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露程も知らない幻想組曲  作者: 熱帯長草草原地帯
第八章 いつかの約束
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大きな音を

 ガラガラッゴトッゴトンッガラガラッ


 大きな音を立てて街道を走る馬車。御者の顔には疲れの色が浮かんでいた。馬車の中にはフォス国の神官が二人乗っている。

 ロブド国での調査結果を速く伝えなくてはと馬車を急がせて来た。神官二人は顔を寄せ合い何事かを話し合っている。

 御者の男性は馬にムチを入れる。行きはともかく、帰りの道は疲れた馬を町毎で替えながら進む程の強行軍だった。

 何らかの異常事態が起きているのは明らかだった。事情の説明はなく唯急いで帰る様に指示を承けただけだ。

 しかし御者とて色々な噂が耳に入る。ロブド国で聞いた噂ではウルフに村が襲われたと。最初は信じられなかったが皆同様の話を口にするので確かな事なのだろう。既に雪が積り始めている幾つかの町は物々しい警備が敷かれ、葬式でも有るような暗さに満ちていた……


 街道の先にいつもと変わらない神殿の町の入り口が見えて来てほっと胸を撫で下ろす。半分顔を後ろへ向けて大きな声を出す。

「失礼します。神官様町の入り口が見えて来ました。行き先はどうしますか?」

「ああ、良かった。ご苦労お掛けしました。塔へ向かってください。」

 若い方の神官が返事をくれる。


「分かりました。」


 労いの言葉を貰い、そっと安堵の息を吐きつつもうひと頑張りと馬を操る。


 …………………………………………………………


 塔の三階の一室には円形のテーブルが置かれその回りに九人の神官が腰を下ろしていた。そのうちの二人は先程ロブド国から戻って来た者だ。ロブド国の調査結果を若い神官が読み上げる。語られた報告に重苦しい沈黙が部屋を支配する。眼光の鋭い壮年の男性が口を開いた。


精霊の守り(フローライト)が喰われた、ですと?」

「はい。そのように伺いました。」


 報告を受け驚愕の表情を浮かべる面々。


「ウルフは人を襲ったのでは無く精霊の守り(フローライト)が欲しかった様です。いち早くその事に気付いた者は精霊の守り(フローライト)を手離し逃げた所、追いかけられる事が無くなったそうです。また別の者に聞いた話しでは精霊の守り(フローライト)を喰らったウルフは黒い影の様なものを体に纏っていたと。」


「影か……」


 影と云う言葉が更に空気を重くする。別の男性が発言する。


「影の伝承は本当なのでしょうか?四百年前に戦争の切っ掛けとなったと記憶していますが……」

「影が現れ精霊を襲ったと。勿論人にも沢山の被害が出たとの事でしたな。」

「帰るべき場所を失った物、彷徨う死すべき物……」

「にわかには信じられない事です……」

「影が精霊を食べるとは……ですがここに居る皆様は影の伝承を知っていますね?」


 机の回りに座っている者は皆首肯く。


「全部の精霊の守り(フローライト)が食べられたのでは無かろう?他の精霊の守り(フローライト)からは情報が聞き取れなかったのか?」

「僅かに残った精霊の守り(フローライト)から話を聞こうとしたのですが恐怖に怯えていました。そして影から逃げろと警告を受けました。どの精霊も逃げたい、逃げよう、逃げて、ただそう繰返してくるのみでした……こんな事は始めてです……」


 別の女性が報告を行った若い神官ではなく年上の男性に声を掛ける。


「ラクル先生は警告をどうお考えですか?」


 ラクルと呼ばれた男性はテーブルの上で手を組みじっと考え事をしている様だった。女性の方を向きもう先生では有りませんよ、と言ってから答える。


「出来るだけ素早く対処を考えねばならないでしょう。王から緊急事態宣言を出して頂く事も検討に価すると思われます。精霊が警告を出すなど前代未聞の事です。これを重く受け止めず精霊の護り手を名乗る事など出来ましょうか?」


 深く良く通る声で淡々と話しているようだったが、その顔には深い憂いを現す様に皺がきざまれていた。ラクルの話が終わると他の者たちから次々と質問が出される。


「緊急事態宣言……国の存亡が脅かされていると?」

「そうでしょう。既に精霊と人に危害が加えられています。精霊が居なくなればどうなる事か……考えるまでもない……」

「ですが影が本当に現れたのでしょうか?結界はまだ有ると報告を受けています。」

「結界では防げ無い事態が起きているのは間違ないでしょう……」

「逃げろと言われてもそもそもどこに逃げれば良いのでしょう?影への対抗手段は失われていますのに……」

「だからと言って何もせずにいることは出来ない、何とかして対抗手段を探さねばなりません。」

「精霊を喰われれば影の力も強まるでしょう……速さが被害を最小限にするために必要なのは間違い有りません。」

「影が再び現れたのならシュタリア全土を襲う事は確実でしょう……幸いまだこちらでは影の目撃情報は有りませんね?」

「影では有りませんがトラシ町では既に普通ではない行動を取るウルフが確認されています。このままでは不味いでしょう……」


 そこでまた沈黙が場を支配する。少ししてこの中では一番若く見える男性が手を上げ発言の意思を現す。


「すみません、少し気になる報告が上がっているのですが。」


 皆の視線を集める。言い難そうに話し出す。


「先程魚人国へ行った者の報告を読まれた方はいらっしゃいますか?」

「いや、私は未だ読んでいません。」


 お互い顔を見回し、ロブド国での調査を行った二人も他の者も知らないと言う。


「今度の学会で発表される事柄についてですが、気になった箇所が。ケット先生クファル先生クダナ神官が魚人国に着くとその場所は巨人国が滅び沈んだ遺跡だと言うことでした。」

「巨人国?それが今回の件とどういう関係が有るんだ?」

「今からおよそ八百年前に巨人国に影が現れたと。」

「それは……」

「本当か?」

「どうして……」

「なんて事だ……」


 一同のどよめきが収まって発言を続ける。


「巨人国の大陸は戦で沈んだと言うことです。ですがその切っ掛けは影が現れた事に依るものの様です。私たちの大陸も影が打ち倒されなければ同じことに成るのではと……考えすぎかも知れませんが……」

「前に現れた時の被害を考えれば充分考えられる事だ……」

「結界は無意味だったと?……」

「影は追い出せたんじゃ無かったのか?……」

「何故今さら……」


 また口々に問が出るが答えられる者はいない。


「魚人国では影への対抗手段は伝えられていないのでしょうか?」


 誰かがポツンと呟いた。


「おおっそうだ!」

「どうなのでしょう?」

「報告には何と?」

「私が読んだ報告書には書かれてい無いようです。しかし直接会った者ならば何か聞いているかも知れません。」

「では、早速三人を呼び話を聞いてみましょう。この場は一旦休憩とします。」


 眼光の鋭い男性がこの会を仕切っているのだろう、その発言で微かな希望を持って皆席を立つ。

 ロブド国での調査をした二人も席を立つが呼び止められる。


「すみませんがラクル先生には休憩後も引き続き会議に参加をお願いします。」

「……承りました。」


 ラクルは首肯く。続けて若い神官に向かって告げる。


「君には申し訳無いが王都へ報告に向かって貰いたい。明日の朝迄には報告書を用意する。馬車の手配もさせるのでしっかり身体を休めておきたまえ。」

「はい。承りました。」

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