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露程も知らない幻想組曲  作者: 熱帯長草草原地帯
第十一章 大男と精霊
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過去からの贈り物③

 オレ達は三頭獅子(ケルベロス)との戦いの地、雪原へと向かう事になった。魔法陣に乗り込み今日二度目の慣れない眩さに目を閉じた。

 一瞬の浮遊感の後、あちこちから音が飛び込んできた。

 目を開けると一人の兵士が立っていた。


「お待ちしておりました!」


 きびきびとした所作で片膝を折って頭を下げた兵士。

 それに倣って一緒に転移の魔法陣から下りた5人の兵士もオレ達に向き直り改めて頭を下げた。(リベルト)様がオレの肩からふわりとその前に舞い降りた。


「堅苦しい事はいいから、ほれ早く準備を進めるが良い。儂はここで待っているからな。」

「はっ」


 (リベルト)様はそれだけ言うと近くの天幕の上に飛び上がった。オレ達は周囲を天幕で囲われた広場の様な所に転移していた。クダナさんの腕に停まっていたリンも(リベルト)様の隣に飛んで行ってしまった。


「では皆様どうぞこちらへ。」


 立ち上がった兵士に連れられてオレ達も歩きだす。


「どこも忙しそうだな。」


 ヒボラさんの小声に頷きつつ周囲を見ると天幕の間を速足で行き交う兵士が見えた。ここに着いてからずっと聞こえているのは兵士の大声や鎧のぶつかる音だった。

 天幕の向こうには雪原が見えた。

 雪原とはどんな場所かなと思っていたけど起伏の殆ど無いだだっ広い場所みたい。

 遠くでも何か動いてるのが見えたから兵士が作業しているのかも。


「こちらに準備して有ります。」


 天幕の中は武器庫なのかな?武器や防具がごちゃごちゃと積まれていた。

 泉の近くで行われた兵士の通信で戦う装備では有りませんって報告されてたのが聞こえちゃったし、装備はこちらで調えますって来る前に言われてた。

 流石に森へ出掛けるだけのつもりだったオレの服じゃいざ決戦って言うときに危なく見えたと思う。

 鍛冶の国って言われてるロブド国の装備、今の三頭獅子(ケルベロス)にはきっと役に立つ物だと思う。

 中に居た兵士とは違う格好をした筋肉むきむきの二人が凄い勢いで話しかけてきた。


「おう、待ってたぞ。鍛治士のアーヴェだ。」

「同じく鍛治士のガンテだ。先ずはお前さんからだ。こっち来な!」


 捕まったヒダッカさんが身体を計られたり武器や攻撃方法を聞かれている。

 筋肉むきむきのアーヴェさんとガンテさんで意見を交換し合っている。二人の意見が纏まったところでごそごそと防具を引っ張り出した。それをヒダッカさんへどさっと渡した。


「ほい、着替えてこい。」

「あ、ああ…」


 ヒダッカさんは両手に防具を持ち、兵士に連れられて着替えの出来る場所へと移動していった。


「良し、次!」


 同じ様にヒボラさんクダナさんノアタさんが身体を計られたり質問されたりして武器や防具を渡され着替える為にその場を離れていった。


「良し、最後はお前さんか。」

「随分ひょろっこいな。」

「すみません。」

「いや、謝る事はない。こっちこそ口が悪くてすまんな。」

「で、剣を振るう身体じゃないだろう。魔法を使うのか?攻撃手段は何だ?」

「えっと魔法です。あと直接三頭獅子(ケルベロス)に触れなくちゃいけなくて。」

「う~ん…」

「あちゃ…」


 頭を抱えた二人を見てオレ無茶な事をするんだよねって改めて思った。


「あの、怪我はしても構わないので軽くて急所だけでも守れる様な防具とか有ったら助かります。」

「怪我はしても構わんか…」

「そうは言っても…やっかいだな。」

「ちなみに影に触れたらどうなるんだ?武器や防具に意味は有るのか?」

「えっとたぶん影の力で防具が壊れる事は無いと思ってます。それにオレが特殊な魔法を纏うのである程度は影響を抑えられると思います。」

「その特殊な魔法って言うのが鍵なのか?」

「えっとまぁそんな感じです。」

「軽いのは三頭獅子(ケルベロス)へ素早く到達する為で、怪我はどう庇ってもするだろうから急所だけ守りたいって事か。」

「はい。」

「そんじゃぁ飛翔系の魔法も使うんだな?」

「はい。」

「「分かった。」」


 今の影はウルフに影を纏わせて操ってるみたいだし触れただけで全てを破壊する訳じゃないみたい。

 だからこそ完全に力を取り戻す前に倒したい。

 とりあえず二人から開放されてほっとした。三頭獅子(ケルベロス)を前にしたらこんな圧力では無いと思うけど。

 アーヴェさんとガンテさん二人から溢れ出る熱気が凄かった。

 少し離れて二人が作業してるのを待つ。取り出した物について二人でまた意見を交わし合ってる。


「峰司はまだなのか?」


 ヒダッカさんが戻ってきて声を掛けられた。ヒダッカさんの装備に目を奪われる。頭には金属を編み込んだ頭巾の様な兜、兵士と同じ上半身全てを覆う鎧と籠手と脛当それに丸い形の盾を左手に装備している。腰には神殿の町で買った剣を挿してある。


「はい。ヒダッカさん兵士みたい。」

「そうだな、盾はあまり使い慣れんがな。何とか成るだろう。」

「おう!装備出来たぞ!どうだ?」


 ヒボラさんとクダナさんが戻ってきた。

 二人はヒダッカさんと違い膝上までの鎖帷子を装備していた。脛当はしてるけど籠手は無くて足首まで有るマントを羽織っている。それから腕の長さくらいの杖を手に握っていた。


「ヒダッカさんとは全然違うんですね?」

「俺達は後衛装備だからな。」

「杖とは…贅沢をさせて貰いました。」

「俺も人生初杖だ!」


 クダナさんが言うとヒボラさんも嬉しそうに杖を見せてくれた。


「確か魔法の威力が上がるんだったか?」

「そうだ、ヒダッカは興味無いかもだけど攻撃魔法使いには垂涎の品だぞ。貴重な魔力を含んだ木で出来ていて滅多に出回らないしな。」

「そうか、頼りにするぞ?」

「おう任せとけ。」

「待たせちゃった?皆見違えちゃったね!」


 ノアタさんも戻ってきた。狩人の装備に一番近いかも。背中に矢筒を背負っているのは何時もと同じ兜も無し、腰に剣が刺さって脚には脛当が巻いてある。胸当の形が左右非対称で片側だけ肩まで覆われていた。ヒダッカさんがノアタさんを見て頷きながら言った。


「ノアタは弓が主武器の中衛装備か。」

「うん、動き易いよ。パーティーとしても良い選択でしょ?それより峰司君はまだなの?」

「えっとそうみたいです。」


 そう言えばオレのやるべき事をまだ伝えてなかった。

 待っている間に話さなきゃ。


「あの、オレの攻撃手段は直接三頭獅子(ケルベロス)に触れなくちゃならなくてそれで防具選びに時間が掛かっているんだと思います。皆には三頭獅子(ケルベロス)にオレが近付ける様に手伝って貰いたいんです。」

「まぁ大体そんな事だろうと思ってたよ。」

「えっ?」


 ヒボラさんの言葉に驚いた。そんなオレを見てヒダッカさんが説明してくれた。


「先ずは大男の伝承で記憶を失う程の大怪我を負ったらしいって事だった。そして影を倒したのは白く輝く魔法、普通魔法は遠距離攻撃に適している。おかしいだろう?それとうろで見つけた手紙にはナーダン自身は影に触れても大丈夫って書かれてたからな。まぁ考え合わせればそう言うことだ。」

「うん。そっか。」

「それに峰司君の思い詰めた顔。僕達を危険に晒す事を心配したんでしょう?」

「あっはい…」

「自分が一番危険だと自覚はされているのですか?それを顧みず危険に向かう友人を見捨てる様な者はここには居ないのですよ。」


 クダナさんの言葉ではっとさせられた。

 そっか。危険を分かってそれでも一緒に来てくれてたんだ。

 にやっと照れくさそうに笑いながらヒボラさんが言った。


「まぁそう言う事だ。」

「あ……ありがとう……ございます……」


 オレは皆に向かって頭を深く下げた。


「良いところを邪魔しちゃ悪いんだけどよ。」


 アーヴェさんがオレの目の前に立った。

 続いてガンテさんの抱えた荷物を押し付けるように渡された。


「装備が決まったから着替えてこい。」

「はい。」

「「「「行ってこい!」」」」


 笑顔の皆に見送られてオレはその場を離れた。

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