右目からずきんと
右目からずきんと痛みが走り世界が上下左右に揺れる。
色彩が遠く薄れていく。目に映る物が認識出来ずに混乱を加速させる。
それは2つの視野。
ひとつは空から三頭獅子を眺めるオレの目から結ぶ映像。
もうひとつは三頭獅子の目から梟様を追いかける映像。
その2つを同時に受けとり理解するまでオレは荒れ狂う世界に耐えた。
オレの放った無属性の魔力をそのまま開放する魔法
“透浸精神魔法”
自分の意識を極限まで薄め対象者の意識へと道を繋げ潜り込む。
精霊視の力を最大限に高めた魔法。
そしてオレは透浸精神魔法の能力を正しく受けとり理解した。
オレの身体を飛行魔法で制御し三頭獅子へ一定の距離を保ち静の映像を結ばせる。
そして動き回る三頭獅子からの映像に意識を集中する。
梟様を追いかける意識からは餓えと喰いたいと言う欲望だけが流れて来る。
戦場の他の事は少しも意識に上ってこない。攻撃をほとんど無効化している様な状況だから当然なのかもしれない。
今もノアタさんヒボラさんの炎の竜巻に包まれたけど一瞬にして切り裂き梟様を直ぐに視線の先に捉えた。それだけだ。
オレはその力の強大さに意識が動かされそうになるのを静め三頭獅子の核を探す。
闇に包まれその荒れ狂う意識の中に有るはずの魂を。
……………………………………………
リベルトは激しく飛び回りながらも繊細な無属性の魔力を感知した。
『ふむ。
峰司は上手く魔法を発動させたようだ。』
……半年程前闇の王の影が大地に再び現れたのに気付きリベルトは動き出した。過去の過ちを正す対抗手段を整える為に。
自身の力を秘匿する為にリンに呼び掛けるという回りくどい方法を選んでヒダッカを呼び寄せた。
それと同時に時間の限られた中で峰司を鍛え上げた。それが闇の王の影に対しての最善策だと考え行ったのだ。
峰司には厳しく辛い思いをさせたはずだった。しかし期待に応えて魔法を成功させた峰司をリベルトは誇らしく感じた。
悠久の時を生きるリベルトからすれば矮小で幼き者を危険に晒すのは心が傷む事だった。
それがかつての盟友とも呼べるナーダンの系譜に繋がる者ならば尚更に。
ゆっくりと成長を見守って居たかったと言うのがリベルトの本音だった。
だが闇の王の影はこの時代に現れてしまった。
『そろそろ本気を出すか……』
リベルトの視線の先には氷聖剣を振るうヒダッカが居た。
三頭獅子がヒダッカの斬撃のみ避ける姿を頼もしく思う。ヒダッカと氷聖剣の相性は最高の様だ。
自我は殆ど感じられないが氷聖剣から感じる危険を察知するだけの感覚は残っているらしい。
数百年前、槐のうろの前で決戦を前に別れる事になったラッセルの言葉が思い出される。
「リベルト様、今の私の力ではお役に立てない様です。けれど必ずや皆を救う方法を見付けて見せます。」
ラッセルは優しい男だった。闇の王の影に倒された人々を救えぬ事に心を痛めていた。そして脅威が去ったあとも研究を続け聖化の魔法を作り出したのだった。
平時ではその力の意味を理解しない者達へと繋いできた細くとも確かな絆。それが今三頭獅子へと向い真価を発揮する。
三頭獅子が斬撃を避けている事がラッセルの残した力が確かな物だと証明している。
だが、一歩及ばぬか。
ヒダッカが剣を振るう技術は中々の物だ。精霊の力を吸収する素晴らしい剣も手に入れた。しかしそれでも内包する力の差が大きすぎた。
…………………………………………
三頭獅子へ向けて剣を振るい続けた。三頭獅子の足に向けて、頭に向けて、腹に向けて。もう何度斬撃を飛ばしたのか数えきれない程に。
梟を追い跳んだ着地点を狙って、兵士の攻撃を受けた直後を狙って、ノアタやヒボラの攻撃の合間を狙って。
その悉くに触れる事もなく造作も無いとばかりに余裕を持って躱すのだ。
「ちょこまかと面倒くさい奴だな!」
ヒボラは怒った様な声だが冷静さは失われていない。俺が斬撃を放ち易いように細かく調整しながら様々な魔法を当ててくれている。
「ヒダッカごめんもうシューティングブレイズ終わっちゃったよ。」
「了解、バーニングリプルで引き続き攻撃を頼む。」
「了解。でもあんまり数は無いよ。それと巻き込まれない様に注意してね。」
「ああ。」
ノアタも聖水を飲んだとは言え慣れない魔力操作をしながら戦場を走り回り矢を射ってくれていた。この状況では貴重な矢を一本の無駄撃ちにもしないという意思が見てとれる。気合いを込めた鋭い矢を集中を切らさず射続けるのは流石だった。
自分を省みて斬撃を外し続けているのは腑甲斐無いとしか言い様がない。
だが俺も集中力を切らす訳には行かない。
必ず三頭獅子の隙を見つける、それがどれだけ難しい事だとしても成し遂げるのだ。
獣を狩る、いつもと同じ様に出来る事をするだけ。
俺がそんな事を考えていると戦況が動いた。
梟の動きが変わったのだ。三頭獅子を一ヵ所に留め置こうとしているのだろう大きく飛び回っていたのが小さく円を描きつつ低空飛行へと変わっていた。
三頭獅子の回りにいた兵士達へ梟が距離を取る様に指示をした。
そして一瞬の事だった。
梟が兵士の退避を確認し三頭獅子の動きを見逃したのだろう。
突如三頭獅子の左側の頭の形状が変わった。槍の様に尖り伸びたその先には梟がいた。回避することは間に合わずその体を貫かれ羽が散った。
数拍を置いて三頭獅子は二つの頭を高々と空へ向け悦びの雄叫びをあげた。
俺は梟が作ってくれたその一瞬を逃さず溜め込んでいた氷聖剣の斬撃を足の止まった三頭獅子へ向けて放った。
そして同時に背後から聞こえるクダナの詠唱。
「迸生命循環拘束!」
俺の斬撃が狙い通り三頭獅子の真ん中の頭を吹き飛ばす。
よろめく三頭獅子の足下から爆発的に植物が伸び絡み付いていく。
悦びから一転三頭獅子が残ったひとつの頭を振り回し怒り狂う。見る間に植物は巨木へと変わり檻のように締めつけ押し潰して行く。
抵抗も虚しく三頭獅子の姿は隙間なく育った森の様な巨木に押し込まれてしまった。
「リベルト様……どうして……」
精根尽きたとでも言うようにどさりとクダナが倒れ混む音が聞こえた。
俺も今までの疲れがどっとのし掛かって来るような気がした。




