寄り道とシバーシンと百万書架・肆
――学園内訓練塔
夜型体質にとっては、午後からの授業で大変助かった。
訓練塔には、僕を含め五人の生徒しか来ていなかった。
本当は四十人だそうだが、さぼりの学生が多いらしい。
一通りの自己紹介を終えて、後ろで見学させてもらう事になった。
スィの専攻は、『マナの発現と魔術回路の歴史』であり、ここにいる将来魔導技工士を目指す学生にはあまり関係はない。しかし、講師が少ない事から、仕方なく授業を受け持っている。この中から、魔導技工士のメッカであるクジュラに行く学生もいるらしいが、他の講義に比べ、モチベーションが低いのも見て取れる。
新米講師の授業は、単位が取りやすく、無駄な教本を進められない事から、ある種人気が高いらしい。
「今日は、みなさんの作成した、魔導具を試してみます」
訓練塔には、『案山子』と呼ばれる威力計測を行うシステムがあるらしい。
他にも、学生同士の試合や、対魔獣戦のシミュレーションができるらしい。
まるで、多相童子の様だが、その質は圧倒的にありそうだ。
案山子が発現する。
この四名は、それなりに魔導技工士への夢があるのであろう、しっかし自分自身が作成した魔導具を装備していた。皆、腕輪にそれぞれが得意とする魔術回路を施し、案山子に向かい魔術を発現させる。
威力としては、あまり強力とは言えない。
「みなさん、よくできていますね」
まあ、この程度が、妥当なのだろうか。
つくりの甘さなのか、魔力の強さなのか判断はつかないが、おもちゃレベルだ。
「それでは、単位終了までにその腕輪に、いくつまで魔術回路を施せるか、みなさん努力してください」
その後、何やかんやで魔術の発現の講義が終わり解散となった。
この学園は、講義時間は四十分弱で、卒業までの必要単位をとる事だけ考えると、一日約三コマ受ければいいのである。四十分とは人が集中できる時間であり、コマ数が少ないのは、課題が多いので、自主的に学生が調べる時間を確保する為だそうだ。中には、要領よくこなして、ほとんどアルバイトや遊びに費やすものも多い。
この世界では、学園に入る頃にはすでに成人とみなされ飲酒も可能である。
講義が終了して、訓練塔では、次の講義も無いとの事で、少し立ち話をする。
「学生に魔導具を作らせているんだね」
「ええ、なかなか難しそうですが」
「先生は、作れるのかい?」
「はい、先生はやめてくださいませ。スィで構いません」
「そうかい。では、二人でいるときはスィで構わないね。作ったものを見せてもらってもいいかな?」
「今後御見せします。ところで、レオナールさんも、お作りになるのでしょ?」
「まあ、それなりだけどね」
先ほどの、生徒たちが作った魔導具に比べれば、それなりでは済まないが。
「では、そちらも今度御見せいただければと存じます。それと、申し訳ないのですが、せっかく訓練塔に居りますので、一つお手合わせをお願いできますか?」
「そういえば、君も魔獣出現時の討伐担当の講師だったっけ」
「ええ」
彼女がそう答えた時から、五つの影が、訓練塔を囲む。
恐らく、生徒会さまであろう。
何でこうも、学園とつく場所の生徒会さまは権力をもっているんだろうね。
「かまいませんよ。しかし、僕は自力では魔術を発言できないので、魔導具を使わせてもらってもいいかな?」
少し驚いた顔で、了承してくれる。
「それなのに、魔導技術士を目指してらっしゃるんですね」
「不思議かい?」
「いいえ、夢はどんな形でも持つべきです」
どこかで聞いたような台詞を言うなと思っていると
「それでは、参ります」
途端、スィの詠唱などのプロセス無しに、
【オールリインフォース】
【テレポーテーション】
【ミッド・エクスプロード】
《転移》《爆発》の構造が頭に流れてくる。
思考のみでプロセスを組めるのか。
やや焦る。
瞬間、彼女が目の前まで飛び込んでくる。
『間』どりも上手い。
突き出す右手は、紅く燃えており、回避することはできたが、その後の爆風で吹き飛ばされてしまった。
「さすがですね。まさか初手を避けられるとは思ってもいませんでした」
「さすがは、どちらの事だい。あんなすごい初手は受けたことがないよ」
【地獄道】
紫のオーラを纏いながら、それだけの集中力が爆発的に発現しなければ、よける事はままならなかった。一気に、本気まで引き上げさせられた事に、非常に驚きを感じた。
「おじさまの道術ですか……」
おじさま?
深く考える余裕もなく、彼女のヒット&アウェイに翻弄させられた。
既に、周りの五人については、試合に集中しているのであろう、気配がけせていない。
まだまだ、実践経験のない学生であるから仕方ないが。
フォルダから、紙の札を引き抜く。
【インビジブル】
札は燃えるように消えて、術者の姿を隠す。
スィは、見定めていた方向に、対象物がなくなったことにより、一瞬であるがためらいを持ってしまう。
後悔した瞬間、彼女の息が一瞬止まり、横方向へ強制的に吹き飛ばされて、壁に激突する。
手ごたえがあまり無いことから、まだまだ決着していないことが分かった。
彼女が、立つ素振りも見せずに、目の前まで詰められる。
再度、
【インビジブル】
札が、もう一枚燃える。
今度は、左脇めがけて打撃を加えようとした時
【仙道】
拳が空を舞う。
見切られた?
いや、流れを読まれたのか!
スィの反撃を、『軟』でいなす。
また、彼女は壁に激突する。
しかし、明らかに流れが変わっている。
また同じ手は通用しないだろう。
王鬼や帝鬼と対した時と同じプレッシャーを感じる。
心、技、体。心は【仙道】に置き。技は多彩な魔術で補い。体は、人族では考えられないほどの魔力。
彼女の戦い方は、モーガス達のそれだ。
強敵だ。
だから、面白い。
では、どれを削ごう。
まあ、順当なところで『体』だな。
フォルダに入っている。
キューブに手をやる。
【森羅万象】
訓練塔には似合わない一本の木が出現する。
スィは不審そうな目で一瞬みやる。
根による攻撃が、スィに襲いかかる。
スィは難なく回避し、こちらとの距離を詰めてくる。
甘んじて、その爆風に巻き込まれ。壁の隅まで追いやられる。
時間稼ぎに、やられてばかりでは気が済まないので、こちらも間を詰める。
彼女は、強化とは別の何かにより、先ほどより、流れを見ることができるようになっているのであろう。
世界樹が根の攻撃だけでなく、空気中のマナを吸っていることも分かってはいるだろう。
数度の攻撃も、当てることができず。
スィの打撃により、また壁に激突する。
相手の体力を削る前に、こちらの体が持たないようにも思えたが
【魂捧陣】
「なっ!」
壁に追いやられるたびに、フォルダから札を抜きナイフで固定していたのだ。
バイオス・デュオでそれぞれをつなぎ合わせて、陣を作成した。
【スピード・リインフォース】
札を切る。
徐々に吸われるマナに、スィの動きが少し鈍ってくる。
こちらは、少しづつ回復しているので、空気中のマナが枯渇しても問題は無い。
流れを読む力が減少している彼女を、取り押さえる。
「きゃっ!」
彼女の太ももに、札を直接つけて魔術を発動する。
【ライトニング】
マナを吸っているので、対魔力が極端に下がっていたようで、電撃を直接うけてしまい。
悶絶してから、虚空を覗き、意識を失ってしまった。
「やりすぎたかな?」
寮までは近いが、スィのこの姿を周りに見せるわけもいかず、札を切り姿を隠して彼女を部屋まで運ぶ。彼女の部屋の鍵が無いことから、僕の部屋に寝かせておく。
寝ている女性がいるなかで、何かすることもできず。
早速、百万書架と言われる図書館塔へ行くことにした。
本の迷宮、その言葉がしっくりくるほど、書架が入り組んでいた。
「これでは、見たい本の棚がわからないじゃないか」
そうつぶやきながら、歩いていると。
その迷宮はまるで意思を持っているように、魔術回路についての棚へいざなう。
「精霊回路か?」
まあいい。
今は、目の前にある知識の塊に、集中していたいところだ。
端から一冊づつとり、近くの木階段に腰を掛け、読みまじめる。
人には、三大欲求のほかに、知識欲というのがあるらしい。
知りたいという欲求は、知的生命体にのみ与えられた恩恵である。
だから、ものの本にも、一生勉強などと書かれている。
知識欲がある限り、知りたいと思うのは必然であり、わざわざ勉強と言わなくてもいいのにとおもってしまう。
回路の仕組みから、マナのあり方、伝説として精霊回路があること。
紋章学と銘打った本もある。
雷帝クジュラの曽祖父が書いたとされるそれは、クジュラが返還を求めるほどの秘術書であったが、ここにはおかれている。
また、秘術の中には、禁術もあり、ネクロマンス系の術式から、ホムンクルスの作成術式まで記載されている。しかし、当然理解は不可能である。
いずれ理解する事ができるだろうと思い、その周辺の本も読み漁る。
周辺知識を望めば、隣にその本が置いてある。
この精霊は、情報においてはかなりの検索能力、それと人の思考を読む力が強いのであろう。恐ろしい力だ。
恩恵を受けながら、そう思うのは矛盾があるとは分かっているが。
――四日後、図書館塔
寝食を削り、本へ集中していたようだ。
自然と心の置き方を、【餓鬼道】として、本と真剣に向き合っていた。
彼女が来なければ、死んでいたかもしれない。
スィが、忍び寄り強制的に意識を飛ばされた。
――寮の自室
まだ、意識が朦朧としている。
隣に、誰か居るのが何となくわかった。
「起きられましたか?」
「あ、ああ……」
「スープになります。あまり重いモノは体に障りますから」
シチューの様なスープを飲み。
自分が、飲まず食わずで本と格闘していたことを思い出した。
「迷惑をかけてしまったね」
「いいえ、わたくしこそ。この前は、ご迷惑をおかけしました」
スープも食べ終わり、しばらく二人で各々の本を読んでいたが、夜も深まり少しモジモジしながら、スィは帰っていった。明日、講義がある旨を伝えてから。
――訓練塔・二回目の講義
今回も、講義には以前のメンバーが集まった。
一つ違うのが、リザが居た事くらいだ。
「この講義は、取るのが簡単だからね」
と彼女が言っていたが、だったら出なければいいのに、この時は、わざわざ講義を受けにきていた。
「あんた、この講義の講師代行なんだ。学生としてきたのかと思ってた。それとも、スィちゃんのいい人なのか?」
講義そっちのけで、質問攻めされる。
華麗に、はぐらかしながら。
リザが、不満めいた顔をしている頃。
以前と同じく『案山子』に向けて、各々が腕輪に込めたサーキットを輝かせ魔術を放つ。
リザも用意していたようで、
【ニードルスピア】
【フレイムボール】
他の四人に比べ、精度の整った魔術が発現する。
皆へ、スィの賛賞と、今後の添付する魔術回路の相談をしているところ一つ提言してみた。
「悪いが皆、時計まわりに、それぞれが作った腕輪を使用してみてくれないか」
ただ見ているだけの人だと思われていたのか、リザ以外は以外な顔をしていた。
リザは面白そうに笑っている。
結果は、リザ以外の腕輪は発動しなかったり、発現が極端に弱かったりという結果になる。
「魔導技工士は、己自身の強化を目的としているわけでは無い。使用者にとってどれだけ有用なのかが重要である。例えば、君のは、この回路部分が、二重になっているから、初めて使用する者にとっては、負担が増える。そして君は、この魔術回路が右に巡回しているが、それでは、二本目のこの回路と被ってしまう。マナが混乱して、その意思が若干迷子になってしまうんだ」
それから、四人とリザには改善を行う。
次の講義のある者は帰ってよいと言ったが、誰も帰らなかった。
それぞれの、魔術回路が完成し、お互い使えるかを試したところ、以前とは違いそれぞれが上手く発現する事が出来た。
汎用性の重要性など気に止めず作っていたが、『誰が、どう使うか』は意外に重要であったと再認識させられた。
人にものを、教えるということは、自分の頭を整理し直す事につながるらしい。
スィにもお礼を言われ。
リザからは、また食べに来るように言われた。
自分自身も腕輪を貰い、魔術回路を作成させてもらうことにした。
スィには、一日一二時間という約束で、図書館塔に行っていいと許可を貰っている。
今日はこれからこもる事になった。
わざわざ、彼女に会いにゆき。彼女に時間を確認してもらい。
終わったら、彼女を探し、終了報告をしなければならなかった。
確かに倒れそうになったが、ここまで締め付けなくてもとは思う。
本を読んだら、知識人になれると勘違いしている人が多いが、本はあくまで実践につかえなければ意味はない。自分自身で噛み砕く力が、読書には求められている。
分かったつもりでは、読んでいないより悪い。その時間を消費したことを考えれば。
今回は、魔術回路の連結に関する本を読み漁る。
腕輪も持ってきているので、試しに風の魔術について、書き込んでみる事にした。
まずは、どの属性を使うかだが、当然『風』の魔術。
それからどのような形状の、魔術にするかだが、球体の魔術にした。
その二つが決まれば後は、書き込んでいき通常、形状は斬撃タイプなども加えて。
【ウインドボール】【ウインドカッター】などにするが、形状部分に更に、『風』
についても書き込みを行う。
【ウインドボール】を最大限引き出すような格好だ。
その回路を、更に四つ作成。
それぞれが干渉しあい打ち消してしまったり、魔力不足で発現しなかったりということがあるので、連結には、直径最大十センチ以上のボールが作成できない場合は、一つ目の回路で、魔術発現する仕組みにしてある。
魔力量が多ければ、五段階目の【ウインドボール】が打てる仕組みである。
流す魔力量は、ある程度術者に依存するので、威力調整は、その流す量と比例させた。
並列での接続では、魔術回路が五つも必要になり、他の回路が書けなくなるのが難点だが、
更に高度になってくると、層にすることができる。
まだ、読んだだけで、自分の糧にはなっていないが、必ずこれも成功させてみせると心に誓ったところで、時間となった。
早めに、スィに報告しなければならないと思い、図書館塔から出たところに、ちょうど本人がいた。
「終わったよ」
「そうですか、それでは食事をしてから帰りましょう」
といって、学園近くのレストランにて、食事を済ませる。
その後、各々の部屋へ戻る。
――その次の日
今日も図書館塔に、引きこもる。
紋章学という分野が、昔はあったらしく学問の体系の一つと考えられていたらしい。
魔術発現までのプロセスが確立していなかった時代の話であり、その後は、威力の強い詠昌系のプロセスが主な流れになり、廃れていったという。
歴史系の本を読んでいる最中、警告音の様なものが学園都市の空に響き渡る。
脳に外部からの通信が入る。シバーシンからだ。
「魔獣が都市の外に出現しました。撃退してくださる?」
「了解したよ。どこに集合すればいいかな?」
「西門に生徒会メンバーはすでに集まっていますよ」
――西門前
生徒会メンバーは全部で五名。
生徒会長のローズマリー。副生徒会長のガリア、書記のフウ、会計のゴフクヤ、総務のクロノア。
「遅かったですわね新米講師さま」
金髪、縦ロールのいかにもな美少女である会長がいった。
「俺たちの足引っ張んなよ」
ちょっとやんちゃなワイルド系美男子がいう。
「あなたは、王鬼様の元で修行されたとか、ぜひその実力を御見せいただければと思います」
スキンヘッドのいかにもモーガス寺院にいましたよって感じの男がいう
「いやーやーやー。乱世乱世」
かなり太っている気のよさそうな男がいう
「時間がもったいない、目標を瞬殺する」
真面目系のショートボブの黒髪美少女が言う。
どうも個性豊かな人たちのようだ。
己の力を信じきっている者の目だ。
まあ、実力を拝見させてもらおうか。
敵は、ドレイクらしい。
魔獣の王である竜よりは、弱いが集団で獲物を襲ってくる。
目視できる範囲からは、約五十体ほどが、空を飛んでいる。
まずは、クロノアのロングレンジからの弓の一撃が、ドレイクを捉える。
一引きで十本の矢が飛んでいく。
【分身】
ドレイクが三体沈む。
ゴフクヤがおもむろに、ラッパを取り出す。
そのラッパの音を聞いたドレイクたちに黒い霧がまとわりつく。
【拡張】
【減衰・守】
ドレイクの防御力が低下する。
続いては、フウが飛び出す。
「好きな言葉は、情熱です!」
湘南美容みたいな事言ってやがる。
鉄鞭をしならせる。
魔術で伸ばしたそれは、防御力の弱ったそれを、五体ほど地面にたたき落とす。
会長と副会長はそれぞれ、ランスと鉤爪を装備しており、接近戦に備えている。
弓や鉄鞭、ラッパの波動により、次々とドレイクが地面に伏せる。
残りは、十体くらいまで減ってきた。
会長と副会長の出番はないようだ。
息がを上げながら、三人がお互いに目配せをしている。
残る十体を倒すため、突撃のタイミングをはかっているのだろう。
おもむろに、僕は右腕を上げる。
腕輪が、水色に発光する。
【ウインドボール・クワトロフォース】
四つまでの魔術回路を開き、巨大な暴風の塊を高速で打ち出す。
『風』は元々飛行しているドレイクには、効果絶大である。
当然、十体については、一たまりも無く細切れにされた。
その威力に、会長と副会長以外は、唖然としていた。
会長と副会長は忌々しそうに、こちらを見ている。
「共に戦う可能性があるのなら、少しは力を見せておいた方がいいよね」
「少しかよ……」
「後の始末は任せたから、何かあったら図書館塔にくるように」
それだけ言い残すと、面倒ごとからはささっと離脱する。
だって、知識の海が、僕をまっているのだから、スキップしながら図書館塔へ戻る。
生徒会メンバーは、得体のしれないモノを見るように、その背中を見つめているのである。




