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露程も知らない幻想組曲  作者: 熱帯長草草原地帯
第九章 欲望の果て
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焚き火に木を

 焚き火に木をくべ冷えた身体を暖める。

 少しずつ闇の密度が減った様だ。ぼんやりと薄明かるい空を見上げる。

 夜半に見張りを交替するために起きて冷え込みに驚いた。長く寝ていることは出来ず皆早々と起き出す事だろう。

 暖が取れるように湯を沸かし始めた。


「降りだしそうだな。」

「ああ、雨ならまだしも雪になるかも知れんぞ。」


 ヒボラと二人で焚き火の側で話していると予想通り馬車で寝ていた三人は早めに起き出してきた。


「おはよう!寒いね。」

「そうだな。雪になるかも知れんと話してた所だ。」

「雪?」

「もう雪ですか?」

「どうだろうな、まぁ先を急ぐに越したことは無いだろ。さっさと行こうぜ。」


 朝食は昨晩の残り物と熱い茶で簡単に済ませ出発した。

 馬に先を急がせる。今日中にはトラシ町に着ける予定だ。


 ……………………………………………………


 昨日の実験は概ね予想通りの結果が出ました。ヒボラさんも私も満足の行く結果でした。

 けれどもノアタさんが更に無茶なお願いをされています。


「昨日のも凄いんだけど…」


 ノアタさんも昨日の試し撃ちの効果は分かってらっしゃるので言い難そうにヒボラさんと相談しています。

 要約すると着地点で着火し爆炎を上げると言うのは使い勝手が悪いと。

 しかしあれは範囲指定をして延焼を防ぎ尚且つ範囲内の温度が高温になると言う高難易度の魔法を簡単に発動出来る優れものなのですが。正直言いますと狩人をされている方の智識、技術力では無い気がしました。


「ウルフだって弓が撃ち込まれたら逃げ出しちゃうでしょう?1回は効くかも知れないけど僕の魔力量じゃ範囲が狭いから逃げられそうだよね?例えば頭上で火が付けられないかな?火の玉が破裂して降り注ぐみたいなの。」

「それかっこいいです!」


 峰司(ホウジ)君は目を輝かせていますね。

 対してヒボラさんは難しそうな顔をされています。

 影を纏ったウルフと出会った場合、影に触れないのは皆の一致意見です。触れると命を奪われると言うような伝承が有りますからね。

 遠距離攻撃を当てるのを基本戦略としたい私達には手段が沢山有るのは良いことですが。


「そもそもノアタはもう少し訓練が必要だぞ?精霊の力をもっと使えば範囲が広くなる筈なんだ。」

「あ、うん。そこはもっと頑張るよ。だからもう一種類作ってくれないかな?ヒボラ先生。」


 手を合わせダメかな?ってヒボラさんを覗き込んでます。


「そっそうだな。材料は有るし。」


 今のは可愛さに負けた様です。好きな子にお願いされて断れなかった反応ですね。分かり易いですね。

 峰司(ホウジ)君も気付いていそうですが口に出さないのは配慮でしょうか?


「そう言えばヒダッカと峰司(ホウジ)君の精霊の力の借り方って大分違うよね?」


 昨晩お二人が精霊の力の借り方をノアタさんに見せてくれたのです。


「それは私も気付きました。ただ皆さんやり方が違うのが普通です。」

「そうだな。師匠は精霊と仲良くするって言ってたぞ。峰司(ホウジ)は師匠の借り方に近いんだと思う。」

「えっとそうなんですか?」

「ベアー討伐したときさクレイロッドがベアーを貫通して地面に刺さってたのノアタも見ただろう?」

「うん、見た凄かった。」

「あそこまでの威力は俺には出せない。峰司(ホウジ)の魔力が多いとしても精霊の力を沢山借りられてる証拠だ。」

「魔素じゃなくて、もしかして精霊を呼び出しているんですか?」

「そうだと思う。」

「僕にも分かるように話してよ?」

「オレにも分かるようにお願いします。」

「ヒボラ宜しければ私が説明しましょうか?」

「うん?じゃぁクダナ頼む。」


 この世界に満ちる魔素、それがどう言う物なのか人の探究心をそそる研究テーマです。しかしそんな説明は今は必要無いでしょう。


「この世に満ちている魔素。精霊の力とも言うので混同されやすいのですが、精霊視でも見えない魔素が沢山集まった物が精霊と考えられています。リン様の様に自我が有る精霊はまた特殊なのですが。」

「師匠と峰司(ホウジ)は精霊の力を借りてる。俺とヒダッカとノアタは魔素を借りてるんだと思う。クダナはどっちだ?」

「どちらもだと思います。」

「使い分けてるのか?凄いな。」

「ご存知か判りませんが精霊の護り手の力は魔素と親和性が高いのです。魔力の少ない私が笛をずっと吹き続けられるのもそのお陰ですね。」

「えっ?笛を吹いている間ずっと借りてるんですか?」

「はっ?峰司(ホウジ)は借りていないのですか?」

「………」


 これは私としたことが迂闊でした。峰司(ホウジ)君はまだまだ魔力制御の途中でしたね。


「すみません、ヒボラ、ノアタ私達は練習を再会しますね。」

「あ、ああ。後で精霊の力の借り方教えてくれよ。」

「ええ、分かりました。」

峰司(ホウジ)君、頑張ってね?」

「はい。」


 ……………………………………………………


 横笛を取り出し構える。


「音は出さなくて良いので魔力を練り上げて身体の延長の様に笛に魔力を通して見てください。勿論無属性だけですよ。」

「はい、やってみます。」


 これはモーリット先生の訓練で枯れ枝を使ってやったことが有る。身体の外にも魔力の道を作るんだ。横笛に魔力を少しずつ馴染ませていく。右に、左に身体を傾けるように。十分馴染んだと思う所で魔力を一方向に流す。


「出来ました。」

「では魔力を通した状態で鼻から息を吸って口から息を吐いてください」

「はい。」


 魔力を流しっぱなしにしているのでただ口から息を吐くだけでも弱々しく笛が鳴る。


「とても良いですよ。続けてください。」


 魔力が途切れないように注意しながら呼吸を続ける。


「魔素の力を借りていきましょう。力は抜いて息を吸う時に魔素を取り入れます。息を吐く時にそのまま魔素を出します。自分は魔力の通り道に成る感じです。」


 言われるまま意識してみる。吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って、吐いて。

 徐々に魔力を流すのが楽になってきた。

 吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って、吐いて。


「音を鳴らして見てください。」


 吸って吹いて。吸って、吹いて。


 横笛から今まで出せなかった音が滑らかに広がっていく。

 そのまま一気にリンの曲を吹ききる。


「良く出来ました。」

「はぁ。やっと吹けました。ありがとうございます。」

「お疲れ様でしたね。それが魔素の力の借り方で、楽器の正しい鳴らし方ですよ」

「はい。」


 クダナさんが視線を上げたのでつられてオレも上を見た。気づけばリンが飛んできていた。ふよふよとオレの横笛に近付いてきた。オレの横笛に近付いてきたのは初めてだった。


「リン、気に入ってくれたの?」


 まぁ合格だよとでも言いたそうに淡く光ってクダナさんに近づいていく。


「良かったですね。リン様も気に入ってくれた様ですよ。」

「はい。良かったです。やっとですね。」


 オレは照れ臭くなってしまった。


「お疲れでしょう少しお休みになってください。」

「はい。あの、癒しの曲も同じ様に吹くと良いのですか?」

「そうですね、大体同じです。自分を癒す場合は魔素を身体の中に隅々まで行き渡らせる様にします。癒しが必要な時は魔力も減っているはずですから借りる魔力を増やさねばいけませんがね。」

「えっと沢山必要なら精霊の力を借りても良いのですか?」

「いえ、それは危険なので駄目です。大きな力が直接身体の中に入るのは負担が多すぎます。」


 確かに今まで見た精霊はそれなりの大きさが有る。身体の中に取り込むのは危ないのか。知らなかったらきっと挑戦してたな。


「教わって良かったです。」

「訓練をすれば可能かも知れませんがね。ラクル神官を覚えてますか?」

「精霊の守りに光を戻してくれた人ですよね?」

「ええ、そうです。歌うと言うのは身体が楽器になります。魔力を流して歌うのは身体にとても負担が多いのです。私の知る限り現在魔力を込めて歌うのはラクル神官にしか出来ない事なのですよ。今は引退されていますが神官学校の音楽全般教えていらっしゃったのです。私も教え子の一人です。」

「そうなんですね。」

「ああ、そう言えば魚人族の方は魔力を込めて歌える方が沢山いらっしゃいました。素晴らしい歌声でしたよ。また聞きたいものです。」

「魚人族の人には危険はないのですか?」

「私も不思議に思って尋ねて見たのですが、身体の芯を壁の様に保ってその回りに妖精の力を取り込むらしいです。」

「妖精?」

「あぁそうでした、魚人族では精霊の事を妖精と呼ぶんだそうです。」

「面白いです。オレもいつか聞いて見たいです。」

「ええ。影の事が無事に終われば機会も有るでしょうね。」

「はい。」


 ……………………………………………………………



 暫く走らせていると峰司(ホウジ)が御者席に出てきた。


「ヒダッカさん隣座っても良いかな?。」

「ああ。どうした?外は寒いぞ。」

「あの、気分転換?」

「うん?構わんがさぼりか?」


 俺がからかうように言うと峰司(ホウジ)はそわそわと居心地悪そうな顔をした。


「なんか色々考えちゃって…頭のなかを整理したいなって。風に当たってて良いかな?」

「ああ。」

「あの、俺が御者をしても良い?見張りは休ませて貰っちゃったし。」

「うん?気にしなくて良いぞ。まだ旅は長いしな。」

「でも、馬車の旅は今日まででしょう?せっかく教えてもらったから。」


 手綱を渡す。

 二頭立ての馬車でも問題なく操る事が出来そうだった。

 焚き火で温めた石を持たせ、分かれ道が有ったら呼ぶように伝え馬車の中に入る。

 もしかしたら一人で考え事をしたかったのかもな。

いつもお読み頂きありがとうございます。

すみませんまた遅れてしまいました。

書き溜めが全然出来ません。

次話も頑張って書きたいと思います。


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