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露程も知らない幻想組曲  作者: 熱帯長草草原地帯
第十一章 大男と精霊
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過去からの贈り物④

「リベルト様!」


 転移の魔方陣から下りてきた戦場には似つかわしくない少女がリベルトに笑顔を向け走り寄ってきた。

 今いる場所は俺達も移動に使った天幕の間の広場。三大精霊の雪原への到着に合わせて装備を整えた俺達はリベルトと合流した。

 リベルトが少女の肩へふわりと飛び乗り優しく言葉を返す。


「プログレヤ、久しいの。」


 すっとその前に二人の男が立つ。


「お久しぶりです。リベルト様やっとお会いできました。」

「ああ、フォムンも息災か?」

「はい。」


 フォムンと呼ばれた男は膝まずかんばかりに頷いている。


「何だ爺その姿は?」

「どうだ?なかなか気にいっているのだが。」

「似合わんだろう。」

「ロブレシア!失礼よ!」

「そうだ、どの様なお姿でも品格が現れているではないか!」

「いやいくら何でも梟っておかしいだろう?」

「おかしく無いわよ!」

「そうだ私も梟になっても良いくらいだ。」

「何でそうなるんだ?」


 三人の掛け合いに堪らずと言った様子でリベルトが話を遮る。


「まぁまぁ、皆変わらぬな。紹介しよう受け継ぎし者を。」


 俺はそっと峰司の背中に触れる。

 頭から首へと繋がる頭巾の様な兜は俺と同じ。

 鎖帷子は軽くする為に一部の金属を残して短く切られている。

 脚には風魔法を付与すれば空も歩けるという不思議なブーツを履いている。

 金属部分は全て魔鋼と呼ばれる深い黒色。魔鋼を繋げる糸は赤く染めあげられ峰司の精悍な顔を引き立てている。

 初めて見かけた時の優しげな少年の姿はもうそこには居ない。戦に向かう青年峰司が立っていた。

 峰司は俺を振り返り俺の手を取り進み出る。何故か俺も前に進み出る事になる。


「ナーダンの子孫、峰司と言います。こちらはラノの息子、ラッセルの技を受け継ぐヒダッカです。」

「ほう!ナーダンと良く似た若者よ。」


 フォムンが歩み寄り峰司の手をさっと取り優しげな笑みを浮かべる。そして呟く用に言う。


「我が加護は常に君の傍に有る。」


 俺は混乱する。ラノの息子なのは勿論そうなのだがラッセルの技とは何だ?

 リンが俺の肩にふわっと乗る。自然とその体を撫でてしまう。


「ラッセルも約束を守ってくれたのですね。」


 プログレヤと呼ばれた少女もラッセルの事を知っているようだ。


「寿命の短き者達が引き継いで来た物、その真価が問われるぞ?」


 挑発的に俺を見下しロブレシアと呼ばれた男が言う。何だか愚弄されているような気がして俺は答える。


「俺は自分の役目を果たすのに全力を尽くす。真価などどうでも良い事だ。」


 自分の言葉に俺も戦場を前にして気が立って居るのだと自覚した。俺らしくもなく睨み付けるように言葉を返してしまった。


「中々の気構えだな、気に入った!お前ならばこれを使うのに相応しいだろう。」


 そう言って腰に差していたひと振りの剣を抜き俺に差し出した。フォムンがそれを見て頷く。


「ほう、そうだなこの者ならば上手く使いこなせるだろう。」


 俺は吸い寄せられる様に白く輝く剣へ手を伸ばした。


 ………………………………………………


 パーシュル村




 キュトは走っていた。


 マノがナジンと店を出た後、直ぐに後を追うことも出来ず一人で店を切り盛りした。

 心穏やかとは言えない気持ちを抱えつつも昼の営業を終えた。片付けをしていると外で騒ぎが起こっている。何が有ったのか、マノが呼ばれた事と関係の有ることだろうか?急いで扉を開け外へ出る。耳に飛び込んで来たのは兵士の大声。


「集会所に急ぎ避難せよ!避難できぬ者は家に戻り外出を控えよ。それと近くの兵士に精霊の守り(フローライト)を預けよ!」


 ウルフが現れたのだと直ぐに分かった。村人もその言葉の意味を理解したのだろう、恐怖の表情を浮かべつつ粛々と精霊の守りを渡す者が兵士に集まっていく。


 キュトは広場に向かって走り出した。

 

……………………………………………




 マノは竪琴を爪弾いていた。


 マノとナジンが父親の店に行くと既に兵士が人を集めている事情を知っていた。


「マノ来てしまったのか…村にウルフを近付けない不思議な音楽を奏でるお役目らしい。わざわざそんな危ない事を幼いお前がすることは無いんじゃないか?」


 父親はマノを幼いと言ったがそもそもこの行商の旅の目的は幼い者を連れて歩く為ではない。

 危険を充分承知の上で付いて来ると認めたのは成人と認めるための通過儀礼の要素も多分に有った。

 けれど愛娘が予想もしなかった危険に向かうのを良しと思う父親がどこに居るだろうか?

 苦しい言い訳で幼い事を理由に危険へ向かうことを引き留めたいが為、こんな詭弁を弄していた。

 そしてナジンも言葉を引き継ぐ。


「そうだマノちゃん。わざわざ怖い思いをしに行く必要は無いよ。」


 二人の言葉に嫌々と首を横に振るマノ。


「わたし、行く。」


 その言葉、表情に父親は思わず聞いてしまう。


「……何故だい?」

「わたし、キュトや、お母さんに、お父さんに、守って、貰ってばかり。これからは、わたしも、みんなを、ま、守りたい。村のひとも仲良く、してくれた。商売は信用がだいじ、逃げ出す訳にはいかない。」


 その言葉に絶句する父親。やや間を開けて絞り出した言葉は商会の長としての言葉だったかも知れない。


「そこまで考えているなら行くが良いだろう。ただな、何事も命あっての物種と心に刻み行動しなさい。お前の犠牲で永らえた命など私達には何の役にも立たんからな。」

「はい。」


 マノとナジンは父親から楽器を受けとり広場に集まる人々に合流した。

 既に30人程の同じように楽器を手に持った人が集まっていた。

 今も広場に集まる人は増えているようだった。

 二人の到着を見つけた神官が近寄ってきた。


 マノは必死で朝焼けの歌を覚えた。

 こんなに集中したことは生まれてから一度も無かった。

 神官の手解きで楽器へ精霊の力を込めた。


 ポロンッ…


 マノは精霊の力を借りて爪弾いた。

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