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露程も知らない幻想組曲  作者: 熱帯長草草原地帯
第十一章 大男と精霊
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過去からの贈り物①

 王の命令を承けた偵察部隊の士気は高い。朝焼けの歌に効果が有る事が判明し、そして応援の神官が到着した。


「予定区画に配置、準備が整いました。」

「直ちに朝焼けの歌を弾き始めよ。」


 隊長は敵を刺激せぬように静かに指令を伝える。

 神官の一人が竪琴を鳴らす。


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 追いかけるように竪笛、横笛が旋律を合わせていく。この部隊には新たに五人の神官が配備された。その人数でどれ程の効果があるのか。

 兵士の視線の先には雪深い森が広がっている。静かな森に溶け込む様に精霊の力を借りた独特の音が響いていく。

 通常の音では感じられない何か、耳に聞こえるだけではなく魂に直接届く様な音。

 一際高い木の上で見張りに立つ兵士は三頭獅子(ケルベロス)の進行方向を見定める。

 その身体からは染み出す様に黒い雲が湧き上がる。大きな黒い塊の様に三頭獅子(ケルベロス)は平地を走るような速度で進んでいる。その後には木々が倒された道が出来ていた。

 上空を付き従う鷲や鷹の群れて飛ぶ姿に兵士は寒気を覚えたのだろうぶるりと震えていた。


 三頭獅子(ケルベロス)の進行速度は速い。

 進行方向を変えるための位置取りを決めて部隊を配置に着かせるのも迅速に行わねば為らなかった。

 偵察部隊は機動力の有る飛行魔法が出来る者が選ばれる。今回はそれに加え転移の魔法陣が使われた。

 しかし転移の魔法陣とて万能では無い、転移の魔法陣を移動先と移動元の両方に描く必要が有った。

 そして魔法陣を描くには当然技術が要る。

 魔法陣を描き終えた技術者は既に次の魔法陣を用意するべく部隊を離れて行った。

 三頭獅子(ケルベロス)の進行に合わせて音楽の壁を作っていくのだ。

 この部隊も三頭獅子(ケルベロス)が通り過ぎればまた前方へ回り込み曲を奏でなければ為らない。この部隊で神官を守るのは最重要事項だった。

 その重要性を理解しつつ神官を守る為に周囲を警戒する兵士は戸惑いの表情を浮かべていた。


 ……警戒するべく目は森を捉えているのに心は違う所へと連れて行かれそうになる。

 神官が朝焼けの歌を弾き始めてからだ。

 不愉快では無い、輪舞曲(ロンド)と言うものだったか?ステップを踏むように旋律が流れもうひとつの旋律が踊りの相手をするように絡み合っている。

 単調ともいえる旋律、朝焼けと言うより夕闇で焚き火の周りに座り込み火を見詰めている時の様な落ち着いた音色。

 何故?

 この曲が三頭獅子(ケルベロス)を追い払えるのか不思議だった。

 聞けば聞くほど不思議な魅力に溢れる調べ。

 徐々に薄闇が晴れ朝日が入り込む様に音色が変化していく。

 夢の中でとても素晴らしい人物と出会えて、けれど目が覚めれば思い出せない。忘れたくなかったと言う想いだけが恋しい何かを求めてしまう。そんな気持ちを思い出す。

 朝焼けの歌が消え気付けば三頭獅子(ケルベロス)は通りすぎていた……


 この区画の任務は無事成功のようだ。

 次の地点へと向かうべく兵士は表情を引き締めた。

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