空は曇り
「ヒダッカさん、あとどれくらいでしょうか?」
「もうちょっと進めばトバリ町なんだが…日暮れが早くてな。」
「では今日は野宿にしますか?」
「そうだな…しょうがないそうするか。」
空は曇り月明かりも期待出来無い。昨日は町に泊まれたが思ったより暗くなるのが早かった。
「広い場所を見つけたら声をかける。」
「分かりました。」
クダナさんは野宿と聞いてやたら嬉しそうにしている。昨日は宿屋に泊まったのだが、旅といえば野宿じゃないですか?とか言ってたからな。
峰司やクダナさんには野宿は負担かと思ったし丁度良く夕刻に町へ着けたからしっかり休めたんだが。
神殿の町を出発してから旅は順調だ。
二頭立ての馬車は速度も早く乗り心地も安定していた。御者席はかなり寒いがな。
クダナさんはわざわざ出てこなくても良いのに練習の合間に御者席に顔を出す。今もリンを見ておおっとか小さく言ってた。
後ろから聞こえる様々な音にもそろそろ慣れてきた。
ヒボラがたてるゴンゴンとか詠唱の声とか。
クダナさんの綺麗な笛の音が聴こえるとリンがふよふよと革袋から飛び出して行って驚かされた。
ラクル神官の歌声には反応を見せなかったのにクダナさんの竪笛には嬉しそうに馬車の中へ飛び込んでいった。
しかし峰司の練習は気に入らないようで俺の方に戻って来てしまう。
精霊を探すために貸与された横笛に峰司は苦戦している様だった。
何でも普通に息を吹き込んだのでは音が鳴らないらしい。
魔力を通し音を出すというのが精霊に好かれる音の胆だそうだ。
実際にリンを見ればそうなんだろうと納得だ。
まぁ峰司の事だコツを掴めばまた器用に曲を奏でるのだろう。
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何度目かのクダナさんのお手本に耳を澄ます。曲はそんなに複雑ではなくて大体覚えた。
帰りの旅は順調だと思う、オレ以外には。
トラシ町の馬を置いて行くのは寂しかったけど、二頭立て馬車の早さには驚いた。帰りの道は緩やかな登りなのに行きよりもたくさん進んだ。早さの割りにガタガタと揺れることも少ないし。
落ち着いて横笛を教われる情況だった。
けど渡された横笛だと音を出すだけでも大変だった。
魔力を吹き込む事が全然出来ない。
魔力を練り込むって何て言うか身体の動きと別の所でしてた。魔力用の血管が有る見たいな感じで。
無属性の魔力だけ息と一緒に一定量を流し込み続けるって凄く難しい。
こんなことでは精霊を見つけ出せるか心配になってしまう。
「それでは峰司君やってみましょうか?ああでも…そうですね……魔力も大分減ってしまった様ですし、いつも使っている横笛で吹きましょう。」
「はい。」
そう言われて少しほっとしてしまった。音の出ない横笛では無く自分の横笛に持ち替えて練習を再開した。やはり鳴らしたい音が思った通りに出るのは気持ちが良い。
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鶇村への旅は順調そのものだった。リンが飛び回る光景にも大分なれた。ノアタの矢尻は微調整を加えれば完成させられそうだ。クダナさんは魔方陣が専門って言ってたけど魔法全般に詳しくて驚いた。
峰司の練習の合間に魔法矢の製作を手伝ってくれた。何か試してみたい事が有るって無煙炭を欲しがってたからお礼を込めて一部を渡しておいた。
クダナさんは更に妖精を精霊の石に戻す方法について渡された本も読んでた。
眼鏡を時おり直すクセも相まって出来る男の雰囲気を醸し出してる。何故か焦る気持ちになる。
「ヒボラ聞いてる?重さはもっと重くても大丈夫だよ。」
「んっ?ああ。あとは試し射ちしたいな。威力はどれくらいが使いやすいかとかな。」
「ヒボラさん今日は野宿にするってヒダッカさんが仰っていましたよ。試し射ちに丁度良いですね。」
「もうそんな時間か?」
「そっか、僕手伝ってくる。ヒボラ先生ありがとう!」
「ああ、俺も直ぐに片付けて手伝うよ。」
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僕達がリンの歌って呼んでる曲を吹いている峰司君の横をそっと抜けて御者席に出る。
「もうけっこう暗いね。今日は野宿って聞いたけど?」
「ああ、日暮れが早いな。あの辺りとかどうだ?」
「良いね!ちょっと新武器の練習もしたいんだけど近くに家とか無さそうだし丁度良いかな。」
「もう出来たのか?早いな。」
「クダナさんも手伝ってくれたしヒボラ先生は凄腕だからね。」
「まだ先生って言ってるのか?」
「なんか本当に先生みたいで止められなく成っちゃったんだよね。」
「まぁ怒られない程度にな?」
「うん、そうする。」
ヒボラ先生は本当に凄い。あとは僕が上手く精霊の力を借りれるか。ヒダッカに精霊の力の借り方を教わってイメージは出来たけど実際にはまだ試せてない。僕は火魔法しか使えないから街中じゃ練習に不向きだったからね。
ヒダッカを手伝い少し道から外れた空き地へ馬を進めた。馬の世話をヒダッカと峰司君に任せて焚き火の準備をする。クダナさんは何やら色々な物を取り出して夕飯を準備してくれるって張り切ってた。
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久し振りの旅にちょっと気合いを入れすぎました?
作り過ぎた料理に皆さん驚かれてましたね。
「お味はいかがでしょうか?」
「美味しいー!」
「美味しいです!」
「旨いな。」
「旨いよクダナさん!」
「お口に合って何よりです。」
「手際も良いしどこで覚えたの?」
「ケット先生とフィールドワークしている時に少しずつですね。」
「見たこと無い料理も有るよ?」
「結界を探してシュタリア大陸中を回りましたから。」
「これとか高級料理じゃないか?」
「それはプロス国の料理ですね。向こうではとても一般的な家庭料理ですよ。包んである葉がこちらでは手に入りにくいだけでして。塩漬け肉を巻いて焼くだけなので簡単ですし。」
「そんなに簡単でこんなに旨いのか?」
「凄いね!ちょっと甘い香りがするね?葉っぱの水分でお肉も柔らかく成って塩漬け肉じゃないみたい。」
「そうです。フォス国の食べられる葉で香りの有るものなら代用も出来ますし。」
「良いこと聞いたな?」
「だな、早速俺の得意料理に加えたいな。」
「オレも!」「僕も!」
「では私も正式にお仲間に加えて頂けますかね?」
「「「「…えっ?」」」」
ああ、ちょっと仲良くなれたと思ったのに性急過ぎましたでしょうか?
皆さん黙ってしまいましたね。
「あぁ…クダナさん?俺達が悪かった。勝手に指名してしまったが。改めて宜しく頼む。」
「「「宜しくお願いします!」」」
「こちらこそ宜しくお願いします。お誘い頂けて嬉しかったのですよ。」
「正直こんなに出来る人だと思ってなくてケット先生に悪い事しちゃったかな。」
「たぶん今頃喜んでいるんじゃ無いですかね?五月蠅いお目付け役が居なくなって。それと旅に出られる私を羨んでるかもですね。」
「はは。書類仕事とか苦手そうだったよな。」
「フィールドワーク得意そうだもんね。」
「あの、それは良いとしてお仲間ですから呼び捨てでお願いします。」
「クダナ?」
「はい。」
「えっとオレもですか?」
「そうですね。峰司君にも呼び捨てでお願いします。あ、いえ峰司にも呼び捨てが良いですね。」
「ク、クダナ?宜しくお願いします。」
「はい。徐々にでも馴れて頂けたらと思います。」
良かった。こんなに楽しい旅ですから仲良くしたいものです。
その後はノアタさんの訓練に付き合ったりヒダッカさんの剣舞も見れました。
剣舞何て物じゃないと困った顔をされてましたが、無駄の無い動きは舞の様でした。
影の事は皆さん口には出されてませんでしたが、各々出来ることをしようと頑張っていられるようです。
私も少しでもお役にたてるように頑張らねば。




