過去からの贈り物⑦
ボォグゥオオオオンッッッ
バンッ バサバサッ
メリメリッ ガシャンガランッ
ゴンッ ドォッドサッドサッ
突如暴風に襲われました。
強く打ち付ける風に吹き飛ばされ、私は体を小さく丸め地面に伏せることしか出来ません。周囲では激しくぶつかる音が鳴り続けます。伏せた体を飛来物が打ちつけます。
そのまま耐えていると始まったのと同じように突然暴風が止み、直後ヒダッカさんの声が響きました。
「皆大丈夫か!!」
「……なんとか。」
「大丈夫です。」
「怪我はなさそうだよ。」
「こっちも怪我は無し。」
返事をしながら伏せていた体をゆっくり起こします。
目の前に広がっていたのはだだっ広い風景。天幕が飛び去り辺りの様子は一変していました。乱れた場所で茫然とする面々が徐々に体を起こしています。
ヴォオオオオオオオオッン
どんっと大地が揺れると同時に低く太い叫び声が耳を打ちました。音圧に押し倒されるように片膝を地面に着けてしまいました。そのまま振り返ります。
森を背に雪原へ立つ三頭獅子が目に飛び込んできました。雪原の最奥に位置する私達からはかなり離れて居る筈なのですがハッキリと見えます。その大きさは転移直後に空から見えた時よりも大きく、三つの頭がそれぞれ牙を剥き出す禍禍しい姿に鳥肌が立ちました。
「速すぎる!通信兵!」
「はっ!」
司令隊長の声に通信兵が数人駆け寄り指示が矢継ぎ早に飛びます。
「三頭獅子が現れた事を本部に連絡せよ。他の者は情報収集!特に偵察部隊、パーシュル村付近の情報を最優先にせよ!」
「「「「「はっ!」」」」」
慌ただしく動き出す兵士達、私達五人は無事を確認し合いました。
幸い誰も大きな怪我は負って居ないようです。リン様は丁度革袋へ戻っていた後で、梟様とプログレヤ様は何も無かった様にお話を始められました。
「梟様いかが致しましょう?」
梟様は地面からフワッと飛び上がり傾いたテーブルに器用に掴まりました。
「思ったより早かったな。儂が出よう、ちとからかってやるわ。三人は急ぎこの地より離れよ。」
何か言いたそうな顔をしたプログレヤ様をそっとフォムン様が押さえています。少しして三大精霊の三人は小さく首肯きながら梟様から離れました。精霊の力の塊である方達が三頭獅子に取り込まれない様にという指示でしょう。しかし危険なのは梟様とて同じ事です。そこはぐっと堪えて従ったのでしょう。
お姿を見る限り三大精霊の三人を合わせた力と梟様一人で同じくらいの力という所でしょうか?
それぞれが力を抑えていらっしゃるかも知れないので実際の力関係は良く分かりませんが。
「では峰司。儂が三頭獅子を拘束するのでな、機を見て飛び込んで行くがよい。」
「はい。」
「拘束?」
ヒダッカさんが思わずといった様子で呟くと梟様は答えてくれました。
「そうだ。だがあの大きさでは手間でな、お前達も影を削ってくれ。」
「分かった。」
ヒダッカさんが答えると素早く梟様が飛上りこの地を離れます。
梟様を皆で見送っていると第一連隊隊長と第二連隊隊長が近寄って来ました。
この雪原での司令隊長と副司令隊長という立場だそうです。話し合いの場を設けて頂いたのに作戦会議もままならぬうちに三頭獅子の襲撃を受けてしまっていました。
現場把握が終わり兵士への指示も終えたのでしょう。
「梟様はどちらへ?」
「三頭獅子の陽動ですわ。貴方達が力を発揮してくださればそれだけ早く拘束して頂けますでしょう。」
プログレヤ様が厳しい表情で答えてくださいました。表情の厳しさはたぶん梟様を心配されているのでしょう。
「その様な事を……ありがたい事です。全兵決死の覚悟でこの地に立って居ります。微力で有れど力の全てをぶつけましょう!」
「頼もしいわね。」
「あの、どうしてこんなに早く三頭獅子が来たか教えて貰えますか?」
峰司君が控え目ながら司令隊長へ言葉を掛けました。私達が兵士から聞かされていた遭遇よりも明らかに速かったのです。
「勿論です。こちらに向かっていた三頭獅子ですが、壁役の隙を突かれてパーシャル村へ向かってしまったのです。朝焼けの歌にて迎撃は成功したのですが、その後壁役の部隊に追い回されたのが気に入らなかったようで激昂し、黒い影を纏ったウルフを喰らったそうです。三頭獅子は強化されたのでしょう、直後の雄叫びで暴風がおき先程私たちを襲ったようです。その後急加速し一直線にこの地へ進み現れたようです。」
「あの、怪我をした兵士さんは?」
少し言い淀んでいましたが司令隊長は答えてくれました。
「心配されなくて大丈夫です。我らの行動で民を守れるのですから。」
少し困ったように峰司君が更に尋ねました。
「黒い影に触れてしまった兵士さんはいませんか?」
「……はい、居るようですが。」
「えっと、あの、お願いがあるんですが、ヒダッカさんが聖めた黒い泉に怪我をした兵士さんを連れて行ってもらえませんか? 」
「勿論可能ですが…何故でしょうか?」
「普通の傷ではないので聖水でないと治らないと思います。」
「そうですか…こちらの兵を割くことは出来ませんが手配いたしましょう。感謝致します。」
「私達が手伝いましょう 。」
話を引き継ぐ様にフォムン様が言葉を掛けられ、プログレヤ様も隣で頷いています。ロブレシア様は戦場を気にされているようですが異存は無いようです。
申し出に早速とばかり、何処にどれだけの怪我人が出たのか誰が何処へ向かうのか等話し合いを始められました。
「俺達も早く行こうぜ。」
時間が惜しいと言うようにヒボラさんが話します。先程から戦闘の音が響いてきています。
ヒボラさんの言葉にヒダッカさんが皆へ尋ねました。
「行けるか?」
「はい。大丈夫です。」
「モチロンだよ。」
「お供致しますよ。」
「腕が鳴るな!」
峰司君、ノアタさん、私、ヒボラさんも続けて答えます。今更戦闘に怖じ気づいている場合では有りません。
「よしっ。やるか!」
「「「「了解!」」」」
振り返れば既に雪原のそこかしこで戦闘が始まっています。三頭獅子を目指し武器を手に動き出そうとした私達に副司令隊長から待ったが掛かりました。
「少しお待ちください。紹介が遅れましたが、皆様の護衛の為に派遣されました近衛隊が居りまして。」
「近衛隊隊長のノミナと申します。宜しくお願い致します。」
「あ、あぁ?」
「我ら三十人は露払いと思っていただければ構いません。この先の指揮権はヒダッカ様に委ねて宜しいでしょうか?」
ヒダッカさんの困惑も分かります。近衛兵は全身を防具で覆われどの様な姿をしているか分かりません。けれどその名前と澄んだ声を聞けば女性と思われます。
雪原指令部の天幕へ通された時、他の兵士と装備が違う部隊を見掛けました。その装備と同じ方が一人だけ天幕の中にいらっしゃいました。この方だったのでしょう。
武器防具一式はかなりの重さでしょうに滑らかに動く様は男性の様でした。
それに近衛兵と言えば要人警護の精鋭部隊。近衛隊長とも為れば王の側に付き従う事が殆どでしょう。
それだけ峰司君に期待を掛けられているのでしょう。当然と言えばそうなのかも知れませんが期待が重い気がします。
「うん?三十人?いや、そこまで指揮するのはきついな……俺達の動きに合わせてノミナが指揮してくれた方が助かる。」
「ではそのように。」
「ああ。」
「よし改めて、三頭獅子を討伐しに行くぞ!」
「「「「了解!」」」」
何とか話が纏り物々しい近衛兵に囲まれ動き出す私達を司令官二人と兵士が見送ってくれます。既に三大精霊はこの場を離れた様です。
「影へは魔法攻撃がある程度通る様です。三頭獅子への攻撃と同時に出来るだけ獣を皆さんへ近付けぬ様に第一連隊、第二連隊は動いております。三頭獅子の事宜しくお頼み致します!」
その声に私達は頷き背を向け戦場へと踏み出しました。




