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露程も知らない幻想組曲  作者: 熱帯長草草原地帯
第十章 金木犀の下で
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木の上に建てられた

いつもお読み頂きありがとうございます。6/7に前話の最後修正致しました。本日up部分との繋がりが良くなったと思います。そちらと続けてお楽しみ頂ければと思います。m(__)m

 

「なんだあれは……」


 木の上に建てられた見張台に立つのはロブド国の兵士三人。それぞれ三方を警戒していたがその内の一人から驚きの声が上がった。

 見張台の下にはプロフ国とフォス国から来た一人づつが待機している。

 五人一組の偵察部隊、その内訳は変わっていた。

 ロブド国の兵士三人が戦闘要員として。プロフ国の魔法工作部隊より魔法陣の構築と見張台の設置要員として一人。フォス国の神官は通信と朝焼けの歌で部隊を護る要員として一人が配属されている。

 闇の王(プルートー)の影の動向を探る為、襲われた村の更に南の森の各所に九つの部隊が配置された。

 この混成部隊が短時間で結成されたのには三大精霊の目覚めが大きく関係している。

 結界解除の(のち)、プログレヤ、ロブレシア、フォムンの協力により速やかに各国の情報が統合された。そして闇の王(プルートー)の影の居るであろう黒い泉についておおよその場所が特定された。

 失なわれていた転移の魔法陣を復活させた事も情況を大きく変えた。人員は転移の魔法陣で行き交い、また精霊の守り(フローライト)を通しての伝達網が構築された。

 動きの無かった闇の王(プルートー)の影を見付けるべく黒い泉の予測地点より数キロ離れた場所に見張台が次々と立てられた。

 見渡す限りの真っ白い雪の森から黒い雲が涌き出していたのを見張りの兵士が発見したのは見張りに赴いた翌日だった。

 『なんだあれは…』と言う驚きの声に別方向を警戒していた兵士二人が振り返った。

 驚きの声の原因、森から涌き上がる黒い雲を二人も目視した。直後、黒い雲を中心に物凄い勢いで木々が周囲に薙ぎ倒されていく。


「やばいっ全員臥せろ!」

「おわっ!」


 数秒の後、轟音と数瞬遅れて暴風が見張台を襲った。見張台の床に伏せた三人を激しい揺れと鋭い風が襲う。それは三頭獅子の放った一鳴きだった。その姿は後に目撃されるが今はまだそれを知る者は居ない。流石にここまで離れていれば木が倒れる事は無かったが、余りの衝撃に鍛えた兵士ですら体の芯から震えが上がってくる。

 続いて森のあちこちから狼の遠吠えが響く。徐々に黒い雲の元へ集まって行っているようだった。


「正に化け物だな…」

「おいっ二人とも無事か?」


 見張台の下に居た二人に声をかけたが何とか無事の様でしっかりした返事が返ってきた。


「見張りを続けてくれ、俺は報告を行うぞ。」


 いち早く正気に戻った兵士が見張台を素早く降りて行く。指令本部への報告内容を考えながら神官に声をかけた。


 ……………………………………………



「…ついに動き出したか。」


 各地から上がってくる報告にロブド国王が呟いた。大きな地図が置かれたテーブルを囲む皆が頷いた。

 ここはロブド国、試練の泉近くに設営された対闇の王(プルートー)の影の司令本部。背水の陣とばかりにロブド国王自らが指揮を執る。

 そこに集まるのはフォス国の王、プロフ国の女王、各国軍事部門の参謀達、神官長達だった。

 名だたる顔ぶれの中にその場に居るのが不思議な少女がいた。軟らかそうなブロンドの髪に縁取られた幼い顔、一見プロフ国の少女に見えるが不機嫌そうな蒼い瞳で地図の一点を見つめていた。彼女こそ三大精霊の一人プログレヤである。その隣に座るのは黒髪、黒目の偉丈夫、覇気を放つロブレシア。更に隣に座るのは茶色の髪に細身の躯、茶色の瞳は穏和ながらもロブレシアの覇気をそよとも感じて居ない様子のフォムンだった。


「進行方向を報告しろ。近付く影が居れば朝焼けの歌に効果が有るか試してくれ。

 くれぐれも命を粗末にせぬように。作戦通り危険だと感じたら転移の魔法陣で離脱するように。」

「はっ!」


 黙って作戦の推移を見守っていたロブレシアがぼそっと呟いた。


「全くリベルトの爺さんはいつまで待たせるんだ。」


 ………………………………………………………



 峰司の家を出てから一時間程だろうか、北の森に入った。

 朝食の席でヒボラ、クダナ、峰和、に昨晩分かった事が有るかと聞いたのだが。


「ホーテと言う名前が記されていました。こちらの国の言葉で峰照と書くのですが山々を照すという様な意味になります。我が家の男子の名前には峰と言う字を付けるのが慣わしとなっております。ホーテ様の名前がその由来の様です。」

「へー僕もそうだけどシュタリアの女の子は‘ノ’を入れてるよ。面白いね?」

「ナーダン様の奥様もティノ様ですね。我が家には女の子の名付けに決まりは無いのですが。峰とは東の森を更に登って行った山を指すことが有ります。縁の地と呼べなくも無いのですが、しかし山を全部探すとなるとどれ程の広さになるか。麓の者から見れば鶫村も峰と思える場所ですし。」

「私も色々考えて見たのですが、道標とするにはちょっと心許ない内容なのですよね。」

「ナーダンの手記ってさぁ殆んどが言葉や文字の練習用に造られたみたいなんだ。」

「練習用?良く分かんないんだけど?」

「ノアタさんオレもそれで練習したんです。えっと絵の無い絵本みたいなのから始めて段々難しい物語とかも読めるようになるんです。手記は何冊も有ってオレも全部はまだ読んでないです。」

「遠くの村に手記を持って移り住んだ家族もおりまして、間がかなり抜けてしまっているんです。手元に有るものでナーダン様の縁の地と言えそうな所は…私も記憶が曖昧で、残りの本を取り寄せるにも時間を頂く事になります。お急ぎの所お役に立てず申し訳ありません。」

「そっかぁ。そう簡単には行かないか。」

「兎に角この村の周辺を探っていくしか無いな。先ずは北の森か?」

「はい、大きい金木犀が有るはずなんです。ちょっと場所をはっきりと覚えては居ないんですけど。」


 そんな話で取り敢えず北の森に向かって来たのだ。

 そして俺達を先導するのは峰司と沙葉。沙葉は今朝も早くから手伝いに来てくれて居たのだが北の森の金木犀の場所が分かると言う事だった。

 峰司はその事に驚いていたな。何でも子供だけで行ってはならない森らしいのだが、金木犀を使った薬が有るらしく沙葉の薬師をしている母親と何度か行った事が有ると言う。

 しっかりした足取りで進む沙葉。その隣の峰司は何故か何度も辺りを見回している。

 俺は少し足を速め峰司に並んだ。


「キョロキョロしてどうした?何か気になる事が有るのか?」

「うん、オレ小さい時に迷って一度だけここに来た事が有るんだ。だけど凄く見覚えが有るって言うか、変な感じ。」


 そう言うと峰司は沙葉に話しかけ、多分金木犀の場所を指し示したのだろうそちらの方向を見て頷いた。


「えっと、そしたらこっちから行けると思います。皆、着いてきて下さい。」


 木々の間を突っ切るように進んでいく峰司を追いかけて歩き出す。峰司が徐々に速度を上げて最後は走るように森を抜けた。身体強化の魔法を使っている自覚も無いようだが峰司の速度に着いて行けなくなった沙葉をノアタとクダナで補助する。


「峰司!おいっちょっと待て!」


 ヒボラが声をかけるが聞こえていない様に峰司は進んで行ってしまった。


「どうしたんだ?しょうがないヒダッカ追いかけろ。」


 めんどくさそうに言うヒボラだが心配そうな表情を浮かべている。俺も嫌な予感しかしない。


「先に行ってる。」


 そう返事をして速度を上げた。追いかける事自体は難しく無かったが胸騒ぎがする。何度も声をかけたが峰司は返事もしない。こんな事は初めてだ。

 木々に遮られ一瞬峰司を見失った。

 次に峰司を見つけた時、金木犀を前に背を向けた峰司は肩に梟を乗せていた。


「はぁはぁっ……そりゃなんだ?」


 峰司が振り向くと俺の革袋からリンが飛び出して行った。

 梟の前に行くと挨拶でもするように忙しない点滅を繰り返した。何がなんだか解らんな。


「あの、見つけたよ。」

「何をだ?」

「リベルト様。」

「そうか良かったな。精霊の守り(フローライト)に戻って貰えそうか?」

「えっと必要無いかな?」

「何でだ?」

「えっとお話が出来るから?こちらがリベルト様です。」


 峰司が肩に大人しく乗っている梟を手で指し示す。


「それがか?」

「それとはなんじゃそれとは。」

「「「梟が喋ってる!?」」」


 いつのまにか追いついて来たヒボラとノアタ、それにクダナが同時に叫んだ。俺も同じ気持ちだ。沙葉は疲れたのかしゃがみこんで息を整えている。


「話している時間が惜しい、直ぐに出発する。」


 そう言うと梟は峰司の肩から飛び上がりと言うか翼を広げぽてんと着地した。とんとんと地面を叩くと梟の足先から光の線が延びていく。


「おっ!」

「魔法陣ですね!」


 クダナとヒボラが梟の背後に近寄っていく。それと反対に峰司がこちらへ向かってきた。真っ直ぐ俺を見つめ話し出した。


「あの、ヒダッカさん。オレ影と戦わなくちゃいけないみたいなんだ。ヒダッカさんも手伝ってくれる?」

「良くわからんが峰司は戦いたいのか?」

「うん、今解ったんだ。それと……きっとオレにしか倒せない。」

「それなら俺も頑張ってみるか。」

「ありがとう。」

「峰司君僕は誘ってくれないの?」

「えっとノアタさんも来てくれると心強いです。」


 いつの間にか沙葉と共に俺達に近づいていたノアタが、うんうんと頷いた。


「勿論俺も行くぞ!」

「私もお供しますよ。」

「あの、ありがとうございます。」


 俺達の話を不安そうに聞いていた沙葉に峰司が近寄って行き神殿の町で買った髪飾りを渡した。何かを伝えていたが内容は聞き取れない。沙葉は返事を返して少し距離を置く。


「その幼子以外が行くのだな?早く魔法陣へ乗れ。」


 梟いやリベルト?に促されて沙葉以外が魔法陣へと進んだ。沙葉にも俺達が出発すると分かったのだろう。森の中に一人残すのは申し訳無かったがどこに飛ばされるかも聞いてない俺達よりは安全だろう。控えめに手を振ってきたので皆で手を振り返した。

 耳馴れない言葉を(リベルト)が唱えると足下の魔法陣から光が上がってきて眩さに目を閉じた。


 ………………………………………………


 目の前で人が掻き消えるのを驚きを持って見つめた沙葉。魔法陣の有った場所に吸い寄せられるよう金木犀の下でひざまずくと皆の無事を祈った。

 祈り終えると立ち上がり受け取った髪飾りを着け、しっかりとした足取りで鶫村へと沙葉は歩み始めた。

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