13 帰国
しばらくして、辺りが静かになったので顔をあげた明希は、茫然とした。目の前には、あの日、レモン色の小鳥に出会った植物園の入り口があり、周りを見渡せば、2組ほどの親子連れが植物園に入っていくところだった。
「あ、あれ? レイモン?」
慌てて声を掛けてみたが、その声に返事をする者はいない。
「ウソだろ? 俺、まだ二人にありがとうって言ってないじゃないか。」
途方に暮れたままとぼとぼと搭乗口に向かうと、土産物を山積みにした母が待っていた。
「お帰り。どこに行ってたの?あら、まだお土産買ってないの?早くいってらっしゃい。」
「あ、うん。分かった。」
促されるまま、目ぼしい土産物をいくつか買うと、母の待つ待合に急いだ。その時、ふとポケットに違和感を覚えて、明希は立ち止まった。そっと指先で探ってみると、ツルンと丸いムーンストーンが入っていた。
―さっきまでの事は、本当にあったんだ。レイモン、テオ、そして青き竜。ありがとう。絶対に忘れない。-
植物園に続く通路を振り返って、そっと心の中で誓った。
「そうだ!これは、伊織への土産にしよう。」
どういう訳か、その石を手にした途端、伊織が目覚めるような気がしてきた。伊織はきっと目覚める!早く会いたい。会って、いろんな話をしたい!他の土産物用にもらった熱帯植物の模様が愛らしい紙袋に、そっとムーンストーンを入れると、母と合流して飛行機に乗り込んだ。飛行機が離陸すると、南の島の全貌が見える。その姿をじっと窓に張り付いてみていた明希だったが、目の前の島の姿は、現在の植物や建物で活気づいていた。
日本に降り立つと、電車を乗り継いで地元の駅に到着した。その間も、明希はムーンストーンの袋をぎゅっと手に握りしめたままだ。タクシー乗り場に進んでいくと、母から声を掛けられた。
「明希、母さんが荷物を持って帰っておくから、ここで解散にしましょう。」
「え?どうして?」
母は、苦笑いして答えた。
「行きたいんでしょ?伊織君のところに。早くしないとお土産の袋が汗でぐちゃぐちゃになってしまうわ。」
「あっ…。」
確かに、伊織への土産を見つけたと、母には話していたが、そこまで見抜かれていたとは。改めて見ると、確かに握りしめられた袋がくしゃくしゃになっていた。明希は照れ臭くなって「いいよ」と答えるが、そこにタクシーがやってきた。
「運転手さん、この子を医療センターまでお願いします。」
そういうと、明希の背中をぽんと押して手を振った。
タクシーが病院前のロータリーに横づけされると、明希はすぐさま病室へと向かった。
「あら、明希君。お父さんのところに旅行に行ってたんじゃないの?」
「あ、おばさん、こんにちは。今さっき、帰ってきました。伊織は?」
「今、検温が終わったところよ。中に入って。」
病室の前で伊織の母親と言葉を交わすと、明希はすぐさま病室に飛び込んだ。
「伊織、ただいま。」
伊織は未だ意識が戻らないままだった。手の甲に刺さった点滴も、あちらこちらに痕を残している。明希は注意深く点滴の刺さっていない手を取って、伊織に話しかけた。
「伊織、早く起きてくれよ。話したいことがいっぱいあるんだ。あ、そうだ!」
明希はふと思い立って、くしゃくしゃになってポケットに入れられていたムーンストーンを取り出すと、袋から出して伊織の手に握らせ、その上から自分の両手で握りしめた。
「伊織。早く目覚めてくれよ。…俺の見て来たことが、これで伝わればいいのに。旅行や花火大会だって、いっしょに行く約束だっただろ?勉強では勝てなくても、ヨーヨー釣りだったらお前に勝てる自信、あったんだぞ。」
「ふふ。それはどうかな?」
聞きなれないかすれた声がして、明希は思わず顔をあげると、少し弱々しい表情で笑っている伊織と目が合った。
「い、伊織…。伊織―!気が付いたんだな。どこも痛くないか?おばさん、呼んで来るよ!」
「待って。俺、生きてる?」
体を起こそうとする伊織に、明希は思わず抱きついて、声をあげて泣きだした。
「生きてる!生きてるに決まってるじゃないか!伊織に何かあったら、俺、生きていけないと思ってた!」
「明希、目が覚めたとき傍に居てくれて嬉しい。」
かすれた声で明希の肩を抱く伊織の腕が力強くて、明希は再び涙があふれて来た。そこに声を聞いて戻ってきた伊織の母が入ってきた。
「伊織!ああ、良かった。ふふ、明希君、心配かけたわね。もう大丈夫よ。泣き止んでね。先生を呼んで来るから。」
「はい、すみません。嬉しくて…。」
「母さん、心配かけてごめん。」
伊織の母は、頷きながら涙をぬぐっていた。
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