過去からの贈り物②
「報告致します!ケルベロスが予想進路から逸れました!」
通信士は上ずった声で報告を上げる。本部は慌ただしく動き出す。ロブド国王が身動きもせず、ぴくりと眉を動かし声をかける。
「朝焼けの歌の壁は上手く行っていたではないか?」
「進路を急に変えた為、移動が間に合わず通過を許してしまったと!」
そんな事も有り得るだろう、それくらいケルベロスの進行速度は早く壁を作る人員は少なかった。王は新たな指示を出すため地図を睨む。
「何故急に進路を?もしやパーシュル村へ向かったのか!?」
「その様です!」
パーシュル村はこの作戦の一番の弱点だった。予想進路に近く危険と思われたが人口が多いため住民を逃がすことも難しかった。ケルベロスは多くの精霊の守りに気付いたのだろう。その可能性については作戦立案の段階から危惧されていた。村の人口は約3000人。フォス国の神官、兵士、プロフ国からの工作部隊合わせて160人。直撃を喰らえばひとたまりもない。
「分かった。指令を伝える。
急ぎパーシュルの村へ連絡を取れ。朝焼けの歌を弾ける村の者に防衛への参加を求め、それ以外の村の者には精霊の守りを一旦預けさせろ。集会所へ行ける者は避難し、それ以外の者は家の中に隠れるように。
フォス国の兵士は村への侵入を最小限に抑えられるよう持ち場に着け。
周辺に展開中の第三連隊はパーシュル村へ部隊を集め防御を固めろ。
第四連隊も急ぎ合流し応援に当たれ。出来るだけ押し返すのだ。
ケルベロスへの攻撃は無駄撃ちと成る可能性が高い、ウルフや付き従う物を一匹でも多く倒せ。黒い影を纏った物への攻撃が当たった場合はどんな攻撃が効いたのか情報を上げろ。
偵察部隊は進路の再構築に備えろ。」
「「「「「はっ!」」」」」
通信士達はそれぞれ担当の箇所へ連絡を始めた。その姿を祈るような気持ちで見つめる一同。……持ちこたえられるだろうか…頼む間に合ってくれ……
「彼の者をパーシュル村へ向かわせる事は出来ぬのでしょうか?」
恐る恐ると言った様子でロブド国の神官長が進言してきた。王は首を振って答えた。
「それが出来るならばこんなに悩まなくて良いのだがな。ケルベロスを倒す事はその少年にしか出来ぬと聞いている。
時期尚早だ。ケルベロス単体でも危険なのに周りの獣に少年が襲われでもしたら本当にこの大陸は滅びる。」
「差し出がましい口を…」
「良い。」
誰から見ても苦渋の表情を浮かべた王にそれ以上進言をする者は居なかった。
………………………………………………
第三連隊、第四連隊の向かった先、そこは奇しくもキュトとマノが滞在するパーシュル村だった。
先に到着した第三連隊の目に飛び込んできたのは高く張り巡らせた防御壁。
人の背丈の二倍は有るだろうか、氷の壁が並びウルフの跳躍でも流石に飛び越えられないだろうと思われた。
壁からは氷の槍がびっしりと生えて近付く者を威嚇している。
そして数メートル間隔で櫓が組まれ投矢機が設置され既にフォス国の兵士が空からの敵に備えている。
「本部へ第三連隊到着の通信を行いました!第四連隊もこちらへ向かい進軍中、それまで持ちこたえろとの事です。」
「了解した。」
連隊長は通信士との会話を終えると部隊に向き直った。
「お前達!!火の精霊に護られし俺達に喧嘩を吹っ掛けた馬鹿犬っころに後悔させてやれ!!!」
おおおおおおおおおおお!!!!!!!
おおおおおおおおおおお!!!!!!!
おおおおおおおおおおお!!!!!!!
おおおおおおおおおおお!!!!!!!
鬨の声を上げる兵士の意気は高い。
しかしケルベロスが直撃すれば兵士は勿論、防御璧すら森の木々の様にあっさりと破壊されてしまうだろう。
己を奮い立たせ地響きのする方向を睨む。
夕暮れの迫る中、戦いの火蓋は切られた。




