12 テオとレイモン
「誰がひとりぼっちだ!ずっと大岩の場所を伝えてただろ。 早くそいつを助けなくちゃ、本当にダメになっちまうぞ!」
「テ、テオ!」
振り向くと、生真面目そうな太い眉の青年が立っていた。驚くレイモンに声を掛けると、亀裂の前までやって来て叫んだ。
「今から引き上げる!もう少しの辛抱だ!」
そう言うとやっと亀裂に気付いて驚いているレイモンを無視して、すぐに呪文を唱えてロープを自分の体と平たい岩に括り付けた。
「レイモン、補助魔法で硬化!」
「わ、分かった!」
返事と同時に躊躇なく亀裂に飛び込み、意識を失いかけていた明希を掬い上げた。
「よくがんばったな。」
引き上げられた明希は右手の平と腕と太ももに深い切り傷を負っていた。左手がガクガクと震えている。
「アキ! 大丈夫か?良かった…。」
「治癒魔法を施す。」
「お、俺、助かったの? ありがとう。」
心配そうに顔を覗き込むレイモンと、知らない青年に囲まれながら、明希はふっと緊張を解いた。
それだけ言うと、ぐったりと意識を失った。そして、再び目覚めた時、目標だった平たい岩のすぐそばに自分たちがいることに気が付いた。レイモン達は、なにやら話し込んでいるところだ。
「あ、気が付いたか、アキ。」
「あ、うん。あれ?さっきの怪我が治ってる!そう言えば、さっき助けてくれた君はだれ?」
明希は、体中にあった傷が治っているのに驚きながら、テオに問いかけた。
「俺はテオだ。 それにしても、…。レイモン、どうして俺を呼ばないんだ。」
若い男は、前にレイモンが話していたテオだった。レイモンを凝視している。睨まれているレイモンは、フイッと目をそらして気まずそうな顔になった。
「さっきも話しただろ。アキには石の中の青き竜が見えたんだ。ここまでもいろんな話をしながら乗り越えて来た。アキは選ばれたんだ。俺一人でだって、青き竜を呼べるさ。アキ、ここに石を置いて。」
「え?ああ。分かった。」
平たい岩の上には魔方陣のような形が青白い光を放って浮かび上がっていた。明希が胸ポケットから石を取り出して、その上に置こうと手を伸ばすと、突然、その腕をテオに捕まれた。
「待て。これは青き竜との契約によって開かれる扉だ。君が何者かを知らないまま使わせるわけにはいかない。」
「俺は、ムーンストーンの中に竜が動いているのが見えたんだ。それがここに呼ばれた理由だって、聞いたんだけど。それではダメなの?」
明希は不安になって、レイモンの言葉を待った。レイモンはキッとテオを睨みつけると言い放った。
「こいつには青き竜の加護を受けるだけの理由がある。テオだって感じているだろ?こいつの中にある懐かしい気配を。」
「ふん、愚痴でもこぼして慰めてもらったのか。すっかり取り込まれやがって!前にも一度、失敗しているだろう!二人で協力して悩める末代の者を助けろって言われてたのを忘れたのか!」
テオは終始敵意をむき出しにしている。ギリギリとにらみ合う二人を見ていた明希がぽつりとつぶやいた。
「それって、ヤキモチ?」
次の瞬間、テオの顔が真っ赤になって、それを隠す様に顔をそむけた。
「レイモンの言った通りだね。不器用なほど真面目で優しい。ふふ、ちょっと伊織に似てる。」
「お、おい、アキ!俺の親友を取らないでくれよ!あっ…もう、親友とも言えないかもしれないけど。」
勢いで叫んでしまってから、レイモンは力なく付け足した。
「なんだよ!どうしてそんなこと言うんだ!もしかして、大けがをしたあの時の事、まだ根に持ってるのか?」
テオはレイモンに掴みかかって、怒りをあらわにした。レイモンが顔をそらせると、掴んでいた手は急に力を失い、震える両手でレイモンの肩を掴んでいた。
「う、うそだろ? あんなの、周りの奴らに冷やかされたくないからに決まってるじゃないか。俺だって、後悔してた。あの後、初めて召喚されてきたアキヒコにも随分話を聞いてもらったんだ。素直に謝ればいいじゃないかって、言われたけど、おまえは近づこうともしなくなった。すっかり嫌われたんだと思ってたんだ。」
「レイモン、良かったね。」
明希が涙でびしょびしょになったレイモンに微笑みかけた。それを見たテオがハッとして明希をじっと見つめる。
「あ、あれ?君、もしかしてアキヒコの子ども?いや、孫?」
「ええ? アキヒコ…、あ!あの小説を書いたお父さんのおじいちゃんだ!」
不思議な縁を感じながら、テオは明希をサークルの前に立たせ、ムーンストーンをその中央に置くように指示した。そして、レイモンと共に3人で手をつなぎ、テオが呪文を唱える。すると、ムーンストーンに見えていた竜がするりと抜け出したように見え、辺りがすうっと暗くなった。
「ほら、あれが青き竜だ。」
テオが山頂から見下ろせる海の方角を指さすと、想像を絶する大きな雲が流れてきて、徐々に姿を竜へと変えていった。その幻想的な姿に圧倒された明希は、何も言えないまま、その姿に見入っていた。
青き竜は雲の流れるような速度でゆっくりと3人の前に向き直ると、じっと明希を見つめた。太陽の光が当たって、キラキラとうろこが青く輝いている。なんて美しいんだろう。明希が心の中でつぶやくと、それに答えるように言葉が直接頭に届いた。
「人には、それぞれ事情という物がある。お前は、そんな事情を慮ることができる慈悲の心を持っているだろ。それをしっかりと磨き上げるのだ。この二人も世話になったようだな。ふっふっふ。懐かしきアキヒコの子孫よ。行くがよい。」
そう言うと、ザァーっと強い風が吹いて、青き竜が空高くへと登っていく。そのあまりに強い風に、明希は思わずしゃがみ込んで風がやむのを待った。
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次回から、現世に戻って来ますw




