落下の衝撃から
落下の衝撃から未だ立ち直れずヒボラとノアタはお互いに背を預けあってへたりこんだままだ。
クダナは案外肝が座っているようで既に立ちあがり梟の言葉を聞き漏らさない様に側に控えている。
俺は梟の指示に言われるがまま黒い泉の前に立った。
背中には峰司の手が添えられている。
「いつも通りのウォータークリアをするが良い。」
「ああ。」
正直手を触れるのも躊躇するような何とも言い難い饐えた臭いがする。
これだけの量をウォータークリア等したことは無い。だが魔力の枯渇は気にせず全力で放てとの事だ。魔力を全て込めるつもりで練り上げ右手に集める。
「ウォータークリア!」
母親から習った唯一の魔法。粘性の有る水に手を入れ異物を取り除く意識を保つ。泉に変化は無い様だったが、魔法が発動している手答えは有る。練り込んだ魔力が尽き再度魔力を練り上げる。
「峰司、頼む。」
「うん。」
小さな泡のぱちぱちと弾ける様なむず痒さが、背中に当たる峰司の手から伝わって来る。
魔力が満ちて来た、この感覚は二度目だな。転移の魔法陣へ魔力を注いだ時に峰司に助けて貰った。その後のごたごたで聞きそびれたが他人から魔力を借りる事など普通は出来るのか?
「次だ、いけ。」
「ウォータークリア!!」
梟の言葉に意識を戻し魔法を放つ。変化は少しづつしか見られなかったが数回繰り返していると水が澄み泉の底が見えて来た。
梟が真っ白く戻った水際の雪の上にふわっとんっとんと近付いて嘴を水面に浸けた。
「ここまで出来れば上等上等。暫し休んでいろ。」
そう言うと羽を広げ一瞬ふわっと浮き上がったと思ったら泉に飛び込んで行った。綺麗になった水の底へ向かったようだ。一直線に下へと潜っている梟を見守っていると光る珠が後を追って行った。
「リン?」
俺の隣で水中を見つめていた峰司の呟きが聞こえた。
そちらをちらっとみやり視線を戻すと水中から二人の姿が消えていた。
「どうなったんだ?」
思わず言葉が漏れた。返事を期待した訳では無かったがクダナが言葉を返してくれた。
「おそらく水源の方へ遡って行かれたのでは無いでしょうか?」
そう言って泉に片手を入れ水を掬いあげる。零れ落ちる水が雪からの反射を受け輝く様だった。初めて魔法が成功した時、満足そうに笑った母親の姿がだぶって見えた。
「これは聖水?」
何だか分からんが水を何度も掬いあげてはぶつぶつと呟いている。クダナは放っておいて俺は峰司に向き直り質問を投げ掛けた。
「説明をしてくれ。」
……………………………………………………
「えっと皆を巻き込んじゃってすみません。」
ヒダッカさんに質問をされて、だったら皆に話した方が良いかなって思った。
ヒボラさんとノアタさんが座っている所に集まった。オレ、ヒダッカさん、ヒボラさん、ノアタさん、クダナさんの順にぐるっと雪の上に円を書くように座った。
「峰司君、気にしないでちょっとびっくりしただけだから。」
へたりこんだままだったノアタさんが背筋を伸ばしてオレを見た。
「ヒダッカはまだしも俺は自分から首を突っ込んだからな。」
ヒボラさんも普段通りの様子で答えてくれる。
「梟様にリン様こんな素晴らしい方々とご一緒できるのは光栄な事です。」
クダナさんはちょっとどうなんだろう?戦いに巻き込んで申し訳ないってオレの気持ちとは違う所に喜んでるみたいなんだけど。まぁ本人の希望に添ってはいるのかな?
「俺も頑張ると言っただろう?」
ヒダッカさんが北の森でオレに言った言葉で答えてくれた。そうだよね、皆を信じてオレがやらなくちゃいけない事を説明しよう。オレにしか出来ないけどオレ一人じゃ出来ない事だから。
「オレ半年くらい前から同じ夢を何度も見るようになったんだ。」
……………………………………………………
始めは見覚えの無い暗い森をどんどん進んでいくの。
凄い速さで移動するんだけど歩いたり走ったりしてるんじゃないんだ。吸い込まれる様にって言うか森が勝手にオレの後ろに流れて行くような変な感じなんだ。
今朝北の森に入ったら夢と同じ所だって気付いたの。何で全然思い出さなかったのか不思議だったけど何度も通った夢の中の森で間違い無かった。
夢の中で梟様に会ったんだ。その時は名前なんか聞いて無かったから喋る梟って思ってた。夢だから何でも出来るんだなって不思議にも思わなかった。
そこで魔法を教わったんだ、この先必要に成るからって。フォス国の大男に憧れてたから魔法を教えて貰えるのが嬉しかった。最初は全然できなくてそのまま夢から覚める事ばっかりだった。
途中で夢を見るのも面倒になったけど何度も何回も練習を重ねて出来るようになった。良く分かんないけど魂のけいふ?って言うのが有ってフォス国の大男にオレは近いんだって。だからオレを呼んだって言ってた。
昼間呼びに来れば良いのにって聞いたら、誰かに見付かると面倒だから結界を張っていて動けないって事だった。
……………………………………………………
「それでオレがしなくちゃいけない事なんだけど…」
じゃぶっと水の跳ねる音が聞こえて皆で泉を振り返った。
ビシャビシャで骨ばった茶色いっぽい塊が2つ泉の横に並んでいた。
プルプルと水を飛ばし羽を広げたのは梟様だよね?その隣で同じくプルプルと水を飛ばしているのは子梟?
驚きつつ立ち上がって二羽に近付いて行く。濃い灰色の綿毛がほわほわと膨らんできた。水を乾かす魔法でも使ったのかな?
「リベルト様そちらはもしかして…」
「リンじゃよ。」
「「「「えっ?」」」」
「これがリン様、何とも可愛らしい姿になって。」
クダナさんが片足を折りそっと手を伸ばすとぴょんとその腕に子梟が飛び乗った。
「うわぁ良いな!」
狩人なら子梟なんて珍しく無いんじゃ無いかと思ったけど野生の梟に触れる機会なんて無いんだって。
「あの、リン?触っても良い?」
立ち上がったクダナさんの腕に留まるリンへノアタさんがそっと声を掛ける。
「キュッ!」
リンは梟様と違って話す事は出来ないみたいだけど良いよって感じでノアタさんに背中を差し出し、くるんって振り返って大きな黒い瞳をノアタさんに向けた。
「うわぁふわふわ……」
ノアタさんがすっごく嬉しそうに綿毛を撫でている。うっ気持ち良さそう。
「あのオレも触って良い?」
ノアタさんの反対側へ移動してリンに聞いたらさっきと同じキュッ!と返事をくれた。そっと手を伸ばしてふんわりとした綿毛に触れる、指先が綿毛の中に潜ると暖かい。
「ふわふわであったかいですね。」
「うん。柔らかくてあったかくてふわふわぁ!」
「完璧に梟を再現しているのでしょうか?不思議な力ですね。」
「遊んでいる暇は無いぞ、全員急いで泉の水を飲むのだ。」
梟様の声のあと、遠くからウルフ?の遠吠えが聞こえた。皆さっと表情を変える。慌てて泉の横に膝を落とし言われた通り水を掬って口に入れた。キンと冷えて締まった水は喉を通りすぎると身体の内側に一気に染み渡る。一口で喉の渇きが治まる様なのにまた続けて飲みたくなる。
「これは飲んでも良いものなのでしょうか?」
「勿論だ暫くは魔力の心配が要らんほど魔素に満ち溢れておるぞ。」
それを聞いてヒボラさんが泉に顔を突っ込む様にごくごくと水を飲み出した。遅れてクダナさんもリンを降ろし水を飲み始めた。
「聖水とはこんなに美味しい物なんですね。」
「それ、急がんか、ここにあいつらを近付けてはならん。」
「僕がやってみても良いですか?試して見たい攻撃が有るんです。」
「何でもいいから早く倒すが良い。」




