ノアタがクダナの横に
「どうしよう梟様が…僕達どうすれば良いの?」
ノアタがクダナの横にへたり込んだ。油断しすぎだが近衛兵が俺達を囲ってくれているのでしばらくは大丈夫だろう。
「クダナあれどうやったんだ?」
俺は三頭獅子を拘束した巨木を指し示し疑問を投げ掛けた。ヒボラもノアタも取り巻く騒音でクダナの返事を聞き漏らさないようにと顔を近付ける。
クダナはどうして梟様をお守り出来なかったのかと悔しそうに肩を落としていたが質問は耳に届いた様だ。
「梟様は戦場を飛ぶ間に精霊の守りを通してあの迸生命循環拘束の魔法陣の事をお伝え下さいました。そして魔法陣の事を教えられた際に発動呪文も教わったのです、自分にもしもの事が有れば直ぐに発動せよと。」
「これで仕留めたってことには……」
その先をヒボラが言う前に巨木の一部が内側から吹き飛ばされた。直ぐに周囲の巨木が広がってきて隙間を埋めて行く。中の三頭獅子がまだ動けると言うのは確実なようだ。
「そう都合良くは行かないか…。」
「あの巨木は槐の木で僅かに聖なる力を宿すそうです。暫くの間なら三頭獅子の力に耐えられるとの事でした。」
どういう事だと聞き返したかったが話を聞ける状態では無くなった。
「獣の大群が押し寄せてきます!」
ノミナの警告にノアタとクダナが慌てて立ち上がる。曇り空には猛禽が溢れ暗くなった。周囲からはウルフの唸り声や咆哮が迫って来る。ヒボラとクダナは杖を構え俺とノアタは剣を抜き放った。
戦場は大混乱に陥っていた。梟が討たれた事が兵士達にも動揺をもたらしている。
獣達も混乱状態に陥った様だが今は巨木に襲いかかってきている。
巨木の前にいる俺達もその波に飲み込まれるように囲まれてしまった。
近衛兵が大盾を組み合わせ何とかウルフの襲撃を防いでくれている。
俺達は大盾を飛び越えたウルフや飛び込んでくる猛禽達をひたすらに切り伏せる。
峰司を仰ぎ見てみるが猛禽達に襲われてはいない。だがまだ準備は整っていない様だ。
時間稼ぎが必要そうだ。ヒボラもそれに気づいたんだろう、呪文を詠唱し終えて叫んできた。
「ヒダッカどうするんだ?取り合えず三頭獅子を斬ってみるか?三頭獅子の頭ひとつ飛ばせる程度の力は有るみたいだしな?」
「えっ!折角捕まえたのに斬った所から出てきちゃうんじゃない?」
ノアタの不安も分かる。俺は大盾の隙間から入り込もうとするウルフを倒しながら大声で聞いた。
「クダナどう思う?」
「ノアタさんの心配はもっともです。けれどあの魔法陣の再生力ならば切り裂くと言うより突く様な損傷を小さくする攻撃ならば大丈夫でしょう。それに聖属性の攻撃であればその力を取り込み木々の再生が促進されるかも知れません。」
「そんな事出来るんだ?」
「やってみる価値は有りそうだな。ノミナ!俺が氷聖剣を打つ瞬間前を開けてくれ。」
「了解した!」
「ヒボラとノアタは俺と三頭獅子の間にいる獣を出来るだけ排除してくれ!」
「「「了解!」」」
………………………………………………
オレは透浸精神魔法を解除し戦場を改めて確認した。獣達が巨木へ襲い掛かり三頭獅子を逃がそうとしているようだった。
動き出したオレに気が付いたのか周囲にいた猛禽の一部がオレに向かって飛んできた。襲撃を振り切ってヒダッカさん達の囲いの中に着地した。
「待たせてごめん!」
皆の張り詰めた表情を見て、獣に囲まれながらも三頭獅子の前で待っていてくれた事に感謝の気持ちが溢れてくる。
ここからはオレが何とかしなくちゃ。凍る地面に手を触れ呪文を唱える。
「凍結捕縛!」
ヒダッカさん達を取り囲んでいたウルフ達を凍りつかせ動きを止めさせた。
梟様ならもっと広範囲を凍りつかせる事も出来ただろうけどオレにはこれが精一杯だった。梟様の事を思い出すと胸が疼く。
それじゃ駄目だと自分に言い聞かせる積もりで頭を振る。今は目の前の事に集中するんだ。空に向けて大きく手を伸ばす。
「霰吹雪!」
上空でこちらを窺っていた猛禽達を氷の礫が追い払う。どれだけ倒せたか分からないけど、これで話す時間が少しは取れるかな?
「峰司君待ってたよ!」
「待たせ過ぎだぞ!」
「待ってましたよ!」
「待ってたぞ。準備は良いのか?」
俺は頷き皆に伝えるためきちんと顔を見て話した。
「三頭獅子の本体を見付けてきました。本体は闇の王って人の魂を包む核だったんだ。これから核を破壊します。」
オレは三頭獅子の中で感じたことを伝えて見た。皆には反対されるかも知れないけど。
「核は破壊しなくちゃいけないんだけど…闇の王の魂に触れて気付いちゃったんだ。闇の王が悲しい存在だって。オレ闇の王を倒すんじゃなくて、助けたくなったんだ。」
「………そんな事が出来るのか?」
「難しいけどやってみたい。」
皆の沈黙に耐える。変なことを言ってしまったって気持ちも有る。それでも…
「そっか。それで良いんじゃない?」
「えっ?」
「だって峰司君がそう思った理由が有るんでしょ?僕は峰司君が感じたことを信じるよ。」
「ノアタさん…」
「そうだなノアタの言う通り助ける方法が分かるのならやってみれば良いじゃないか。」
「えっと、ヒボラさんも?」
「私も梟様の事を思えば八つ裂きにしたいくらいですが、助けたいと言う思いを尊重しますよ。」
「クダナさん…」
「峰司の感じた通りやってみれば良い。」
「ヒダッカさん。皆…ありがとうございます。」
オレは皆に向かって大きく頭を下げた。そして顔を上げ背筋を伸ばし三頭獅子へ向き直る。
三頭獅子の身体は影で作られているまやかしみたいな物だけど何重にも核を守っている。核は影の中を移動していて捉えるのが難しい。
魂に触れたオレは三頭獅子の核が何処に在るか外からでも見える様になった。
核に触れて魂を保護しつつ破壊する。必ず成功させて見せる。
「今から朝焼けの歌って言う曲を吹きます。核が止まった所を見つけて合図します。ヒダッカさんにはそこに氷聖剣を撃ち込んで欲しいんだ。」
「任せろ!」
横笛を取り出しながら構えた。
巨木に群がる獣と結界の隙間を穿とうと蠢く三頭獅子。
三頭獅子を拘束出来る時間はもう残り僅かかもしれない。
オレは懸命に息を吹き込み魔力を注ぎ込む。
笛から流れ出した朝焼けの歌は戦場の騒音に掻き消されそうだけど不思議と闇の王へ届くと確信した。
三頭獅子の中で見た破片の様な魂に刻まれた記憶。闇の王の自我はほとんど失われてしまっていた。その中で今の闇の王に唯一届くと思われる曲。
『成すべき事をしなさい。』
『はい、ありがとうございました。』
三頭獅子から送り出す様に言われた言葉を思い出す。
オレに立ち向かう力をくれた人。
あの人はいったい……
オレは沸き上がる疑問を抑えて魔力を笛に流しながら吹く。
絶望に囚われないで…
思い出して…
そんな思いを込めながら。
横笛を奏でる間にも迫り来る獣達。
近づく獣は近衛兵とヒボラさんとノアタさんが倒してくれている。
「槐の様子が変わりましたよ!」
クダナさんの言葉に横笛を降ろす。三頭獅子へ意識を集中させ精霊視を発動する。
闇の王の魂に触れたオレには核が見える。
「ヒダッカさん正面から少し左の枝が斜めに突き出ている所を狙って!」
「分かった。氷聖剣!」
素早く近衛兵が盾を傾け隙間を作ってくれる。
ヒダッカさんの斬撃が飛んだ。
「邪魔しないで!!」
目の前の光景に衝撃を受けた。ノアタさんの悲痛な叫びが響く。
ヒダッカさんの斬撃に向かって猛禽達が一斉に飛び込み受け止め消し去ってしまった。そして生き残った猛禽がそのままこちらへ向かってきた。
それだけでも驚きなのに巨木に組み付いていたウルフ達が反転して襲い掛かってきた。
「や、やばいぞ備えろ!」
数百もしかしたらもっと?三頭獅子の殺気が獣に乗り移りオレ達を敵と見定めたみたいだ。
「すみませんこれ以上は流石に防ぎ切れません!」
近衛兵からも焦った様な叫び声が上がる。魔力の練り上げ時間がもどかしい、オレは習った魔法を思い出すまま次々に放った。




