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露程も知らない幻想組曲  作者: 熱帯長草草原地帯
第八章 いつかの約束
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迎えに来たのは

 迎えに来たのは箱形の四人掛けの馬車だった。俺達が乗り込むと神官は御者台に座り馬を走らせた。

 詳しい説明も無く呼び出されヒボラがピリピリとした雰囲気を隠さずにいる。


「今からそんなに警戒してもしょうがないだろう?」

「ああ、そうだな。」


 その返事に心が込もっていないのはその表情にはっきりと出ていた。最悪の事態とその対処法を考えているに違いない。

 宿の荷物を全て纏めて馬車に積み込んでもらえるよう手配する気だったからな。ノアタと俺でまだ目的の峰司(ホウジ)の訓練が終わっていないのだからと押し止めたが。

 まぁ俺だって面倒はごめんだが逃げ出して訳の分からない状態に陥るより話を聞いた方が良いだろう。

 歩いてもさして距離の無い塔へ馬車で移動したのだから直ぐに着いた。

 待ち受けていた別の神官に先導されて左側の塔に入る。

 以前にノーマさんと話をした場所は通り過ぎ上の階へ向かうようだ。

 神官学校が有る塔とは構造が違う、外壁に沿った階段を登って行く。重苦しい沈黙の中で進む階段は明かり取りの窓が開いているにもかかわらずやけに暗く思えた。

 塔で待っていた神官、迎えに来てくれた神官で前後を挟み込まれる様に進む。意図したわけでは無いのだろうがあまり気分の良いものではない。


 案内された部屋には既にたくさんの人が居た。俺達が中に入ると座っていた者が一斉に立ち上がる。神官が苦々しい顔をして集まっている異様な雰囲気にただならぬ事態と改めて感じた。

 クファルさん達3人の見知った顔が有りそこへ向かう。


「いやぁすまんかったな。緊急事態なもんでお前さん達の話をせねばならんかった。まぁ儂らも悪いようにはせんと思っとるから少し話を聞いてくれ。」

「ああ。」


 俺たちの挨拶が終わるのを待っていたのだろう。

 神官の一人が俺達に声をかけて来た。


「急な呼び出しに応じて頂き感謝致します。少し込み入った話になりますのでどうぞお掛けください。」


 俺達はクファルさん達の横に空けられていた席に座る。クダナさんがそっと峰司(ホウジ)を自分の隣に座らせた。

 それに続き神官達も同じように円いテーブルを囲み席についた。


「何故お呼びしたのか順を追って説明致します。私達も状況を整理したばかりですのでお互いの認識に齟齬が無いか確認を致しましょう。」


 後半の言葉は神官に向けての言葉だった。皆一様に無言で頷く。もちろん俺達にも異論は無いので話の続きを待つ。


 ……………………………………………………………


「ロブド国でのウルフ襲来についてはご存知かと思います。調査の結果ウルフは人を襲ったのではなく精霊の守り(フローライト)を狙っていた可能性が高くなりました。ウルフが精霊の守り(フローライト)を食べた事、黒い影を纏っていたとの目撃証言により影の存在が疑われます。


 影についてですが、どの様な物か詳細は分かっておりません。死すべき物、死して生まれ変わる命の(ことわり)から外れた物と。精霊の護り手にはかつて100年戦争の前に影が現れたと言う伝承が残っております。大変危険な物だったのは間違い無いでしょう。甚大な被害と触れたものに死をもたらしたと伝えられています。

 また、それを退治したとの伝承も有るのですが対処法については既に失われております。影への防御策と思われる光の女王(ユーノー)の結界についても、いつ行われたのか誰が施したのか等の記録は残念ながら残っておりません。ですが結界が有ることは事実。しかし結界によって影から我々が守られることは無かったようです。もしくは永き時で結界が弱った、とも考えられますが。

 影が再び現れたと思われる今、我々はどう対処すれば良いのか考えております。


 そこで手掛かりとなり得る情報をお持ちと思われる皆さんにお越し頂きました。」


 そこで一旦間が置かれた。

 クファルさんケットさんクダナさんは既に説明を受けていたのだろう、静かに頷いている。

 しかし俺達は何故呼ばれたのか?影に対する対処法等知っている筈も無い。

 ケット先生が俺達へ向けて話しかける。


「儂らはな少し前に魚人国へ行ってきたんじゃ。国王の使者としてな。正式に国交を結ぶためじゃ。そこでな魚人国の在る場所はかつて巨人国の大陸が沈んだ場所、遺跡と言う事じゃった。

 その大陸が沈んだ理由は影がきっかけの戦と言う事じゃった。それで呼ばれた訳なんじゃが生憎と魚人国で影に付いて詳しい話をする機会は無くてな。

 じゃが魚人国の使者がフォス国へ来ることになっていてな。クファルは迎えの準備をしていたんじゃよ。使者は先日の新月に結界を抜けた筈じゃからそろそろ王都に着く頃じゃ。その後で川を遡り精霊の神殿まで来る予定じゃ。

 儂らは行き違いになるのが嫌じゃからこのままここで魚人達がやって来るのを待つつもりじゃ。そこで影の対処法を教われれば良いのじゃが。」


 何も言えずにケットさんの言葉にただ頷く。

 そこで先程の神官が話を続ける。


「魚人族の方から有益な情報が頂ければ一番良いのですが、それ以外にも重要な伝承が有りまして。影を追い出したと伝えられているのですが、その際に精霊の道が使われたと。」

「影が精霊の道を通ったのか?」

「そこも詳しくは分からないのですがシュタリアから影を追い出し、その後で闇に返したとの事です。影を追った者は精霊の道を通ってシュタリアとは違う大地へ行ったと。精霊の道を通ったヒダッカさん、また違う大地に住む峰司(ホウジ)さんにお話を伺いたいのです。」


 そこまで聞いてフォス国の大男の話を思い浮かべる。峰司(ホウジ)も同じ事を思ったのだろう。

 ケットさんが済まなそうな顔でこちらを見る。


「ここまで聞いて儂らはフォス国の大男の話は影の事だろうと考えとった。」

「ああ……そう思うだろうな。」

「そのお話を聞かせて貰えないだろうか?」


 峰司(ホウジ)へ向けられた言葉に峰司(ホウジ)は緊張した様子で話し出す。

 自分の住む(ツグミ)村の伝承フォス国の大男の話し。自分がその子孫で有ること。黒い嵐と呼ばれた物が影かも知れないがそれ以上の事は分からない事。同じように黒い嵐を打ち倒した白い輝く魔法についてもそれ以上の事は伝わって無い事。もしかしたら先に神官へ渡してある光の消えた精霊の守り(フローライト)から情報が得られるかも知れない事。

 その後で少し言い淀んだ。


「あの、もしかしたら影と関係が有る事かもと思う事が有って……お話ししても良いですか?」

「どんな些細な事も今は知りたいのですよ。遠慮無くお話し下さい。」


 神官の言葉に峰司(ホウジ)は話を続ける。


「試練の泉で精霊を視ようと魔力を込めたんです。精霊は視えず変わりに泉の水面に青い空の景色が映し出されました。そのまま見ていると雪の積もる森の中に黒い水が泡立っている場所を見つけたんです。禍禍しい黒い泉の様に思えました。その黒い泉の上に精霊が飛んで来たんです。すると黒い水が伸びて精霊を絡めとって食べてしまった様に見えたんです。あの、視たのはそれだけです……」


 試練の泉で見えた事についての話しで場の空気が更に張り詰めた物へ変わる。

 誰も身動(みじろ)ぎすらせず暫しの時が過ぎる。

 この場で一番歳上だろう男が口を開く。


「お話をありがとうございました。誰か光の消えた精霊の守り(フローライト)をこちらへお持ち頂けませんかな?」

「直ぐにお持ち致します。」


 入り口近くで控えていた神官の一人が部屋を出る。

 壮年の男が話しを切り出す。


「黒い泉ですか……影との因果関係が有ると考えて措くことも必要でしょう。場所は今の時期で雪の中と言うことで有ればロブド国のどこかでしょうな…………皆様お疲れでしょうから精霊の守り(フローライト)が届く迄少し飲み物でもいかがでしょうか?」


 その言葉で既に準備がされて居たのだろう各々の前に温かい飲み物が置かれる。

 少し緊張が緩み自身で書き付けていたメモを読み返す者、隣の人達と話しを始める者がいる。

 ヒボラとノアタも先程の黒い泉の話しは初めて伝えた事柄だったので峰司(ホウジ)に改めて聞き直している。

 思いもしなかった展開に俺も混乱しつつ飲み物を口にして三人の話に耳を傾ける。

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