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露程も知らない幻想組曲  作者: 熱帯長草草原地帯
第九章 欲望の果て
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あくびを袖口で

 あくびを袖口で押さえながら鞄に荷物を入れる。

 少し前にヒボラさんとノアタさんが到着して持ち物を振り分けしてくれた。

 荷物は少さくしたかったけど鞄の中身をみっちりと隙間なく詰め込んでも大きくなってしまった。背中に当たる部分には柔らかいもの、底面に軽いもの、一番上に重いものを入れると背負いやすいって。お土産は置いていっても良かったけど、いつ戻って来れるか今のところ分からないから……


「なんだ、ヒボラも峰司(ホウジ)も眠そうだな?」

「あ、えっとロイ君と色々話してたら遅くなっちゃって。」

「俺も弟たちに質問攻めにされてさ、寝かしてくれなかったんだ。」


 ヒダッカさんの指摘に気まずくなった。ヒボラさんとそっと目を合わせた。ヒボラさんも頭を掻いて肩身が狭そうにしていた。

 ノアタさんが笑いながら話しに入ってきてくれた。


「ロイ君とすっかり仲良しになったんだね。」

「はい。話しながら寝ちゃったんですけど……」


 ロイ君はもう学校へ行ってしまった。何度も振り返りながらまたねって言ってくれた。オレも手を振りながらまたねって返した。


「まったく、二人とも緊張感が無いぞ。」

「まぁまぁ積もる話しも有ったのでしょうから。」

「体調管理の視点で言ったら師匠に怒られるよ。まぁ、しょうがない所も有るよね。」

「クダナもノアタも甘いな。今日から森の中なんだぞ。」

「すみません。」

「す、すまん。」


 ヒダッカさんは話しながらも手早く装備を身につけていく。

 今日からはオレもベアー討伐の時の胸当てと脛当てを借りた。クダナさんも一応ヒボラさんの装備を借りてる。戦闘関係は役に立ちませんと言ってたけど。

 皆の準備が整いスコットさんに挨拶をする。


「あの、お世話になりました。とても楽しかったです。」

「こちらこそ賑やかになってとても楽しかったですよ。また何時でも遊びにおいで。」

「はい。貰った革袋と靴大事にします。」

「ああ。今度は峰司(ホウジ)君用の靴を作ってあげるよ。色々片付いたらまた遊びに来るといい。体調に気を付けるんだよ。」

「はい。スコットさんもお元気で。」

「そうだね。クダナ神官様、皆も気を付けて行っておいで。」

「はい。お世話になりました。精霊の加護がありますように。」

「行ってくる。」

「おじさん元気でね!」

「戻ってきたらまた果実酒飲ませてくれよ!」


 スコットさんは庭の木戸から出て見えなくなるまで手を振ってくれた。

 ロイ君もスコットさんも本当に良くしてくれた。短い間だったけど自分の家みたいに思えた。なんか変な感じだ。鶇村を出たときはこんなに知り合いが増えるなんて思ってもいなかったし。

 コノカちゃんやモーリット先生、ユイムさんテノンさん挨拶をする時間も無かったけど皆を守る為にも早く精霊を探さなきゃ。

 改めて依頼の大切さに気が引き締まる。

 眠気は既に吹き飛んでいた。



 …………………………………………………



 プロス国内



 プロス国の国境付近に砦などは無い。

 隣国とのトラブル等ここ数百年起こっておらず、また町が樹上に形成されるという特殊な作りで野生動物からの防備もほとんど必要とされなかったからだ。

 我等の主な警戒対象は野盗の類いだ。しかし今年は森の様子がおかしい。

 森の恵みはここ数年で最高とも言って良い程なのだが、冬を前にロブド国から来る筈の渡り鳥が飛んでこない。

 念のため普段よりも国境の巡回警備を重点的に行っていた。

 そして今、見つめる先に街道を行く三騎の馬。その背には武装された男が乗っている。

 大木の枝から枝へ国境警備隊のメンバーは移動しながら合図を送り合う。

 ロブド国から訪れた者はきちんと装備された見た目から野盗では無いと思われた。

 来訪の意図を聞く為、声をかける事にしよう。

 何か情報が貰えると良いのだが……


 ……………………………………………………


 額から首へと流れる汗を拭った。

 プロス国に入ると気温と湿度がまるで違う。

 既に厚手のマントを脱いで馬の背に載せていた。


「まったく何なんだ。」


 つい不満が口から出てしまう。森の中の道は下草や木の根が街道にまで張り出している。気は急いているが馬の足元を取られぬ様、また枝に顔を叩かれぬように慎重に進む。


 ザザッザッガササッ


 街道にばかり気を取られてしまっていた。あちこちから急に音がしたので訝しく思いながら音のした頭上を見上げる。

 木の枝が揺れ、その上に人が集まっていた。数人が地面に向かって飛んだ。

 私達の進路を遮るようにとんっと着地した。慌てて馬を止め降りてきた者と対峙する。それぞれ弓を背負った者達だ、警戒しながら見つめた。

 私達が馬を止め三人横並びになるとそれを待っていたように大声で話しかけてきた。


「我らはプロス国国境警備隊である。この隊を率いるダバン・ルカンと申す。此度は如何様な用件で参られた!」


 古風な言い回しに多少面食らったがこちらも即座に返答をする。


「私たちはロブド国王よりの使者でございます。近衛隊のボンデと申します。緊急の用件でプロフ国女王の元へ向かっております。急ぐ旅でして入国を許可願います。」

「使者が何故そのような武装をしていらっしゃいまするか?」


 私達の背中にいつでも引き出せるように挿された長槍を指し示した。

 確かに物々しい装備に見えたかも知れない。

 これはウルフの襲撃対策だ。何処に潜んでいるかも分からないウルフ。纏った影に触れるとどの様な危険が有るか分かったものじゃ無い。万が一にも触れずに済むように用意させた物だった。しかし通常の剣のみだったらここまで警戒されなかったのかも知れない。

 少し時間が掛かりそうだ。そっと溜め息を吐き事情を説明した。

 ここでいい加減な説明をしては逆に時間を食うだろう、どうせ知って貰わねばならない事だ包み隠さず話そう。

 私達は事の経緯を説明した。

 信じられないような内容に疑問を挟まず、国境警備隊の者は礼節を持ち話しに耳を傾けてくれた。

 ここまで言う必要は無いかも知れないが更に言葉を加える。


「幸い私たちは危険な目に会いませんでしたが、影の勢力の全容について全く分かっておりません。くれぐれもお気を付けくださいませ。」


 話を終えると国境警備隊のうち二名が先導を努めてくれる事になった。


「緊急時に足止め御勘弁願います、我等のお役目故。その者達について行かれれば最短の道を行かれましょうぞ。では疾くと参られよ。」

「ご配慮ありがとうございます。宜しく頼みます。」


 脚力強化の魔法でも使っているのだろうか?先導の二人は樹上を馬より早く進んでいく。遅れた分を取り戻すべく私達は先を急いだ。


 …………………………………………


 ロブド国の使者がプロス国へ着く二ヶ月程前


「父さん、マノも一緒に行きたいって言ってるんだけど……」

「えっ?」


 突然の申し出に私は書類を書く手を止めた。

 今年の行商には息子のキュトを同行させるつもりだった。16歳になり家業を継ぐ修業を始めていた。

 国内で三つの店を構える商会の長となって久しい。その商売の原点が行商なのだ。

 売りたい人と買いたい人を結び、橋渡しをするのが仕事。

 私自身も父親に連れられて各地を歩き何が必要とされているのか、どの様な物が作られているのか見て回って沢山の事柄を学んだ。

 今でも年に一度の行商は従業員に店を任せ自ら出掛けている。そして勉強を兼ねて従業員の中から数名を連れて出掛ける様にしていた。

 前々から今年はキュトを同行させると周囲の者に伝え、本人にも準備をさせていた。しかし……


「行商に着いてくるってマノがそう言ったのか?」

「うん。ダメかな?」


 息子のキュトと違い双子の妹のマノには家業を継がせるつもりは無かった。母親に似て我が子ながら美しく成長したマノ。店に出て看板娘となるなら大いに繁盛しそうな容姿だ。

 しかし実際は生まれつき言葉が不自由なマノは店に立てば母親や兄の影に隠れてしまうような子だった。

 行商に出れば沢山の人の前に立つ必要が有る。それを本人が望んでいるとは露とも思わずキュトだけを同行させる予定を立てたのだ。

 私はしばらく考えたが世の中を見て回るだけでもマノの成長に役立つと考え了承したのだった。

 双子のキュトとマノは意志疎通は密に出来ているが大人になればそれだけでは済まない。

 他の者とでもやり取りをしていかなくては困ることも有るだろうと。


「そうか、連れて行っても良いだろう。キュト準備を手伝って上げなさい。マノ!」


 隠れていたマノを呼び意思を再確認した。


「一緒に行っても良いが大変だぞ?それと頼み事は自分でするようにな。」


 大きく頷きさらさらと手帳に書き付けて私に見せた。


『頑張ってお手伝いします。』

「ああ、期待してるぞ。」


 総勢六名、馬車二台での旅は順調だった。今回は子供二人を連れているので大きな街道を進む事にした。途中の村に寄りつつフォス国の神殿の町へ向かった。

 積み込んだ果物や木製品、薬草等は順調に売れた。そのままロブド国を目指す。

 何が待ち受けているかこの時の私達には知る由もなかった。

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