黒い泉について
黒い泉についてヒボラさんノアタさんに話したあと、疑問に思っていた事を聞いてみた。
「えっと、クダナさん試練の泉に精霊は居ないのが普通ですか?」
「さぁどうでしょう?試練の泉の精霊と呼ばれているフォムンの目撃情報はここ数百年有りません。試練の泉も気軽に行ける所では有りませんし、精霊の守りを拾いに来た方が精霊視を使う事も少ないでしょうから……神殿と神殿の町には他の土地より多く精霊が居るのは間違いないのですが、試練の泉については何とも言えませんね。」
「フォムンって大昔の精霊って事ですか?」
ノアタさんがクダナさんに聞いた。
「そうですね、精霊の護り手の始祖の方は直接お話しされたそうですよ。」
そんな風に話しているうちに預けていた光の消えた精霊の守りが届けられた。
「ラクル先生お願いします。」
ラクル先生と呼ばれた神官様は精霊の守りを静かに見つめた。
「この精霊の守りからは精霊が消えてしまっています。
魔力を籠めて精霊の記憶からお話しが聞けるか試して見たいのですが宜しいですね?」
オレの顔を見てきたのでラクル神官様が同意を求めていると分かった。
「はい、お願いしたいです。」
魔力を籠めると壊れたりするのかな?ちょっと心配が浮かんだけどお願いするしかないよね。
オレの返事にラクル神官様が頷き頭の髪飾りをテーブルに置いた。
どうやって精霊の声を聞いてるんだろう?とにかく大男の事、少しでも分かると良いんだけど。
ラクル神官様がさっき精霊の守りと一緒に部屋に持ち込まれた小箱から髪飾りを取り出した。額に垂れ下がっている部分が他の物と違う。精霊を模したレリーフではなく、輝く石がついている。石を額の真ん中にあてて髪飾りを被る。
ラクル神官様が立ちあがり精霊の守りを捧げる様に持つ。
するとその場に居た神官様が全て立ち上がる。
どうすれば良いのか分からなかったけどクダナさんに促されてオレ達も立ち上がる。
ラクル神官様が目を閉じて集中しているのを戸惑いながら見守った。
唐突に始まったラクル神官様の歌声に身体が震えた。老人と言っても良い見た目からは信じられないほど太く張りの有る歌声が紡ぎ出される。
部屋の空間をどこまでも広げて行くような声量。深い深い低音が伸びやかに響き渡った。
初めて聴く調べ、歌詞に鳥肌が止まらない。身体の中の魔力が響きに反応している。力が溢れる。
呆然とその光景を見ているしか無かった。どれくらいの間歌っていたのか、長いようであっという間だった。
始まりと同じように唐突に歌声が終わり、全力疾走をした後のように汗を浮かべたラクル神官は席に着いた。
精霊の守りに淡く光が戻っているのが見えた。
ラクル神官様は手の平に精霊の守りを載せたまま目を閉じて深い呼吸を繰り返している。
立ち上がった神官様もオレ達も腰をおろした。
誰も口を開かずじっとラクル神官様と精霊の守りを見守った。
精霊の守りは弱々しい淡い光をすぐに消してしまった。
失敗だったのかな?
ラクル神官様が目を開き話し出した。
「この精霊の守りはナーダン様という方を強く覚えています。この精霊の守りには色つきの精霊が宿っていた様です。お互いをとても信頼しあっていたのが伝わってきます。精霊は影に傷つけられた槐国の大地を回復させるために、精霊の守りを離れる事になさったようです。いつか戻るとナーダン様とお約束されていました。私に分かったのはここまでです。」
ラクル神官様の話しに納得した人もがっかりした人もいたと思う。
次々に神官様達から質問が出る。
「ナーダン様が影を倒されたという事で間違いは無いのですな?」
「私に読み取れたのは、二人がお別れされる場面でした。」
「影の倒し方は分からないという事でしょうか?」
「残念ながら……しかしこの精霊は恐らく影への対抗策を知っているか倒せる力をお持ちでしょう。」
「そしていつか戻ると精霊がお告げになったということならばあるいは……」
「ええ、槐国のどこかに今もいらっしゃるのでは無いでしょうか。」
「精霊の守りにお戻り頂ければ影への有効な対抗策になり得ると。」
「はい。見つかれば……ですが。」
「すみませんお話しさせて頂いても良いでしょうか?」
突然ヒボラさんが話しに割って入った。驚いて顔を覗き混んでしまった。
「精霊を探すのは俺達に任せて頂けませんか?」
「どういう事ですかな?」
「元々峰司を送り届ける時に私達も槐国へ行く予定でした。地元の狩人として森に詳しい事、ウルフに囲まれても逃げ切れたという実績も有ります。」
「しかし……」
「神官の同行が必要でしたらクダナさんを希望します。」
「おいおい、ヒボラ君儂の助手を勝手に引き抜くのは困るんじゃが?」
そう言うケット先生の口調は苦々しい様だけど目は笑っていた。
ノアタさんはピクピク頬をひきつらせているしヒダッカさんは体を強ばらせてた。
「そう、ですか……」
ヒボラさんの言葉の真意を確かめる様にこの場を仕切っている神官様がオレ達を見詰め、ふっと視線を移しクダナさんに声をかけた。
「クダナ神官はいかがですか?」
「精霊の探し方をどなたかにご教示して頂けるのでしたら。私に異存は有りません。」
そこからは話しがどんどん纏り明日の朝に5人で鶇村へ出発することになった。
「クダナ神官と峰司君には負担をかけますがどうぞ宜しくお願い致します。
明日朝までに精霊を見つけるのに必要な物は揃えさせます。
こちらでも出来ることは最大限努力しましょう。ナーダン様の伝承が残っていないかも探して見ます。
また同行して頂ける3人様も必要な物が有ればお申し付けください。危険な事も有るやも知れませんくれぐれも無理をされない様に。ご無事に戻られる事をお待ちしております。」
「「「「「はい。」」」」」




