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寄り道とシバーシンと百万書架・六


――シバーシン西方山岳地帯


地響きが山に木霊する。

一体でも迫力は十分あるが、それが三体分になると圧巻を通り越して恐怖でしかなかった。

二千体かどうかは分からないが、相当量の魔獣が群をなして進んでいる。

偵察による日数予想通りの進軍速度であろう。

三体のベヘモトに速度を合わせている事から、進軍速度は速くはない。

ベヘモトの成体は、幼生に比べてその大きさは、五倍近くとなっており、この巨体の突進では、シバーシンの薄い壁では一溜りもないだろう。


これだけの大群が、一つの目標に対してまとまるには、かなりの統率力を持った者が先導しているのだろう。

空を見上げれば、巡回するようにワイバーンがそれを無数に待っている。

何だか、ベヘモトの速度に退屈しているようにも思える。

ワイバーンも地上に降りて休むのであろう、道の端にも何百という数がいた。


「どう掻き乱していくかな?」


魔獣は、夜行性の者が多く昼はやや動きが鈍い。

ただ、この軍団は、ワイバーンなど昼間活発に動く種との混合になっており、

白昼での襲撃もあまり効果は無いだろう。


「取りあえず、食料関連から叩くとしようか」


これだけの数の魔獣である。

一体一体の食料消費は、莫大であり、おそらく通過した町は草の根さえも生えていないであろう。貯蔵という考えかたがあるかは不明であるが、これだけの軍団を作れるだけの才覚の持ち主なら、知識も人間並みにあると考えて間違いないだろう。


軍のつくりはいたってシンプル。

ベヘモトを先頭に、速さを重視した巨大な狼や恐竜の様な爬虫類系の生物がそれを取り囲む。たまに、先頭集団を通り抜けるそれらの生物は、偵察隊であろう。

かなり慎重な指揮者と見える。

次に、空には無数のワイバーンが飛んでおり、数体で一つの塊のように動いている。

こちらも、いくつかの方向に分かれて、本隊から離脱したり戻ってきたりを繰り返している。


その後ろには、馬型の魔獣が馬車の様なものを引いている。

当然、人族が使う大きさの比ではない。

それが、数百体程連なっている。

凄まじい悪臭が漂っている。


「あれが食事ってわけか、あんなものを食べて良くお腹を壊さないね」


お腹がもともと弱くて、埼玉から都内にでるまでに、途中下車してトイレに駆け込んだことがある僕にはとてもうらやましかった。なんてね。

大学時代だったが、何故か急に腹痛になってたなあ。

社会人になったら収まったけど。

今は、どうでもいい事を考え気を紛らわせる。


一向に、指揮者が分からない。

更に後ろには、巨大な蛇や、羽の無い竜が地面を掘り進んでいる。

空中からの攻撃よりも、地面からの攻撃のほうが危険であると判断。

昼である今のうちに、一端襲撃する事にした。


軍の全体像は分かっても、個の力など分からない状態で、突撃するのもつらいものがあるな。


【テンペスト・クワッドフォース】


暴風が、軍団の中心であり食料の運搬を担う、馬に似た魔獣に襲い掛かる。

轟音と稲妻の輝きが、晴れた昼の日中でもはっきり見えるほどだ。


【ライトニング・ウェポン】


両手の鉄鋼から、稲妻が走る。

その輝きにより、ワイバーンが索敵に成功する。

こちらに方向を定め突撃してくる。

数十匹が迫ってくるが、強化された脚力にて索敵範囲から離脱する。

次に、ワイバーンが僕を見た時には、多くの馬型の魔獣を、雷の拳で撲殺している光景だった。できる限り多くの魔獣を削っておかなければならない。

四方八方から飛んでくる攻撃を、【仙道】で、よけていく。

ワイバーンが反転して、再び襲い掛かる姿勢となるも、混戦により空中からの攻撃はあまり効果があるものでは無くなった。


馬型の魔獣を根こそぎ倒し尽くしたところで、空気中のマナの流れが変わったことに築いた。その瞬間、自分の真上の雲が、紅く染まった事に気づいた。


【テレポーテーション】


後方に、瞬間移動するなり、今まで立っていた場所が、炎に包まれ、埃や塵が舞い上がる。

馬型の魔獣の死骸が、炎に包まれ焦げて、むせかえるような匂いがあたりに充満する。


「なるほど、見えないと思ったら、そちらにいたんだね」


この軍団の指導者にして、天空の覇者。炎竜が炎のブレスを吐きながら降下してくる。

着陸と同時に、その周りに、無数の炎の玉が出現する。

炎竜がこちらを向き、一声吠える。

その咆哮と共に、炎の玉がこちらに向かい襲ってくる。


避ける事は可能であるが、周りの酸素が激減して、運動能力が低下する。

それと、避けたと思っても、その熱量は肌を徐々に焼いてくる。


【アクアウォール】


水の被膜をはり熱量を緩和する。

その瞬間、炎竜を見失う。

背後に殺気を感じ振り向くと同時に、


【ウインドボール・デュアルフォース】


暴風の玉を、打ち込む。

対象に命中するも、それは意に介さず此方に拳を振るう。

左腕でその拳を受け止めるが、衝撃波により後方へ吹き飛ばされる。

受け止めた左腕は、炎に焼かれたように火傷を負ってしまった。

相手の拳が、赤々と燃えているのが見て取れる。


「さっきまで、空飛ぶ蛇の形だったと思うがね」


その人型をとった赤髪の青年は、炎竜が人化している姿だろう。

それは、不敵な笑みを浮かべ、更に距離を詰めてくる。

攻撃そのものは、避けられない訳では無いが、纏った炎により、徐々に体力を削られてしまう。そして、時折竜化してブレスや羽による攻撃を繰り出してくる。

その変幻自在の闘いにより、僕には動揺と焦りがうまれ、防戦一方になってしまった。


「人族も意外とやるものだな。ああ……もしや、魔人なのか」


赤髪の青年は、攻撃を繰り出しつつ思案顔になる。


「喋れたんだね。じゃあ聞くけど、なんでこんなことをしているんだい?」


「こんなこととは、俺たちの進軍の事か?」


「それ以外にないのだが」


「当然、領土の拡大にきまってるだろ。最近は、戦が無くて暇だったからな」


「平和が一番いいとは思わないのかい」


「思わないね。平和とは停滞だ。いや、退化といったいい。生物の進化には、必ず生存競争が発生する。それに勝ち抜くために、生物は力をつけていくのだ」


「平和の中でも、その余剰時間で、生物はさまざまな産物を生み出してきたんだ。戦のみが発展に繋がるものではないし、平和な時代でも経済的な競争原理はあるよ。豊かさと競争のバランスをとれば技術発展の機会は十分にある」

「人族や魔人様の理論でとおすんじゃねえ!見ろこいつらを!何の考えもなく食欲を貪り、群れのボスである俺に従う。こんな奴らが、平和な時代に技術発展できるかよ!獣どもは、熾烈な戦いの中でしか進化できねえ。だから、俺はこいつらに機会を与えているだけだ、戦が起これば、マナが活発に流れる。そのマナの力を利用して、次のステージへ進化させる。それが、ただの凶暴化だったとしても、戦わせ続けて、いつか至高の全へとなる。俺を含めてな!」


また、マナを求めた戦いか……。

竜化した彼のブレスが、襲ってくる。

【テレポーテーション】で後退しつつ、


「至高の全とは、神話の神とは違う。全知全能であるがゆえに無知無能だからだよ。知や力を有する必要さえないほど絶対だからだよ。神話の神々は、それから比べれば超人と変わり無い」


「それでも、神になれば至高に近づくことができる!神でもないお前の言葉では俺はゆらがん!」


「それもそうだが、自分の認識が甘かったよ。人族と魔族の対立構造ばかり考えていたが、魔人と魔獣にも溝があるのだと気づかされた。神へと至る道を求めるのは人も一緒だよ。ただ君のやり方ではそれに至る事はできない」


「やり方の違いだけだ。人は知力でそれに近づくが、獣は武力でしかそれに近づく事が出来ない」


「知力だけでは至れないよ。もちろん武力だけでも。だから、共存するしかない、それがお互いの為だと思わないのかい?」


「戦いもある意味互いの為だ!その中でマナが活性化して互いが高みに至る!」


たしかに、この戦闘でもマナが活発に動いている。

【テレポーテーション】と【ライトニング・ウェポン】の連撃を繰り出すたびに、炎の拳が交差する。互いにマナを消費する事により発生する、攻撃の応酬。

大気中のマナが、取込まれ、事象へ干渉して、マナへまた帰る。

その間に、たくさんの思考をしていくそれは、全体に伝播してまた個にかえる。

更に活性化したマナを取込み続ける事により、術者自身の形状を変化していく。


ワイバーンや他の魔獣が、この戦いに横やりを入れる事は無い。

なぜなら、関われば死亡する事が確定してしまうからだ。


「分かるか!この高揚感が!」


炎竜は興奮気味に、攻撃をし続ける。

さっきより火力が上がり、炎の色が青にかわる。


「分かるぞ!分かるぞ!これは始まりだ。これが、竜人の始祖がたどった道。マナが溢れる!体が熱い!至れる、至れるぞ!」


マナの枯渇は分かる。僕も最初のうちは酷い虚脱感を感じたりもした。

でも、今の彼は逆だ。

マナを取込みすぎている。器がそれを受け止め切れていない。

たぶん彼の言った通り、各魔人の始祖が辿った道だろう。

ただ……。

彼は至れないであろう。

自然とそんな思いになった。


熱量が更に上昇していき、その拳は振るっただけで、前方は焼け野原となり、回避しても肌を焦がしてしまう。竜の息は、岩ですら溶岩へ変質させることができ、その羽ばたきで起きる熱風は、多くの酸素を吸い取り、逆に多くの死をばら撒く。


体の大部分が火傷と裂傷で黒く変色してしまった。

後数回で攻撃をかわす事ができなくなり、体は炭化してしまうかもしれない。


「俺は……高み……へ……のぼ……る」


「君はマナに飲まれる。その果ては虚無だよ。そして、最後に言っておこう、知性を持った人間に与えられた責任は、それ以外の生物を導くことだよ。決して同等とは扱わない。愛護とは、言葉は良いが『護』とは、自分より立場の弱い者に使うからね。偽善だよ。君の言う通り、魔獣は報われないさ。今もそしてこれからも」


「……俺が……かえ……る。あ……いつら……の為に」


【ウインドボール】


炎竜の体を吹き飛ばす。

馬の魔獣が倒れているエリアの後ろまで飛んでいく。


「君の思いが、君の仲間を傷つける様を見て逝きなよ」


炎竜の体が、限界を超えてマナが周囲を覆い尽くす。


「やめてく……れ……」


自分の意思とは関係なくマナが集まる。

体中に、無数の路が刻まれる。


「精霊回路!何故ただの肉体に現れるのか。誰がその路を開いたんだい?」


精霊回路が炎竜の体を覆い尽くし発光する。


「まずい!」


ただ、周りの数匹を巻き込み炭化するだけと考えていたが、このままではそれでは済まない。


【テレポーテーション】


マナが尽きるまで無数のジャンプを繰り返す。

相当な距離がとれたと思い振り返ると、目を潰しかねない光が風景を侵食する。

その後から、爆音が響きわたる。

その音は、ベヘモトの足音の比ではない。

熱風は周囲をもやし尽くす、多くの魔獣は炭化して原型が分からない黒いモノとなった。

爆心地の周囲では、マグマが広がり、岩が沸騰していた。

遠目でもわかる。

戦いでの激痛を今さら自覚して、その痛みで意識を失ってしまった。


その後、魔獣たちは最後の抵抗なのか、指導者を失っても進軍を続け、シバーシンに至ったとの事を聞かされた。


『知性』ではなく、それは『意地』だったのであろう。

鬼畜主人公になってしまった。まあ、鬼成分があまりなかったから良いか……

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