重く垂れ込めて
重く垂れ込めていた雲はいつしか消え失せ薄紫にたなびく雲が幾片か広い空に浮かんでいた。
空と大地を徐々に朱く染め太陽は眠りにつこうとしていた。
この大地で有象無象の短き命が尽きようとも太陽は粛々とその巡りを続ける。
過去と現在そして未来を繋ぐ太陽だからこそ見る者の目に美しく映るのかも知れない。
しかし今……
悠久の時を越えて繰り返されるその壮麗な天の巡りを仰ぎ見る者は居ない。
ある者は戦に身を投じ
ある者は息を潜め隠れ
ある者は戸惑い嘆き
ある者は慰め信じた
勝利を願う人々の命運は必死で戦っている者達の手に握られている
…………………………………
「や、やばいぞ備えろ!」
「すみませんこれ以上は流石に防ぎ切れません!」
巨木に群がっていた獣達が反転し、俺達を敵と見定め襲いかかってきた。
ウインドカッター!
アースランサー!
峰司とヒボラの詠唱が響く。倒れたウルフを踏み越えその何倍もの数が押し寄せて来る。
これまでの戦いで近衛兵の槍は折れノアタの矢も尽きてしまった。
ファイアボール!
ストーンバレット!
ファイアボールが辺りを明るく照らしもう日が落ちるのだと気付いた。
このまま暗くなればいっそう追い詰められる。
どうすればどうすれば…
打つ手がないまま襲い来る猛禽を剣で切り伏せる。
「待たせたな。」
突然背後から気配もなく声が聞こえた。
「ーーーーーーー疾く睡れ」
耳馴れない言葉を発する聞き覚えの有る声色に振り返ると長いローブを纏い老人が立っていた。
その声、瞳、初めて会ったのに誰だか直ぐに分かった。
「獣達が倒れて行きます!」
「すごいっどうやって…」
近衛兵が歓喜の叫びを上げる。
「魔力を渡そう。」
俺が質問を投げ掛ける前に老人は俺の剣の柄に手を触れる。柄が一瞬冷たくなりキィンと音を立てた。
魔力を与えられ剣は小刻みに震え喜んでいるようだと思えてしまう。
異変に気付いた皆が集まってくるが誰も口を挟まない。
剣が眩しく光を宿すと老人は手を放した。
「時間がない。」
「分かった。」
それだけの会話で俺は残った魔力を全て練り込み氷聖剣を構えた。
「峰司どこを狙えば良いんだ!」
「正面の下右側の裂け目を狙ってください!オレも飛びます!」
先程までの襲撃が嘘のように静まり返った空へ峰司が浮き上がる。
巨木は再生がもう間に合わないのだろう所々三頭獅子の黒い影が突き破って姿を現そうとしていた。
指定された場所に向かって全力で氷聖剣を振り抜いた。
「「「「「行けっっっ!!!」」」」」
斬撃は白く輝く尾を引き三頭獅子へ吸い込まれていった。
ズンッと大地を揺らし孔が穿たれた。
斬撃を追うように峰司が空を蹴り真っ黒な孔へ飛び込んでいく。
その直後巨木が最後の力を振り絞るが如く息を吹き返し峰司と一緒に三頭獅子を封じ込めた。
「峰司!無事に帰ってこい!」
俺は膝から崩れ落ち剣を取り落としながらも声を限りに叫ばずにはいられなかった。




