃ》
ただの、檜の棒でさえ、紋章によっては、世界を滅ぼす剣になりうる力。
精霊回路に迂回路を作ったらどうなるか考えたくもなかった。
勝手に、重いものを託して、勝手に消えていきやがったよ。
――図書館塔
『元始回路』についての検索を行うが、見当たらなかった。その他回路についても、精霊回路すら、伝説的な扱いなので、見つからなかった。
それに大部分の時間を使ってしまい。
図書館塔を出たのは、約束のギリギリの時間になってしまった。
――自室
温かい料理を用意して、スィが座っていた。
「ごめん、遅くなったかな?」
「まだ、二分余裕があります」
こ、怖いんですけどスィさん!
ビビッていると、
「それでは、食べましょう」
「はい……いただきます」
金髪、碧眼の外国人的スタイルなのに
大正時代の士族の女性の様で、頭が上がりません。
食べ終わってから、スィは食器を片づけにいき。
しばらくしたら、本を持ってきて、僕の部屋で読みだす。
僕も、図書館塔から借り入れた本を読む。
彼女が、食器を片づけている間に、紅茶を用意しており、お互い本の区切りには、口にコップを運ぶのであった。お気に入りの木製の椅子に座り、僕は本を読む。
彼女は、僕のベットによりかかりながら読むのがお気に入りのようだ。
本の捲れる音と、カップを置く音だけが聞こえる。
ある程度時間が過ぎると、彼女はモジモジしだして、コップを洗ってから帰る。
次の日は、七時頃、食事を持ってきた彼女が起こしてくれ。
何故か分からないが、いつも起きると顔を覗き込んでいる。
まあ、いいや。
――昼
図書館塔に籠っている時以外は、リザの働くレストランで昼食をとる。
入店すると、必ず彼女が対応する。
リザ以外にもアルバイトが居るが、僕の顔を確認すると、何故か引っ込んでから、リザが出てくる。
「よくきたな。さあ空いてる席に座りな」
「客に対する態度ではないが……」
「レオ先生そんな細かい事気にするなよ」
「ああ」
レオ先生と呼ばれている。
この店のおすすめメニューは、その日のアルバイトの子が決めるらしく、来店すると必ずリザの選んだおすすめになる。
だから、メニューさえ渡されないから、実は、この店に他にどんな料理があるか知らない。
なんて店だ。
それでも、彼女の選ぶ料理は自然と、口にあう。
それに気づいたことがあり、絶対に前の日の朝食と夕食とは、被らないのである。
うれしいのだが、料理が出てくるまで、結構時間がかかる。
それに、食後はサービスの紅茶とリザとのお話しタイムが待っている。
彼女の出身は、リッポニで漁師町らしい。
彼女には、兄弟がいるらしい。
彼女は、かなり酒が強いとの事。
彼女は、魔導技工士になって、家族の船が沈没しないような魔術回路を施したいらしい。
それ以外の話もいろいろした。
少しこちらも気を使って、必ず午後三時頃に来店している。
午後四時を回り、そろそろ出ないとと思ったところで、彼女は話を区切る。
別れを言ってから、店をでたのと同時に学園長より連絡が入る。
――学園長室
生徒会のメンバー五名とスィ他一〇名以上の講師が、集合していた。
皆少し深刻そうな顔をしていた。
「よく皆集まってくれたわね。今から話すことは、学生には暫く漏らさないようにお願いするわね」
皆無言でうなずく。
「偵察班からの報告では、今現在当学園に向けて、魔獣の集団が進軍しているとの事」
少しざわつく
「当然、皆を呼んだということは十や二十ではないわ。二千程との事よ。当然、その規模になれば必ず統率者がいるはずね。現在その正体は捜査中だけど。進軍速度から考えれば、三日後には、到達する予定とのことよ」
明確な混乱が見える。
まだ大戦から八年しかたっていないのに、当時従軍していたであろう講師陣まで動揺する。
それでは、他の学生をまとめあげられるか不安だな。
「どのような種族の魔獣で構成されているのでしょうか?」
誰もが混乱してい思考停止しているので、僕が自発的に聞く事にした。
講師陣の中には、出しゃばりと捉えたのだろう、明らかに敵意を感じる目線を受ける。
「現状正確には不明であるが、陸にはゴブリンとオークと弱い種族であるが、上空がドレイクをはじめ竜族での構成とのことだよ」
「それでは、魔族でもドラゴニュートか、魔獣ならドラゴンが指揮をしている可能性がありますね」
「それに、大きな地響きが聞こえたそうだから、陸戦も楽ではないとのことよ」
「地響き?巨大生物か、はたまた偵察からの連絡以上に数が居るか」
「要するに、その魔獣たちを撃退しなければならないという訳よ。簡単でしょ?」
簡単に言ってくれる。
この中で、本当に実践で使える者は、深淵の魔女シバーシン、スィ、そして生徒会メンバーと僕であろう。
敵の状況が分からないのでは対策も立てられない。
要するに、籠城戦という訳か……。
ただ、三日もあれば、やれることは多いように思えた。
今回は、幸い籠城戦であり、待ちの姿勢でいればいい。
各々の役割分担を説明される。
当然総指揮をとるのは、シバーシン本人だ。
この都市にある正門を含めた四門の警備を、生徒会メンバー、スィ、各講師陣が残りの二門を守る配置となった。
元々、魔獣の襲撃を受けやすい都市であり、各門には魔導砲などの兵器が置いてある。
各々準備を怠らないように、再度注意喚起があり、解散となる。
帰ろうとしたとき、シバーシンから残るように、呼び止められる。
「私は、自分の学園の生徒が傷をついたり、最悪死んでしまう姿を見たくないのよ」
「それは、長である立場からも、人としても当たり前の感情だよ」
「そう、ただ今回の大規模な籠城戦で、犠牲者がでないとは思ってないわ」
「僕が配置されないのに、召喚されたのと関係あるんだね」
「物分かりのいい子は好きよ」
「……」
「地響きの正体は、ベヘモトの成体よ。しかも複数体いるそうよ。籠城戦において、あれは危険なのよ」
「壁を破壊されたら、少なからず犠牲者がでる」
「そうね。はっきりいって、この戦は私がいるかぎり負ける事はないわよ。ただ、どう勝つのかが重要なだけね」
「わかったよ。敵がここに到達するまでに、戦力を削げばいいんだね」
「これは、その助けになるわ」
漆黒の指輪を渡された。
アメシスとが埋め込まれているのか、紫色の輝きを放つ。
「……なぜこれを?」
「私は、君を気に入ったからあげるのよ」
「違う、なぜ精霊回路の使われた魔導具を持っているんだい」
「わかるのね、あなたは……。この価値が分かるのなら、もうそれは、あなたに託すわ。私には、荷が重いもの」
「重い物をすぐに人に負わせるんだね」
「男の子でしょ?」
「ジェンダーハラスメントだが……」
これ以上話す必要はないという顔で彼女は笑った。
「最後に、最大の課題があるのだが。スィと毎日、夕食と朝食を食べなけばならないという約束があるのだが。どうしようか?」
彼女は、苦虫を咬んだ顔になり
「娘を説得するのは、一苦労しそうね」
とため息をつくのであった。
「むっ!むすめ~!」
今日一で驚きましたよ。
本当に。
評価ありがとう。
かなり甘い点数つけてもらったようで。
誤字や読みにくい言い回しが多いのは、今後是正していく予定
これからも、他の作品の足し程度で構わないので、読んでくれるとありがたい!




