今日はオレが
「峰司君見えてきたよ!」
「えっ?」
今日はオレが馬車を走らせていた。隣にノアタさんが付いてくれていたけど馬と道に集中していて遠くを見る余裕なんて無かった。ノアタさんの声に遠くへ視線を向ける。
「見えました!あの湖ですか?」
「そうだよ。懐かしいなぁ。右手前に建物がいっぱい有るはずだけど……まだ見えないかな?」
「そこが神殿の町ですか?」
「うん、そこで手続きをして船で神殿へ向かうんだよ。」
「オレ船に乗るの初めてです。」
「そっか、楽しみだね!」
そのあとしばらく進んで道に他の馬車も増えてきた。御者をノアタさんに変わってもらって改めて神殿の方を見る。
……水と風に愛されし国フォス国の神殿は湖に浮かぶ島。
朝露よりも澄んだ湖水は空よりも更に青く美しい。永き時を経た木々は島を守るように静かに佇む。爽やかで芳しい風が吹きその風の音は妙なる調べを奏でる。……
本にはそんな風に書かれていた。近づいて来た湖の中心部には確かに緑の島が見える。あれが神殿みたいだ。
ここまで通ってきた所はもう刈り入れの終わった茶色や黄色の景色だったから余計に青と緑がくっきりと感じられた。
「ノアタさん、あの建物は何ですか?」
「風車小屋だよ。風の力を使って麦を挽いたり油を搾ったりするんだよ、革を鞣したりとかもね。」
「凄いですね。」
風が一年中吹いていると言うことで他では見られなかった風車もそこかしこに建っている。
妙なる調べって言うのはわからなかったけど爽やかな風が吹き空気も美味しい気がする。
正面に見えていた湖から徐々に道はそれて神殿の町の方向へ進む。しばらく馬車を走らせていると、町の入り口が見えてきた。人の出入りが多いので馬車の速度を落として道をゆっくり進む。
「そろそろか?」
「もうちょっとかかると思うよ。」
「俺は降りて歩くぞ。」
ヒダッカさんはゆっくり進む馬車から飛び降りて馬と並んで歩く。
町の外にも露店がすでに並び呼び込みの声がしてくる。
「あの、ノアタさんお店見てきても良いですか?」
「うん、なんか美味しそうな物有ったら買ってきてくれない?お腹すいちゃったよ。」
「それなら俺が変わるよノアタの旨いもの見つける目は中々だからな!」
「うん、じゃぁ頼むね。」
ノアタさんとヒダッカさんと一緒に露店を覗きながら人混みに混ざって歩く。
黒髪のおじさんがヒダッカさんに声をかけてきた。
「そこのお兄さん!ちょっと剣を見ていかないか?最新式の剣だよ!」
ロブド国の人かな?並べられているのは剣や盾。
「何が最新式なんだ?」
「強度を高める素材と秘密の製法で作ってあるんですよ。お兄さんのそれ大分古い型でしょ。お安くしとくよ!」
「そうだな、こいつもそろそろ買い替える時期だが……」
おじさんはヒダッカさんに色々説明を始める。
オレも格好いい剣を見つめてしまう。こっちの少し曲がったナイフも格好いいな。
「おじさん先を急いでるからまたね!」
ノアタさんが話を断ちきり露店から引き剥がされるようにオレもヒダッカさんも連れて行かれてしまう。
「二人とも武器を買うならもっと色々見てからにしようね?」
「うん?そうか、ちょっと面白そうだったからついな。」
「はい……」
ノアタさんの見つけた果実を搾った物を飲みながら歩く。その後もプロス国の人らしい金髪のお兄さんの露店で見つけたお土産に心を引かれたりした。さんざん悩んで香ばしく焼けた肉と干した果物を練り込んで焼いたと言うパンを買ってヒボラさんの元へ帰る。
ヒボラさんはオレ達を見つけて手を振ってきた。
「待ちくたびれたぞ。」
「すみません面白い露店がいっぱい有って……」
「ヒボラごめんね、美味しそうなの買ってきたから食べよう!」
「まぁ気持ちは分かるが町の中にも良い店がいっぱい有るから、俺が連れてくな!」
「お願いします。」
「俺は武器屋を紹介してもらいたいぞ。」
「ヒダッカまでそんな事言い出すのか……もちろん良いぞ!」
ゆっくり進む馬車の中で何が買いたいとか話しつつ食事を取り神殿の町へ入っていった。




