依頼を終えて
「あの、ヒダッカさんモーリット先生の所に寄っても良いかな?オレの胡桃がどうなってるか気になって……」
「ん?ああ構わんぞ。」
依頼を終えて養蜂場からの帰り道、モーリット先生の所に立ち寄って貰える事になった。
「こんにちは!」
モーリット先生は笑顔で出迎えてくれた。
「峰司君、ヒダッカ君いらっしゃい。もう依頼は無事に終わったのかの?」
「はい。あの、急いで精霊の神殿に行くことになって。挨拶に来ました。」
「ふむ、忙しないのぅ。」
「あの、胡桃は元気ですか?」
「ふむ、元気じゃぞ。じゃが帰ってくる前に実ってしまいそうじゃのう」
「そうですか……」
「少しだけ時間は取れるかの?」
オレがヒダッカさんを見ると頷いてくれた。
「では庭に行こうかの。」
「「はい。」」
オレの胡桃の花は落ちてしまっていた。
「モーリット先生、花は落ちてしまってますね?」
「ふむ、じゃが心配は要らんのじゃ。儂が面倒を見ると言ったじゃろう?受粉は終えて有るのじゃよ。」
「そうですか。」
「全部を実らせるのはちと大変じゃろう、この良く日にあたっている枝の実をつけようかのぅ。」
「はい。」
「もう教えんでも出来るじゃろう。始めるのじゃ。」
「はい。」
オレは植物図鑑を思い出す。
青い実がつき胡桃が顔を覗かせ落ちる。
栄養と精霊の力。
木の枝に触れる。精霊を視るように魔力を込める。ぽうっと精霊が姿を現したので胡桃を実らせて下さいと頼む。
精霊は枝の回りをふわふわ飛んで木に吸い込まれていった。
オレは手を離し枝を見つめる。
小さな青い実が葉の陰から顔を出した。どんどん膨らみぽとりと胡桃が落ちてきたのを手で受け止める。
「モーリット先生出来ました。」
「ふむ、素晴らしい成長じゃの。胡桃も峰司君ものぅ。峰司君は精霊視じゃったのかの?」
「「精霊視?」」
「なんじゃ?知らんのかの。」
「あの、精霊の護り手って事ですか?昨日精霊が視えること思い出したんです。」
「ふむ、それで急いで精霊の神殿に行くのかの?」
「あぁ、ヒボラから教えてもらってな。」
「ふむ、それが良かろうのぅ。精霊の護り手の中の一部が精霊視じゃからな。」
「はい……」
「儂の知り合いが精霊の神殿の近くに住んでおる。分からない事が有れば寄ってみると良いのじゃ。」
「ありがとうございます。」
「そう言えば胡桃は知恵の実とも呼ばれておる、神殿に着く前に食べると良いじゃろぅ。残りは儂が育てておくからの。」
「はい。あのたくさん教えていただいてありがとうございました。」
「ふむ、可愛い弟子の一番弟子じゃからの。峰司君の成長をこれからも楽しみにしておるのじゃ。」
「はい!」
オレは胡桃をひとつ持ってモーリット先生に別れを告げた。
………………………………………………
「ヒダッカさん、これからギルドに行くの?」
「あぁ。峰司のカードにスタンプを押して貰わないとな。」
「うん。」
出発前の準備で必ずしなければならない事だ。ギルドに着き報酬の受け取りカウンターへ向かう。
ユイムさんとテノンさんにサインを貰った依頼票を渡す。
「はい、確認します。あぁベアー退治の少年ですね?」
「うん?ああそうだ。」
「いやぁすごい活躍だったそうですね!」
「えっと、はいまぁ……」
「ベアーを二頭持ってきてくれたパーティーの方が凄く誉めてましたよ。」
「ヒボラだな。」
「そうですか……必死で頑張ったんです。」
「ええそうでしょうね。お疲れ様でした。手続きと報酬を準備しますから少しお待ちくださいね。」
「あぁ。それと子守りの依頼の件も一緒に頼む。」
「ええとはい、そちらも依頼主から感謝を伝えられてますね。」
「えっとそうですか。良かったです。」
俺達はカウンターを離れ顔を見合わせる。
「まったくヒボラは……」
「あの、オレ顔から汗が垂れるかと思ったよ。」
しばらく待っていると俺達は呼ばれた。
「はい、こちらがベアー退治の報酬とベアーの買い取り金額です。それと肉と皮も一部お戻しでしたね?」
「あぁ。」
「はい。ではこちらに。それと子守りの依頼の報酬ですね。それから試練ポイントですが、どちらの依頼主からも大変良い結果だったと。それとベアー討伐の貢献をギルドより付け足させて頂いてます。」
「あっありがとうございます!やった20ポイント!」
カウンターを離れ峰司に聞く。
「20ポイントがそんなに嬉しいのか?」
「えっとロイ君と一緒でしょ?」
「そうなのか?もう覚えてないな。まぁ良いこと出来たって事か?良かったな。」
「うん!」
峰司はカードを何度も見返し嬉しそうだな。先ずヒボラの家に肉と蜂蜜を届けに行く。
予想通りヒボラは家にいなかった。
俺達より早く養蜂場を出て何か準備が有るって言ってたからな。少し文句を言いたい気も有ったがまぁ結果、峰司が喜んでるから良いのか?
次にノアタの家に寄る、こちらもノアタは居なかったが伝言が有ると言う。馬車を借りられたので明日は予定通り出発出来ると言う。荷物が有れば家に寄ってくれると言われたが町の入り口に集合で問題ないとこちらも伝言を残した。
久しぶりに家に帰って来た。庭に父さんが居た。
「「ただいま。」」
「お疲れ様。無事で良かったな。峰司君も大活躍だったそうじゃ無いか?」
「えっともしかしてヒボラさんが来たんですか?」
「うん?さっき挨拶に来てくれてな、もう帰って行ったよ。明日には神殿に向かうそうじゃないか。身体は大丈夫なのかい?」
「あぁ問題ない。ロイはまだ学校か?」
「もうすぐ帰ってくると思うが。」
「そうか。これは父さんに土産だ。」
「ベアーの皮かい?創作意欲が湧くね、ありがとう。」
「あぁそれと肉と蜂蜜だ。」
「うん、ありがとう。今夜に食べようかね?」
「あぁ。半分は峰司のだが薫製にしておいて貰えるか?」
「あの、家に持って帰りたいのでお願いします。」
「もちろんだよ。ご両親も立派に成長した峰司君を誇らしく思うだろうね。私のようにね。」
父さんは俺を見てウインクした。峰司の前で子供扱いは恥ずかしいから止めてもらいたい……
「峰司、荷物を準備しろ。槐国へ帰る前に戻ってくるから最低限の荷物で良いぞ。途中の町では宿屋に泊まるから野宿の準備も要らない。」
「うん。帰りにお土産買ってこれるかな?そしたら報酬を持っていくけど?」
「ん?買いたいものが有れば俺が買うぞ?」
「えっと報酬で買いたいんだ。良いかな?」
「まぁ峰司の報酬だしどう使っても構わんぞ。」
「うん。準備してくる。」
峰司が部屋に向かうと父さんが閉まったドアを見て呟く。
「峰司君が居なくなると寂しくなるな……」
「……ヒボラから精霊の護り手の話しは聞いたか?」
「あぁ。」
「ウルフの話しは?」
「あぁ、それも聞いた。ロイにも帰ってきたら伝えるよ。」
「頼む。」
「ヒダッカも無理をするんじゃないよ。」
「俺は大丈夫だよ。父さんに心配かけてすまんな。」
「まぁ子供が何歳になっても心配してしまうのが親ってもんだ、気にするんじゃないよ。それとな、ひとつ頼み事が有ってな。」
「うん?珍しいな何だ?」
「これを精霊の神殿に返してきておくれ。」
「母さんの精霊の守りか?良いのか?」
「まぁいつまでも持っていて良いものじゃ無いしな。母さんの葬儀の時にまだ持っていたいってお願いしたら許されたんだが。いつまでも母さんに頼っていられないからな。」
「そうか……分かった。」
「頼むな。」
「あぁ。」
俺は母さんの精霊の守りを受け取り胸から取り出した革袋にしまう。
「そう言えば峰司君の精霊の守りを入れる革袋は用意したのかい?」
「光ってない精霊の守りは布袋に入れてあったぞ?あれで良いんじゃないか?」
「まぁ悪くは無いが……記念だしな、何か良いものが有ったかな?」
父さんは仕事道具をあちこちひっくり返し始めた。
俺も急いで準備を始めよう。




