神殿の町へ
神殿の町へやっと入れた。入り口近くに並ぶ宿屋のひとつに馬車と荷物を預ける。先ずは試練の泉に行く手続きをする。
神殿の町は大きいだけでなく色んな国の人や物が溢れ独特の活気が有る。試練の泉に行くのだろう子供達ともすれ違う。
この町へ一度しか来たことの無い俺はヒボラの後について進む。
建物の間に湖が見え船が優雅に行き交っている。神殿への行き来だけでなく湖上を遊覧する船も有るそうだ。
「あそこだぞ!」
幾つかの通りを抜け見覚えの有る高い塔が見えてきた。
三階建ての大きな円い塔が二つ並び屋上はテラスになっている。テラスの間を渡り廊下が繋いでいる。朝日が昇る時と夕陽が沈む時に渡り廊下で精霊への祈りが行われる。
渡り廊下の下、塔の間を進むと神殿へ向かう桟橋だ。
峰司が見上げる。二つの塔を首を左右に動かし眺めている、口が少し空いてしまっているな。
「驚いていないで進むぞ。」
軽く肩を叩いて左側の塔へ進む。塔の入り口の両側には全身を鎧で包んだ兵士が立っている。一人は大きな剣をもう一人は大きな盾をそれぞれ体の前に持ち、精霊を守る事を示しているらしい。
中に入ると多くの人がいるのに静かで落ち着いた空気が流れていた。
「今日はどういったご用件でしょうか?」
一人の女性が近づいて来た。神官だろうか?
「試練の泉に精霊の守りを貰うために来た。それと幾つか聞きたい事もある。」
「こちらへどうぞ。」
女性に案内され四人が座れる席へ着く。少し待たされ別の女性がやって来た。頭部をくるりと細い金属の輪が包み、額に垂れ下がる繊細な装飾には精霊が描かれている。伝統的な神官のスタイルだ。書類を手に持ち柔らかに微笑む。
「初めまして、神官のノーマと申します。試練の泉に行くのは貴方かしら?」
「はい、宜しくお願いします。」
「カードをお預かりしますね?」
峰司が緊張した面持ちでカードを渡す。女性がカードを確認する。
「はい、峰司君よく頑張りましたね。明日の朝の船で試練の泉に向かいましょうね。」
「宜しくお願いします。」
「あとは何か聞きたいことが有るとか?」
少し顔を見合せ誰が言うかと目を合わせる。ヒボラが口を開く。
「峰司が精霊視なんだ。魔力について教わりたい。」
「まぁ」
先程迄の柔らかな表情から食い入るような視線に変わる。
「神官学校への入学をご希望ですね?」
「いえ、事情が有って早めに帰りたいんです。魔力の制御なんかを短期間で教われないでしょうか?」
明らかにがっかりした様子でノーマさんは話し出す。
「そうですね……難しいですが、先生を探してみましょう。神官は素晴らしい仕事ですよ。気が変わったらいつでも入学を受け付けていますからね?」
「えっと、はい……」
「あとは何かございますか?」
俺は胸の革袋から母さんの精霊の守りを取り出す。何故かはっと峰司が俺の手元を見た。
「うん?」
「あっ何でも無いです。後で大丈夫です。」
「そうか?これは亡くなった母の精霊の守りです。遅くなったがお返しする。」
ノーマさんに桜色の精霊の守りを手渡す。ノーマさんは精霊の守りを握りしばらく目を閉じる。
「確かに受けとりました。お母様はラノ様ですね?」
ノーマさんは桜色の精霊の守りをテーブルにそっと置いた。
「ああ、なんで分かるんだ?」
「精霊の声が聞こえました。」
「そうなのか……」
「それと貴方に何だか可愛らしい精霊が一生懸命話しかけていますよ?」
「どういう事だ?」
「貴方の精霊の守りをお借りしても?」
「ああ構わん。」
俺は革袋から自分の精霊の守りを取り出し渡す。
ノーマさんは再び精霊の守りを握って目を閉じる。
「ヒダッカさんが小さい頃、泉を浄化しましたか?」
「ん?覚えてないがウォータークリアを森の中でたくさん練習はしたな。」
「ふふ、そうですか。私にも詳しくは分からないんですがその事を感謝した精霊が貴方を護ってくれている様ですよ。」
ノーマさんから翠の精霊の守りを返され革袋にしまう。
「……精霊に護ってくれてありがとうと伝えるにはどうしたら良いんだ?」
「もう言葉にした時に伝わってますよ。峰司君はヒダッカさんの精霊を視たことは有るのかしら?」
「えっと視たこと無いです。今視ても良いですか?」
「ええ、お願いします。」
峰司が俺へ向き直る。目を瞑り少したって開けた目は金色だった。
「えっと、たくさん精霊が飛んでます。金色の精霊の中にひとつだけ翠色に光ってヒダッカさんの回りを飛んでいます。」
ふうっと息を吐き峰司の目の色が茶色に戻る。
「この地は精霊が多く飛んでいます。翠色の精霊が泉の精霊で間違い無いでしょうね。その存在を大切にしてくださいね。」
「そうか。」
驚いたが護られている事に感謝を忘れないようにしよう。ノーマさんに教えて貰えて良かった。
「峰司君魔力を使って何ともない?」
「はい、大丈夫です。あのオレも見てもらいたい精霊の守りが有ります。」
峰司は胸に下げていた布袋を取り出し光の消えた精霊の守りを取り出す。
「これはどこで?」
「オレの祖先の持っていた物です。どうして光が消えたか分かりますか?」
「お借りしますね?」
「はい。」
ノーマさんは精霊の守り握って目を閉じる。先程より長い時間待った。
「すみません、私ではこの精霊の守りの声を聞くことが出来ませんでした。別の者に調べて貰っても良いでしょうか?」
「はい。宜しくお願いします。」
ノーマさんは書類に色々書き込んでいく。




