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青き竜とレモン色の小鳥  作者: しんた☆
18/20

18 感激の抱擁

 確か、伊織の幼馴染の美里とくっついていた子だったよな。などと、ぼんやり思い出している明希の隣で、眉をひそめてぼそりと萌絵の名前を呟く伊織だったが、警察はきっぱりと言い放った。

後日分かったことだが、川村沙也は、伊織に対して異様な執着心を持っていて、自分に振り向いてくれないのは、明希が邪魔をしているせいだと思い込んでいたのだという。そして、少しでも伊織の気を引こうと、人格をすっかり変えたのだと。


「とりあえず、大した怪我じゃなくてよかったよ。あ~、もう二度とあんなこと…。」

「大丈夫だよ。ホントにただ掠っただけだったし。」


 けがをした本人よりも落ち込んでいる明希の肩を、ふいに抱き寄せたい気持ちになった伊織だったが、今じゃない気がして、ぐっと抑え込んだ。


 ホテルに戻ると、みんながほっとした表情で二人を迎えた。警察からゼミの仲間にも説明があったらしく、誰も二人に問いただす者はいなかった。そして、早々に帰路に就くことになった。あいにく、飛行機の席は離れてしまったが、南国の島を眺めながら、どこか名残惜しい気持ちが二人の胸の奥に降り積もっていた。


 地元の空港に到着すると、ゼミのメンバーはそれぞれ帰っていった。明希も招待してくれた教授に挨拶を済ませると、スーツケースを引っ張りながら電車の駅に向かう。その間にも、サイトで知り合った人たちが、次々彼に話しかけてくるのだった。なんとか声を掛けたいと思っている伊織にはなかなか順番が回ってこない。

 あんな風に話が出来たこと自体、奇跡だったのかもしれない。たくさんの無駄な時間を過ごしてしまった自分には、もう明希に話しかける資格もないのかも。視線を落とした伊織の目に、誰かのつま先が近づいてきた。


「冬野君、今回は一緒に活動出来て嬉しかったよ。ありがとう。」


 どこまでも気さくな明希に、意を決して伊織は声をあげた。


「さ、佐久間君、あの。れ、連絡先を教えてくれないか?あの、お礼もしたいし、その、また…。」

「ああ、いいよ! また、いろんな話をしよう!」


 連絡先を交換している間にも次々に声がかかる。


「アキさん、今度うちのサークルにも遊びに来てくださいよ。あ、連絡先、いいなぁ。」

「こら、こっちが先だぞ。」

「ああ~、ごめん。個々に訪問は出来ないんだ。またサイトでイベントを考えるから、是非参加してね。じゃあ!」


 バタバタと逃げるように駅に向かう明希を、伊織は手を振って見送った。傍に居た学生が伊織を羨まし気に見ていた。


「君、怪我をしたけどラッキーだったね。アキさん、絶対に個人的な連絡先は教えてくれないんだぜ。」

「いやいや、名誉の負傷だよ。俺たちのアキさんを守ってくれたんだから!」


 学生たちは好き勝手騒いで帰っていった。


 もうすっかり住み慣れた部屋に、伊織も帰宅した。ほんの数日の研修だったが、得る物が大きい日々だった。ドアの鍵を閉めて荷物を下ろすと、疲れた体をどさっとベッドに預け、瞳を閉じる。


(・・)()…。」


 

 研修から帰って数日が過ぎた。明希は電車を乗り継いで、懐かしい街を歩いていた。大学生になって、再び実家を離れた明希には、懐かしい風景ばかりだ。今は、中学生時代によく立ち寄っていた展望台を目指しているのだ。ここにはいろんな思い出がある。一人で佇んで、暮れなずむ街を眺めると、今も吹き上がってくる風が心地いい。夜には、駅前のカフェで伊織と待ち合わせをしている。


「初めて会ったのもここだったな。伊織、大人になってたなぁ。あの事故の前の雰囲気に近かった。」


 あの頃に戻れたらっそんな言葉が頭をよぎったが、その考えはすぐに打ち消された。大人になった今だからこそ、あの頃のような甘えた関係ではなく、伊織と対等な立ち位置で親友に戻れたらと明希は望んでいた。


「いつか、アイツの記憶が戻ってきたら…。」


 そんな独り言は、誰かの足音でかき消された。振り向いた明希の前に現れたのは、伊織だった。


(・・)()…。」

「え? 今、明希って言った?」


 不意に伊織の顔が歪んで頬に涙がこぼれた。


「もしかして、思い出せたってこと?」


 ゆっくりと頷く姿を見て、同じように涙をあふれさせた明希を、伊織の大きな腕が包み込んだ。


「チクショー!心配させやがって!何年かかってんだよ!良かった…。本当に良かった。」

「ごめん。全部思い出したんだ。記憶を失くしてからのこともちゃんと覚えてる。」


 二人は肩を叩き合って喜んだ。


読んでくださってありがとうございます。

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