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露程も知らない幻想組曲  作者: 熱帯長草草原地帯
第六章 精霊の神殿
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馬の前に

 馬の前に回り込みゆっくりと近付く。大きな丸い黒い瞳をまつ毛がびっしり覆っている。オレは馬に見つめられてる。


「そのまま近づいて、首を撫でてみて。」

「はい。」


 ノアタさんに言われるままゆっくりと歩みよる。赤茶色の毛が艶々と光り大きな顔がオレの目の高さより上に有った。馬は触っても良いよって感じで少し頭を下げてくれた。近寄るだけで馬の体温が伝わってくる。

 そっと手を伸ばして滑らかに見える首に触れる。暖かく少し湿った様な馬の身体はがっちりとした筋肉が感じられた。艶々だけど丈夫でしなやかな毛で覆われているのが分かった。


「うん、大丈夫そうだね。」

「はい、温かいです。」

「頑張って歩いてくれたからね。峰司(ホウジ)君も身体拭いてみる?」

「はい。やってみたいです。」


 ノアタさんに教わりながら少し力を込めて身体を拭いてみる。背中には手が届かなかったのでそこはノアタさんが拭いてくれ、腹や前足の辺りを拭いた。馬は足元に生えている草を引き抜きむしゃむしゃ食べながら大人しく身体を拭かれてくれた。


「初めてにしては上手だね?」

「えっと、驢馬(ろば)なら少しだけお世話をしたことが有ります。この馬より、凄く小さいですけど。」

「へー馬車を牽くの?」

「荷物を背中に載せて運んでくれるんです。果樹園で働いています。採石場では石を牽く馬も居るんですけど、その馬は遠くから見ただけで……」

「そっか。じゃぁ旅の間に馬と仲良くなれると良いね。」

「はい。また触らせて下さい。」

「うん、本を読んだら御者の仕方も教えてあげようか?」

「あ、はい!お願いします。」

「うん。ヒボラ先生にも良いか聞いてみるね。」


 ノアタさんがいたずらっぽく笑った。少し離れた所にいるヒボラさんを見た。ヒダッカさんと一緒に川原を歩き身体を動かしていた。オレ達の視線に気づいたのか手を振ってくれた。

 オレ達も手を挙げ道の方を指す。馬の側で急に大声を出しちゃいけないらしい。それで馬の休憩は終りと伝わったようだった。


「行こっか。」

「はい。」


 馬を連れて道に戻り馬車に繋げる。

 ヒボラさんが御者をしてくれる事になり出発した。道を進みながら順番に食事をとる。

 昼食はスコットさんが作ってくれた料理だった。薄く焼いたパンで細く切られた野菜をくるくると包んだもの 。少し酸味の有る味付けに見送ってくれた二人の顔が浮かぶ。ロイ君は学校で、スコットさんは靴造りをしている頃かな?(つぐみ)村よりもトラシ町が懐かしいような変な気分だった。

 食事を食べ終えて本の続きに戻る。


 ……………………………………………………


 かつてシュタリア大陸は精霊だけが住む土地だった。そこへ偶然に船で辿り着いた民がこの土地を気に入り住み着いたのでは無いかと言われている。1000年前とも600年前とも言われているが定かではない。


 今から約400年前。平和に共存していた移住民達がお互いの土地を欲しがり大陸全土を巻き込む戦となった。100年ほども戦乱が続いたが荒れ果てた大陸に、精霊は姿を見せなくなった。一部の民はこの地を見捨て自分達の先祖が住んでいた大陸を探しに船で旅立った。


 そこに精霊の護り手が現れる。


 彼らは涸れた土地で祈った。するとその地には水が湧き草木が芽吹き僅ながら精霊も戻ってきた。

 人々は自分達のしてきた事の意味を理解し後悔する。今まで育んでくれた大地をここまで壊してしまったのかと。しかし手遅れでは無かったと安堵もした。大地を癒せば精霊も戻ってきてくれる。

 そしてこの大地の傷を精霊の護り手と共に癒す事にした。

 少しづつ大地は蘇り特に精霊の力が強い土地を神殿として保護した。

 その後シュタリア大陸が癒え再び栄え始めると三つの国が興りそれぞれ精霊を守り平和に暮らすようになった。

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