ごくり。誰かの
ごくり。誰かの喉が鳴った。
「魚人じゃった。海から顔を出して俺達の船に手を振ってきた。予想もしない事に俺達は驚いて先程まで大騒ぎしてた皆ピタリと黙ってしまった。魚人は話も出来たんじゃ。こんばんは!とな。俺達もこんばんは!と返事をしたが互いにどうすれば良いか分からずそのまま見つめ合っていた。行灯に照らされた水面から見える頭には髪はなく鱗に覆われていた。体は肩辺りまで水面から出ていたがそれも鱗に覆われていた。先程振ってくれた手も水掻きの様なものがついて俺達とは違う様じゃった。クファルが何を思ったかドブンと海に飛び込んだ。」
「えっ?」
「船の上の儂らも驚いたよ何をしとるんじゃと、危険かもしれんじゃろう?」
「はい、まぁ大丈夫だったんですね?」
「そうだな、友好的な奴でな。後でクファルに聞いたらこれを逃したらもう二度と会えないかも知れないと思って飛び込んだそうじゃ。魚人も驚いたと思うがクファルが海に浮かぶのを手伝ってくれた。まぁあとは大雑把に言うと儂らは友人になった。」
「何となく分かります……」
「クファルさん好い人だもんね。」
「ああ。」
俺達は今より若いクファルさんを思い浮かべて苦笑した。
「魚人の話しについてはまだ話せん事も多いが……遥か昔から伝わる魚人族の話ではな海は普通に繋がっていたが突然見えない結界で遮られ、通れなくなったと判った。
儂は結界が魔方陣の一種だと考え研究を始めた。それと同時にシュタリア大陸を覆う結界を探し始めた。」
「ケット先生シュタリア大陸を覆う程の結界何て書けるんでしょうか?」
「理屈だと可能なんじゃが……そんな魔方陣まだ誰も見つけてはおらん。だからこそ光の女王の謎は謎のままだったんじゃ。だからお前さん達の話を聞いて驚いた。昨日から仕事が手につかんでクダナに怒られてしまったわい。」
俺達はどう答えて良いか判らず黙る。
「新月の夜だけ通れる場所が有る事も魚人族の者から聞いたんじゃ。そこを通ってこちらの海に来たとな。儂はそれが精霊の道かと思ってたんじゃが……お前さん達の事を知って考えが変わった。そっちは通る時に精霊の守りは必要無い。」
「精霊の守りは必要無い?」
「そうじゃ、魚人族の言い伝えでは新月の夜には闇の王の力が強まり結界を通り抜けられるそうじゃ。言うなれば結界の綻びのようなもんじゃと思う。」
「通り抜けられる?違う場所に行けるのではなく?」
そこでケット先生は一呼吸置く。
「……そうじゃ。通り抜けるだけじゃ。お前さん達の通って来たのが本当の精霊の道じゃろう。シュタリア大陸を覆っている結界にはわざと穴を開けて有るんじゃ無いかと考えている。いわばでっかい魔方陣の中に更に別の魔方陣が有るとな。」
「魔方陣?……そう言う事か。」
ヒボラは納得したが俺には解からん。ノアタを見ると小さく首を振り同じく解からないと言う顔をしている。
「ヒボラどういう事だ?」
「うん?ああそうだな……俺が作ったベアー対策の罠が有っただろう?あれが魔方陣だ。」
「う~んでもさ実際使わなかったから良く解んないよ。」
「大昔の誰かが作った記号が有ってさ、魔力を込めた素材で決まった通りに書くと魔法が発動するんだよ。」
「全然解らん。」
俺達が解らんの言い合いをしているとクダナさんが話し掛けてきた。
「魔方陣の説明はまた今度にしてもらって……貴方達の事を知って先生と考察し直してみました。森で見付けた精霊の道は、結界とは別の魔方陣と考えれば精霊の守りが必要な事も辻褄が合うと。」
「魔方陣に精霊の力を込めると言う事でしょうか?」
「ええ。ヒボラさんは魔方陣を書けるんですよね?」
「はい。」
「それならばご存知でしょう。魔方陣には特別な記号と魔力が必要ですね。魔力が練り込まれた素材で書くか、長期間発動状態にするには周囲の精霊の力を取り込む様な仕掛けを組み込む事も出来ます。けれど誰でもいつでも通れるのでは結界の意味も無いでしょう。そのため精霊の守りが必要になってくるのかと。今は殆んどの者が持っている精霊の守りですが昔はそれほど数も無かった筈です。」
「では、精霊の守りが光らなくなったのも精霊の力を魔方陣に注ぎすぎたせいだと?」
「多分じゃがな。それで説明はしっくり来る。」
「そうですね。」
「ヒダッカ君は魔方陣らしき物を見たかね?」
「分からない。見ていないと思う。だが探そうともしてなかったから気付いて無いだけかも知れん。」
「ふむ、まぁ隠されているじゃろうしな。木のうろの周りに石とかが置かれてるとかは無かったか?どうじゃ?」
「石は気付かなかった。だがうろの周りは木が幾つも生えて見つかりずらい場所だった。」
「木で魔方陣を書いてるのでしょうか?……」
ケット先生とクダナさん二人で話し合いを始めてしまった。
俺達も声を落としここまでの話しを整理する。
「槐国って結界の外って事だよね?」
「ああ。」
「そもそも何のための結界だ?」
「光の女王の謎の話しだと影が現れるのを防ぐ為でしょう?って事は影って結界の外から来るって事?鶫村って危険なの?」
「平和な感じだったが……」
「影が結界の外から来たとは書かれて無かったよな?」
「そうだったか?」
「じゃぁ何で結界張ったのってなるよね?それと光の女王は何故加護を残したまま死んだの?」
「それこそ一番解らないよな。」
「なぁヒボラ?他の場所へ行く魔方陣って書けるのか?」
「いや、俺は書けない。それにそんな魔方陣が有ると聞いたことがない。魔方陣については色々研究されているが……大昔の技術を真似してるだけで、実は解明されてない法則がたくさん有るらしいんだ。それより魚人族が気になるな。結界の外の話って聞いて見たく無いか?」
「うん、凄く気になる。」
「それは今関係無いだろう?精霊の守りの力で行き来が出来るなら皆で行くことも出来そうだ。どれぐらい魔方陣に力を注ぐ必要が有るんだ?どれぐらいで精霊の守りの力が消えてしまうかそっちの方が心配だ。」
「峰司君が預けてる精霊の守りの方で手掛かりが掴めるかな?」
「そうだな……そっちの進展も神官に確認して見ようぜ。」
気付くとケット先生達がこちらを見ている。
「ヒダッカ君詳しく話を聞きたいんじゃが良いか?」
「……構わん。」
「それでは私は外出をしますね。書類を提出に行かねばなりませんので。お二人はどうしますか多分お話は時間がかかると思いますが?」
「どうする?僕は待ってても良いよ?」
「そうだな、待っててやるよ。」
「いや、神官の所に行ってくれ。峰司の精霊の守りの事を聞いてきてくれ。」
「えっと良いけど……」
「頼む。」
「分かった。」
最後ヒボラは俺にだけ聞こえる様にややこしく成りそうだったら逃げてこいと言った。
「ああ。終わったら宿屋に行ってるよ。」
「「了解。」」




