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露程も知らない幻想組曲  作者: 熱帯長草草原地帯
第十一章 大男と精霊
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ヒボラ、ノアタ、クダナが

 

「おっおいいっなんだここは!!」

「さっ寒っ!」

「こ、凍りそうですっ!」


 ヒボラ、ノアタ、クダナが声を上げた。(リベルト)の魔法陣へ乗り辿り着いたのがここだ。


「リ、(リベルト)様こ、ここは何処でしょう?と言うか何故私達は空に浮いているのです、か?」


 寒さに震えながらクダナが聞いた。

 俺達は中空に立っていた。何も無い場所に立つと言うのは正しい言葉なのか?足下に魔法陣の線が描かれてはいるが隙間から遥か下方に雪を被った森が見える。


「なんだこれくらいの寒さで騒ぎ立てて、ホレ!」


 峰司の肩で(リベルト)が片羽を開いた。途端に吹き付けていた寒風が止まった。


「ここはロブド国の上空だ。先ずは敵を知れ。あそこの黒い場所に三頭獅子(ケルベロス)が居る。」


 (リベルト)の視線の先に黒い雲の様な物が見える。一面の真っ白い雪に黒い線を残しつつ真っ直ぐに進んでいるようだ。

 敵は三頭獅子(ケルベロス)?3つの頭を持つと言う想像上の生き物じゃなかったか?俺達の戦う影は三頭獅子(ケルベロス)なのか?

 混乱した頭で三頭獅子(ケルベロス)を思い描いていると進行方向に高い山が見えた。行ったことは無いがロブド国の神殿の町が有るはずだ。


「あれ不味いんじゃない?」


 進行方向に気付いたノアタが言った。


「餌に食い付いたようじゃ、あっちは心配せんで良い。降りるぞ。」

「えっ!」

「ええぇっ!!」


 突然足場が消え俺達は中空に投げ出された。落下の衝撃に思わず手を伸ばすが何も掴める物も無く手が空を掻く。


「ヒダッカさん!掴まって!」


 ヒボラとノアタの叫び声の向こうから峰司の声がした。少し上空から峰司が手を伸ばして来た。俺も手を伸ばす。その少し上を優雅に(リベルト)が螺旋を描き降りてくるのが目に入った。

 峰司の手を握ると軽い衝撃と伴に落下速度が緩やかになったと感じる。


「リン、ヒダッカさんをお願い。」


 そう言うと俺の手を放し峰司が下方に加速していく。頼まれたと言わんばかりにリンが俺の足元で光る。徐々に速度が落ち着き俺に(リベルト)が追い付く。


「なんじゃ翔べんのか。」


 そう言いながらクダナの方へ滑るように飛んでいった。いや、翔べる訳ないだろう?ヒボラが辛うじてノアタを掴んだ様だが翔ぶ魔法など出来なかったはずだ。そこへ峰司が辿り着いた。

 逆巻くマントが落ち着いたのであちらも大丈夫そうだ。

 クダナへ目を戻すとクダナの落下も落ち着いた様だ。


「はぁ………」


 酷い目に有った。遥か下方に見えた森を抜け足が雪の積もる大地を踏んだ。地面が有るって良いもんだな。濡れたくは無いがマントを尻の下に敷いてへたり込んだ。戦う前からこれじゃ先が思いやられる。


 ……………………………………………………


 プロフ国を出て父親達と行商を行っていたキュトとマノは今もロブド国に残っていた。

 本当ならもう帰路についている筈だった。

 しかしウルフ襲来の噂が立ち帰路の護衛を雇おうとしているうちに村間の移動が禁止され足止めを余儀なくされてしまったのだ。

 しかし途方にくれたという事は無く父親達は商人の逞しさで戦に必要な薬草や薬を売りさばいていた。

 また食料等も沢山積み込んで有ったので商店の一角を借り温かい食事をキュトとマノの二人で出した。

 特に着の身着の侭逃げ出して来たウルフに襲われた村の生き残りの者たちに喜ばれていた。

 村を出た後は各地に割り振られ当座の住む場所や金は領主より提供されて居たのだが恐ろしい経験と先行きの不安で暗い気持ちになっていた。

 そんな折り、他国の者でありながら料理を作り笑顔で接客をしてくれるキュトとマノの双子は癒しになっていた。


「はい、お待たせしました。今日はナジンさんに教えて貰った料理ですよ。」

「おや、本当に作ってくれたんか。嬉しいね。」


 キュトにナジンと呼ばれた村人が嬉しそうに箸を持ち食事を始める。

 出来映えはどうかとキュトとマノが様子を見守る。

 ナジンはひと口、ふた口と箸を進める。

 料理は上手く出来たようだ。キュトとマノはニコニコと笑顔をこぼす。ごくんと料理を飲み込んだナジンがポツリと呟く。


「旨いなぁ……」


 そう言いうと涙をはらはらとこぼし始めた。袖で涙を拭いながら言葉を続けた。大人の男が急に涙を流す光景にキュトとマノは衝撃を受けた。


「……すまんな……村の事が思い出されてな。儂はな知ってるかも知れんがウルフに襲われた、そして逃げた。恐ろしくなって精霊の守り(フローライト)を投げ捨てて逃げ延びたんだよ。

 いつも守ってもらっていたと言うのに情けない……

 儂なんかが生き残ってもしょうがないのにな…やり直す事など出来んのに…その時の光景がな……。」


 静かに涙を流すナジン。

 その回りの者も同じ気持ちなのか黙りこくって食事の手が止まる。


「に、逃げた、から、他の人に、き、危険、が、伝わった。だから……」


 不自由な言葉で一生懸命に慰めようとするマノ。小さい声で礼を言い涙を拭うナジン。


「旨い飯作ってくれたのに変な事言ってごめんな。すまんがマノちゃんお茶を一杯頼むよ。」

「はい。」


 見られていては気まずいのだろうとマノがその場を離れてお茶を用意する。

湯を沸かしていると足早に通りを行く人の流れが窓越しに見えた。おかしいと思ってマノとキュトとで目を合わせる。

キュトが様子を見に行こうかと動き出した時、店の入り口から兵士が顔を覗かせた。


「この中に楽器を弾けるものは居らんか?何でも良い簡単な曲を弾ければ。」


 急いでいる様子の兵士から唐突な質問に皆顔を見合わせる。

 キュトがマノを見る。

 マノは竪琴が好きで旅の間にも演奏で皆を楽しませていた。しかし兵士の呼び掛けだ危険が無いとは言えない。マノは心配そうなキュトを見返してうんと頷くと兵士の前に進んで行った。


「プロフ国の子だな?すまんが楽器を弾けるなら自分の楽器を持って広場へ来てくれ。」


 それだけ言うと兵士は他の者を探すのだろう走り去ってしまった。


「何なんだ?」

「さあな。」


 食事に来ていた者も不審そうに顔を見合せる。


「何だか良くわからんがマノちゃんが行くなら俺もお伴をするよ。」


 そう言ってナジンは大急ぎで食事を掻き込んだ。驚きで兵士に声を掛けそびれたがナジンは横笛が得意だった。


「誰か横笛を持っとらんか?」


 食事を終えたナジンが周囲に声を掛けるも着の身着の侭逃げ出した者ばかりで首が横に振られる。


「子供用の横笛なら父さんが売ってると思う。今日は広場の手前で店を出している筈だよ。マノの竪琴もそこに有るよ。」

「無いよりましか、じゃぁ行ってみるとするか。」

「はい。」


 着いて行きたそうなキュトにその場を任せマノとナジンは広場へ向かった。

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