報告を受け
「予想通り闇の王の影はこちらへ向かっているようです。」
報告を受けロブド国王は頷く。精霊の石を喰べたという目撃情報から推察して闇の王の影は精霊の力を欲していると思われた。今まで動き出さなかったのも弱っていたからだろう。この場に三大精霊が揃っているのは闇の王の影を誘き寄せる為だった。
「そうか、進路でぶつかりそうな部隊は何処だ?」
「第三班です!」
「朝焼けの歌を弾き始める様に伝えよ。変化が出ればどのくらいの距離だったかも報告せよ。」
「はっ!」
魚人族のパッヴァよりもたらされた朝焼けの歌だが、人の身で精霊の力を取りこみ歌えるのがラクル神官のみ。
教わったラクル神官の体感では楽器に魔素を流す演奏でも同様の効果が得られる可能性が有ると言う。
力が弱まるかも知れないが対闇の王の影に一人きりではどうともならんと楽器を使って見る事にしたのだ。
この結果は重要な意味を持つ。皆第三班がいると地図に指し示された場所を見つめ静かに報告を待つ。
半時が過ぎた。
今までの速度で有れば既に敵と遭遇している筈だ。報せが届かぬ事でその場に重い空気が垂れ込めた。
その場の誰もが諦めかけたその時、扉の外から声が掛けられた。
「第三班報告をしたく入室を許可願います。」
「構わん入れ!」
「はっ!」
本部の部屋は人の出入りが多く元から両扉の片方を開け放っていた。そこから五人が青ざめた顔で入ってくる。その表情と逃げ帰って来たと言う事実から、作戦は失敗だったのだろうと思いつつも王は話を促す。
「大儀であった。報告を述べよ。」
「はっ!3つの報告がございます。ひとつ目は朝焼けの歌ですが、これは効果が有ったと思われます。距離は200メートル程より速度が落ち10メートル程まで接近されました。その後こちらを避ける様に方向を変えました。」
「でかした!!」
思いもよらぬ良い報告にその場が高揚に包まれる。またそんな至近距離迄耐えた部隊へ称賛の声も漏れる。
「ふたつ目の報告ですが、闇の王の影は三頭獅子の象をしておりました。」
先程の高揚が無かったように場が凍り付く。
「三頭獅子とな?3つの頭を持つ獅子の事か?」
「はい、我等全てが目視しております。幻術の類いとは思えません。」
「……そうか、して最後の報告を述べよ。」
「はっ。三頭獅子の進行に合わせウルフと大型の鳥類が行動を伴にしております。そやつらには朝焼けの歌は効かず我等を襲って来た為やむ無く転移の魔法陣で逃げ帰って参りました。報告が遅れて申し訳ありません。」
「良い。ウルフと鳥類の総数は分かるか?」
「申し訳ありません、解りかねますが……見渡す限りと言っても過言では有りません。」
「そんなにか……」
「それとこちらの者の情報ですが」
そう言ってプロフ国の男であろう隊員を王へ指し示す。
「ウルフと鳥類の一部に影を纏った物が居たようです。そやつらは三頭獅子と同じく朝焼けの歌を嫌って進路を変えたそうです。」
「森の民の言葉を私は信じるわ。」
王以外の者が言葉を発したのに隊員が驚く顔をする。この場に似つかわしくない少女がプログレヤということは周知の事実なので報告を上げたプロフ国の男が謝意を陳べる。プログレヤがニコッとまるで普通の少女の様な笑顔を見せる。
「こほん。五人とも大儀であった。明日の朝迄休息を命じる。下がるが良い。」
「はっ!ありがとうございます。」
五人が退出すると王はふっと肩を落とした。
「中々の人身掌握術だな。あんな顔で戻ったら部隊の士気も下がるだろう?」
口の端をにやっとあげてロブレシアが王をからかう様に言う。
「苛めてくださるな、ロブレシア様。戦なぞ生まれて初めてなのに……三頭獅子とはなぁ。」
ロブレシアに返事をしつつ、最後の言葉は溜め息の様に吐き出された。
「この後はどう動かれますか?」
穏やかな声でフォムンに問われると王は地図を指し示した。
「敵が大群となればこの雪原に追込みたいですな。」
三頭獅子の進路をここ指令本部より南へずらした場所に空白地帯が有る。そこに追込みたいと王は考えた。
「中々良い場所じゃないか。」
戦場に自分も立ちたいとでも言うようにロブレシアが言った。他の者にも依存は無いようだ。
「では指令を伝える。三頭獅子南側の偵察部隊は撤収。北へ回り込み三頭獅子の進行方向を雪原へ誘導しろ。村へ朝焼けの歌を教えに行っている者以外で曲の弾ける神官は偵察部隊へ合流せよ。」
王は続けて言葉を発する。
「待機していた工作部隊と第一連隊、第二連隊は雪原へ先回りしろ。相手はウルフと鳥類の大群、どんな攻撃でも構わん周辺を気にせず殲滅出来るよう準備しろ。」
「第三連隊は分散し敵からはぐれたウルフや鳥類が周辺の村に入るのを阻止しろ。深追いはするな、だが討ち漏らして人民に被害を出す事は赦さん。敵が多ければ応援を呼べ。」
「第四連隊、第五連隊は引き続き待機。夜になったら偵察部隊と第三連隊の任務へ交代する。敵は寝ずに動くと考えよ。」
「「「「「はっ」」」」」
慌ただしく動き出す人員を頼もしく思いつつも自分の作戦に穴が無いか考えを巡らせる。それまで黙っていたフォス国の王が声を掛ける。
「少し良いか?」
「もちろん。」
砕けた口調で話し始めたのはフォス国の王。二人はと言うよりシュタリアの国を治める三人は旧知の間柄だった。
「楽器を弾ける者は順調に集まっているそうだ。」
「そうか、助かる。」
フォス国の戦力は寒冷地に慣れていない為、村の守護に回っている。そして神官団と魚人のパッヴァ、ポルヴォ、ビューユが手分けして朝焼けの歌を各村に教えに行っていた。普通の楽器にも魔素を流せる様に手を貸したのはフォムンだった。
「私の方も順調みたいよ。敵がウルフだけじゃなく鳥類も居るって事も伝えたからその対策も任せて。」
プロフ国からも魔法工作部隊の他に各村へ技術者が派遣されていた。主に女性で組織された技術者は緊張を強いられている住人の不安を和らげるのに役立っていた。しかし勿論役目はそれだけでは無い。土魔法使いの達人とも呼べる彼女達は村の防護壁を造っていた。
「それと少し休んだら?貴方が倒れたら困るわ。」
「そうだ、少し休め。」
急に話しに割って入ったロブレシアに同意する様にフォムンとプログレヤが席を立った。
「待っていた者が到着しました。」
「待っていた者が到着したようよ。」
その発言に部屋の外へ飛び出す程の歓声が響いた。




