三頭獅子の激しい
三頭獅子の激しい渇望がオレの意識の周囲全てを覆っている。
こんなに強烈な感情をオレは持ったことは無い。強すぎる渇望と言う感情にオレは嫌悪の情を持ってしまう。だけどその気持ちはオレの意識の表面には出さない。オレの浸入を三頭獅子に気付かれてしまうから。
三頭獅子の意識の奥深くに更に潜り込む。真っ暗で荒れ狂う海の中を灯台も無く漂う様に。果ての無い闇の中で溺れているのか泳いでいるのかも定かでは無くなる。
オレが三頭獅子の意識を探っている間にも戦場の様子は刻一刻と変わっていく。ヒダッカさんが氷聖剣を放った。
その時に初めて三頭獅子の意識がぐらりと動いた。
渇望以外の感情、苛立ち。
その感情の生れた先はどこだろう?そこに魂が有るはず。真っ暗闇の中の微かな揺らめき、その先を目指して泳ぐ様に進む。
近付いていると言う手応えが有った。光の届かないトンネルの中を進んでいる様な。けれどその先に必ず有る出口を目指して進む。心が浮き立ちそうになるけど気持ちを抑え進む。何か聞こえて来た気がする。もうすぐ辿り着くそう思った時にそれは起こった。
オレの身体からの視野に飛び込んできた衝撃の光景。
梟様が三頭獅子に貫かれた。
衝撃と共に心に痛みが走った。驚き、怒り、悲しみ、悔しさどんな感情かも言い表せない痛み。
そして同時に沸き上がる三頭獅子の醜悪な悦びが伝わってきた。
オレは平静を保てず叫び声を上げてしまった。
『「うわああああああああ!!!!許さない。許さない。許さない!」』
身体中の血が沸騰しているようだ。体の震えと同様に三頭獅子の中の意識も大きく乱れてしまう。三頭獅子に異物の浸入が気付かれた。異物を排除しようとしてくる。
意識には当然、身体はなく防御力など何もない。意思の強さがそのまま防御力となる。だけど侵入したオレの意識の方が圧倒的に弱い。だから気付かれぬ様に慎重に平静を保って来たのだけど。今はもうそんな事はどうでも良かった。オレは怒りに任せ三頭獅子の中で暴れまわった。
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「それでは最後の魔法を教えよう。」
「えっと最後ですか?」
「こう見えて儂も忙しいのでな。」
「梟なのに?」
「ほう、先生を愚弄するとはな?」
「えっとそう言う意味では無くて…あの、もっと沢山教えて貰えたら嬉しいなって……」
「この魔法が成功すればその機会も有るやも知れん。」
「あの、オレ頑張ります!」
「では良く見て…………」
「これってもし…………」
「…………」
「…………」
「……」
「……」
……………………………………………
オレは怒りをぶちまけきって囚われ虚ろな状態で倒れていた。
ぼんやりと梟様とのやり取りが思い出された。浮かんでは消えて行く記憶にも心が動かされることは無かった。
この状態では意識を三頭獅子に吸収され死んでいてもおかしく無かったと思う。
けどまだ微かに繋がっている身体からの視野で三頭獅子が捕らえられた事が分かっている。巨木から脱け出すために力を注いでいてオレの事は後回しにされたんだろう。
両足はがっちりと黒い金属の様に創られた鎖で固定されていて逃げ出せない。
本当なら危機を感じなくちゃいけないと思うけどそんな気力も湧かない。
どのくらいそうしていたのか分からない。
ふと目の前に立つ足が見えた。見上げる事もせずオレはそのまま倒れていた。
『もう一息の所だったかも知れないが残念だ。』
言葉が紡がれるがオレの心は動かない。
『ラッセルの贈り物は受け継がれたと言うのに。』
ヒダッカさん達が三頭獅子の前に集り慌ただしく動いている姿が映し出された。
『ヒダッカと言ったか?あやつは上手く立ち回っている。今回はラッセルの手柄になりそうだな。約束を守れたとラッセルが喜ぶだろう。しかし俺はリベルトに会わせる顔がないな。』
リベルトその言葉につきんと痛みが走った。この人は誰なんだろう?梟様の事を知っているようだけど。
『峰司。何故倒れているのだ。』
オレの事も知っているの?何故倒れているのかって?もう動けないからだよ。
『動こうと思っていないから動けないのだろう?』
煩いな。もう何もかもどうでも良い。
『では何故泣いているのだ?』
泣いている?手で頬に触れてみる。そっか身体が無くても泣けるんだ。
『ただ泣くだけとは赤子のようでは無いか?悲しみを知り、それでも行動を起こさねばどうなるか分からぬお前では無いだろう?』
オレの事なんて何も知らないくせに。どうでも良い。オレはもう動けないし動きたくない。考えたくない。
『はぁ、駄々っ子の様だな。それだけリベルトを大切に思っていたと言うことか?』
当たり前じゃないか。梟様がオレの閉塞した生き方を変えてくれた。憧れてた魔法を教えてくれて世界を護る方法も教えてくれたんだ。
『では何故それを行わない?』
…だって梟様は死んでしまった。もう頑張れないよ。
『諦めていない者もいる。お前がリベルトから教わった事を行える唯一の者なのだぞ。本当に終わりなのか?』
だって、だって…こんなに苦しくて辛い。もう一度頑張っても梟様を取り込んだ三頭獅子なんて倒せる訳ないじゃないか。
『心の痛みとは目を曇らせる物だ。良く考えて見ると良い。』
考えたくない。考えたって三頭獅子への憎しみが増すだけだ。憎んだって何にもならないんだから考えるだけ無駄だよ。今は森の様な巨木に抑えられて動けないらしい。どうせ直ぐに脱け出すだろうけど…あれ……?
『そうだ、やっと気付いたか。リベルトの力で強く成ってはいないだろう?』
えっとどういう事?梟様の力を得たならこんな簡単に拘束される訳が無い?
『さぁこの中では時の流れが違うとは言え待っている者がいるのだ急ごう。』
えっと何処に行くの?それにオレは鎖で繋がれているから動けないよ。
『まったく世話が焼ける。峰司お前の名前はどんな意味だ?』
そんな事今はどうでも良いけど。峰司。峰を司るでしょう?山々を支配する者?良くわかんないよ。
『なんだ本当に分からんのか。俺が必死で考え繋げた物なのに。峰の字の意味は希望だ。まぁ峰の字は当て字だ、鶇村の山々が美しかったのでな。それと司を合わせれば、希望を統べる者と言う意味だな。』
そんな意味が有ったのか。希望を統べる者。諦めず願えば叶うとでも言うの?オレの希望は皆を護ること。オレは諦めそうになっていた。
でも、オレの名前は諦めるから一番遠い所に在るんだ。そうか……この世界を……巡り合った人々との未来を…………オレは諦めたくない!
そう思った瞬間パリンッと鎖が砕けた。
『では行こうか。』
オレは立ちあがり三頭獅子の魂に向かって二人で歩き出した。




