濡れそぼった
濡れそぼったフードの隙間から前を見る。トラシ町の灯りにほっと安堵の溜息をこぼす。
昼過ぎからの冷たい雨に先を急がせた馬に声をかける。
「もう一頑張り頼むな。着いたらゆっくり休もう。」
いつもと変わらないトラシ町へ入り馬をゆっくり歩かせる。
一先ず俺の家に向かう。二人ともまだ起きているだろう。
「ただいま。帰ったぞ。」
「兄ちゃん!お帰り!」
「ヒダッカお帰り。意外と早かったな、皆無事かい?」
「ああ、今馬車から荷物を下ろしている。父さん達も変わり無さそうだな。」
「ああ、お陰様でな。」
「僕、荷物運ぶの手伝ってくる!」
俺の返事も待たずロイが外へ飛び出していく。
…………………………………………………
ヒダッカさんの家からビシャビシャと水を跳ね上げながらロイ君が出てきた。
「峰司君お帰り!」
「ロイ君ただいま!元気だった?」
「勿論だよ。でも皆居なくて寂しかったよ?それよりおっきい馬車だね?どうしたの?」
「ちょっと色々あって。急いで帰らないと行いけなくてさ。」
ロイ君の顔を見て帰ってきたんだなと思えた。神殿の町をばたばたで出発しちゃったけど一番大事な精霊の守りもしっかり貰えたし。
「そうなの?行き来の方法とか分かったの?」
「うん。」
「良かったね。後で話し聞かせてよ。取り合えず荷物を運ぶね。」
「うん。」
馬車の中からクダナさんが出てきてロイ君は少し驚いてたけど軽く挨拶を済ませてた。5人がかりで荷物を運び出す。
馬関係の荷物とノアタさんヒボラさんの物以外を家に運ぶ。
食料とかけっこう有る。
馬車に載せてた荷物を今度は背負って進まなくちゃ行けなくなるんだよね。
今日は冷たい雨だったけど森は奥に行くほどに高くなっていてウロの近くは雪が積もっている可能性が有るって。雨だって大変なのに雪の中を重い荷物を背負って歩く。そんな時にウルフに襲われたらって……どうしても考えちゃう。
森を安全に抜けられなくちゃ精霊を探すことも出来ない。
……………………………………………………
濡れたマントを脱ぎ乾いたタオルを受けとる。
「寒かったろう?」
「そうだなすっかり冷えたよ。」
「すぐに温かい物を作ろう。」
「ああ頼む。ヒボラとノアタの分は要らん二人は帰るからな。」
「ゆっくりしていけば良いのに。」
「明日には出発する予定だからな、説明は後でするよ。それと今夜一人客を泊めたい。」
「ああ、構わないよ?今度はどんなお客さんか楽しみだね。」
父さんと話している間に荷物を持ったロイが帰ってきた。その後に峰司、ノアタ、クダナ、ヒボラと続いて入ってくる。父さんは荷物の多さに驚いている。
「スコットさんお久しぶりです。」
「峰司君お帰り。良く無事に戻ってきたね。」
「はい。」
峰司は両手に荷物を抱え照れた表情を浮かべる。
「荷物はこっちに持ってきて!」
ロイの指示で荷物を置きながら皆で簡単に挨拶を済ます。ノアタとヒボラはここで一旦別れる。家族への挨拶と旅支度を整えるためだ。
「じゃぁまた明日な!」
「昼前にはここに来るよ!」
旅の疲れも感じさせず二人は身軽に家を出ていった。
…………………………………………………
「クダナさん暖炉の側で暖まってください。直ぐに食事を用意しますので。」
「ありがとうございます。突然お邪魔したのに恐縮です。」
「いえいえ、お気になさらずどうぞゆっくりされてくださいね。」
スコットさんは穏やかな語口で微笑まれ椅子を示されました。
今夜は峰司君が使っていた部屋をお借りする事になります。峰司君はロイ君の部屋で一緒に寝るそうです。
暖炉で暖まりながら部屋を見回します。
居間の3分の1程が靴作りの作業場所になっています。完成した靴も幾つか置かれています。
「素敵なお家ですね。」
「うん?まぁ普通だろ?」
私の言葉にちらっと後ろを振り返って直ぐにまた暖炉に手をかざしています。
雨が降りだしてからずっと御者を努めて下さっていましたから随分冷えた事でしょう。
台所ではスコットさんロイ君峰司君で賑やかに料理を作っています。
ヒダッカさんのお母様は亡くなっているそうですが温かな家庭と言うのが分かります。
私もたまには親孝行しなければいけませんね。父母は王都の近くの町に住んでいますが仕事の忙しさを理由に顔も見せて居ません。
会えば嫁を早く貰えとか言ってくるのも足が遠退く理由なのですが。
暖まりながらぼんやりと考え事をしていると手早く食事を整えてくださいました。
既に二人は食事を終えていらっしゃったのでお茶を飲みつつ私たちに付き合ってくれます。
精霊の守りに精霊を戻すと言う依頼にスコットさんは心配そうな顔を浮かべ、ロイ君は興味津々といった様子です。
「まぁ俺達に影を倒せって依頼じゃないしなんとかなるだろう。ただ二人とも用心はしていろよ。もし変な物を見かけたら絶対に触らず全速力で逃げてくれ。」
「私達よりもお前達の方が心配だよ。行くなと言いたい所だがそうもいかないんだろう?無理をするんじゃないよ。」
「そう言えばウルフは最近見かけて無いって。一昨日クイードさんから聞いたよ。」
「うん?師匠に会ったのか?」
「ウルフ討伐部隊に参加してるって言ってた。寒くなって巣に戻ったかもって。」
私はヒダッカさん峰司君と目を合わせる。安全に森を抜けたいものです。
「あの、トラシ町周辺で見かけられたウルフは黒い影は纏っていなかったのですよね?」
「俺達を襲ったウルフは見た目は普通だったな。その後は何か聞いてるか?」
ヒダッカさんの質問にスコットさんもロイ君も首を横に振る。
「まぁ警戒はしっかりするさ。ヒボラの夜営道具も有るしな。」
「あれの事ですか?」
部屋の片隅に積まれた荷物の山を見る。夜営に役立つ物としておねだりされていました。木の上で眠れる道具だそうです。寝ているときに襲撃を受けるのが一番厄介ですからとても助かる物です。お値段もかなりすると思うのですが神官側が人数分用意してくれました。
「ああ、身軽に動ける様に食料は最低限だけ持って残していく。」
「そうですね。」
峰司君は明らかにほっとしている様子ですね。流石にあんなに持って歩くのはしんどいでしょう。
鶇村側へ出てどれくらい期間がかかるかは不明なので多目に持たせてくれたようですが、峰司君に聞いた所に依れば向こうで食糧調達も難しく無さそうです。
「峰司は一応自分の荷物を全部持っていけ。」
「はい。」
峰司君は複雑な顔で頷いています。鶇村へ帰った後にトラシ町へ戻ってくるか悩んでいるのです。安全が保証できない現状では置いてくるしかないと私達は考えていますが。大男の子孫いえ、ナーダン様の子孫として思うところが有るようです。
「もう遅いです、寝る前に癒しの曲を吹きましょうか?」
「お願いします。」
「ああ頼む。」
私の提案に峰司君とヒダッカさんは直ぐに頷きスコットさんとロイ君は不思議そうにしています。最初は峰司君の為に吹いていたのですが竪笛を聞くと良く眠れると言うことで恒例となりました。健康な方が聞いても悪いものでは有りませんしね。
しかしリン様が曲の間に飛び出してきて二人に説明を始める事になってしまい結局眠るのが遅くなってしまったのですが。




