うろを目指し
うろを目指し俺達は半日程森の中を進んだ。陽が傾き開けた場所で野営を行っていた。
「なんか拍子抜けだったね?」
ノアタの言葉は焚き火を囲んだ皆の心の声と言っても良い。パチパチとはぜる音を聞きつつ暖かな火にあたっていた。ぐるっと周囲を見渡してヒボラが答えた。
「変わった所は無かったよな?」
「ああ、そうじゃなければ火など焚かんしな。」
「足が暖められて助かりました。」
「オレも。」
峰司とクダナが荷物に寄りかかりながら焚き火で素足を暖めている。毛布にくるまっている姿がそっくりだな。
「森に入ってすぐにびしゃんっ!だったもんね。」
「はい、冷たいし濡れた靴が重いし歩くの大変でした。」
「私もうっかりしました。面目ないです。」
「警戒しつつ森を歩くなんて普段しないだろうからな、明日からは気を付ければ良いさ。」
「はい…」
「そうします。」
「そのお陰で焚き火の許可が降りたし、まぁ良かったんじゃないか?」
「そもそも二人が教えてあげなかったからいけないんじゃない?」
「うっそう言われるとな?」
「ああ。……何だか懐かしいな。」
今日は俺とヒボラを先頭に峰司、クダナ、最後尾にノアタの順で歩いた。戦闘力の無い二人を狩人で守る形にした。
雨後の森を歩き馴れた俺達は水溜まりを見つけて避けたんだが、二人には分からずそのまま踏み込んでしまっていた。
「懐かしいとはどうしてでしょうか?」
「クダナも知ってるだろうが森の中で落ち葉が平らな所は気をつける。水面に落ち葉が浮かんでいるから平らに見えるだけだからな。その下は深さが分からない水溜まりだ。子供の頃は気付かず俺も落ち葉を踏み抜いて父さんに何度も怒られたんだ。」
「スコットさんも怒ること有るんだ?」
「裸足で学校に来たことも合ったよね?」
「ああ、あれは参ったよ。靴を大事にしないなら履かせないって言われてな。怒ると怖いぞ。」
「それはイメージが変わりますね。」
「俺はちょっと怖い人なんだって思ってたな。今は普通に話せるけど。」
「僕にはいつも優しかったよ?」
「ノアタはいつも靴を綺麗に使ってたんじゃないか?怒るのは靴に関してくらいだったからな。」
「う~んそう言えば泥んこにしてた事はあんまり無いかな?」
「俺は汚してたと思う……」
「たぶんそれだな。」
「はは、職人気質って訳ですね。」
「オレの靴汚したの内緒にして良いかな?次に会うとき気まずい…」
「はは。」
「ははは。」
「ふふ。」
「はは、まあわざわざ言わんさ。最近は父さんも丸くなったしな、怒られる事は無いと思うが。」
困った顔をしている峰司をからかうのはやめておこう。
「まぁ裸足で火に当たれる程安全で良かったってことだ。」
「だな。」
「いつもの森と比べてどうなんでしょうか?」
「普段よりも安全って感じかな。」
「そうだな、冬眠前の食事も済んだって所か?大型動物の痕跡は見かけ無かったしな。」
「うんそうだね。鳥もあんまり見かけなかったのは気になるけど寒いからかな?静かでちょっと驚いたよ。冬が早目にやって来た感じ。」
「明日は霜が降りるだろうな。暖まったら木の上で寝る準備をするぞ。ヒボラは二人を助けてやってくれ。」
「了解。」
「「「了解!」」」
……………………………………………………
2日目の昨日は丸1日森の中を歩いたけど変わったことは無かった。初日と違って水溜まりに入っちゃう事も無かったし。3日目の今日は昼頃うろに到着する予定。早朝の森は昨日に増して静かだった。少し静か過ぎるって。寒いので早くうろに到着したい。日陰には雪が溶けずに残っている場所も有って、ここら辺で雲がかかったらたぶん雨じゃなくて雪になるんだよね。
「出発するぞ。準備はいいか?」
「「はい。」」
「はーい!」
「おー!」
ノアタさんもヒボラさんも凄い笑顔で返事している。森に入ってからの方が元気だな。あともう少し、オレも気合いを入れる。
この辺りは鶇村から来たとき通った場所らしいけど、木から葉っぱが落ちてるし全然別の場所みたい。帰りは雪が積もっているのかな?そしたらまた全然違う景色になるんだろうな。
一緒に戻りたいけど足手まといなんだろうなぁ。はぁ。
「どうしました?お疲れですか?」
「あっ、あの、平気です!」
クダナさんの声にヒダッカさんが振り返る。
「なっ何でもない。大丈夫だよ。」
「うん?無理をするなよ?」
「うん。」
また心配をかけちゃってるな。皆の速度に着いていくのは問題無かった。身体強化の魔法も使えてるし。
クダナさんがちらっとこちらを見てくるので大丈夫と頷いて答える。
守って貰うより護る男になりたいんだけどな。フォス国の大男、ナーダンさんには遠く及ばないって感じ。皆に聞こえない様にまた小さく溜め息を吐いた。
「そう言えばリン様の泉はこの森に有るのでしょうか?」
「たぶんな。」
「どこら辺か覚えて無いのか?」
「子供の頃に浄化の練習をしたのはもっと町に近い所だと思うが、どこだか見当もつかん。」
「リンに聞けば良いんじゃない?」
「リン?」
「リン様?」
立ち止まってヒダッカさんとクダナさんが呼んでもリンは出てこなかった。
「出てこないか…まぁ夜にでも聞いてみるか。ゆっくりしてる場合じゃ無かったな。急ごう。」
立ち止まっていたのは少しだけど慌てて歩き出す。日が高いうちにうろにたどり着きたい。
クダナさんとヒボラさんで魔方陣を調べるのに明るい方が良いって。上手くすれば一晩待たずに精霊の道を通り抜けられると思うって。
静かな森を黙々と進んだ。少し息が切れて足が重たくなってきた頃、槐のうろを囲む一群の木々が見えて来た。




