ヒボラ(ひぼら)
作戦会議の翌朝二人を迎えにヒダッカの家に行くと峰司は師匠の家に泊まったと言う。ヒダッカと師匠の家に向かった。
師匠の家に着くと既に二人は庭に居た。懐かしい藁で作った人形が設置されていた。
「師匠、宜しくお願いします。今日は気合い入ってますね?」
藁の人形は土台に藁を巻き付けて立ち上がったベアーの形にしてある。今日はそれだけじゃなく、口を開け牙が見えてるし爪もつけてあって迫力満点だ。
「峰司君にベアーの危険を説明しておったのじゃ。」
「そうでしたか。ありがとうございます。」
ベアーはのっそりして鈍そうだけど、突進、パンチ、爪で引っ掻き、噛みつくとか色んな攻撃をしてくるからな。初めて出会う峰司には必要な事だろう。
身体強化してない状態で攻撃を受けたら俺だって危険だ。
師匠は峰司にベアー討伐依頼を受けさせるのを心配してたからな。
「では始めようかの。ヒダッカ君はアイスブレード、アイスアローのお復習じゃな。特にアイスブレードは魔力の消費を押さえて作る練習が必要じゃのぅ。自分の魔力は少なく、精霊の力を多くじゃぞ。」
「やってみる。」
「ふむ、ではヒボラ君久し振りに魔法の腕を見せて貰おうかのぅ。」
「はい、何をしますか?」
「まずはストーンバレットじゃ。」
「はい。……ストーンバレット!」
藁の人形に石礫が突き刺さった。
「ふむ、石礫は何個作れるようになったかの?」
「今は5個飛ばしたけど、一回で20個くらい迄は飛ばせます。」
「ふむ、そこまで出来れば充分じゃろうのぅ。次はウインドカッターをやってみてくれるかのぅ。」
「はい。……ウインドカッター!」
一陣の風が巻き起こり小さな竜巻が藁の人形を直撃する。風が止むとボロボロになった藁の人形が現れた。
「かっこ良い!」
大人しく見ていた峰司が俺に尊敬の眼を差し向けてくる。ヒダッカから成長したと聞いていたが俺の背に追い付きそうな高さだ。男に尊敬されても嬉しくないぞ。まぁ悪い気はしないけど。
「ふむ、峰司君はどっちを覚えたいかの?」
「えっと、どっちもかっこ良いけど……ベアーを倒せる方にしたいです。」
「ふむ、どちらも威力を高めれば倒せるかもじゃがな。どうじゃ?」
師匠に目で促されて俺は答える。
「威力を高めるのには魔力の練り上げに時間がかかるんだよ。その間に獲物が逃げたり、襲われちゃうかもだろ?だから魔法で弱らせて、剣で止めを刺すのが普通だな。峰司は襲われた時に怯ませて自分が怪我をしないようにしたら良いんじゃないか?」
峰司は少し悩んでいたのか間が空いてから答えた。
「オレ皆と一緒に戦いたいです。あの、守ってもらってばかりって試練の意味無いですよね?」
「ふむ、場合に依っては守りに徹する事も大切な事じゃよ。じゃが試練にしっかり向き合いたいと言うのも良く分かるのぅ。」
ヒダッカの言う通りだったな。俺もやる気出すか。
「師匠、複合魔法はどうですか?コツはいるけど威力は上がります。」
「ふむ、峰司君は器用じゃからのぅ。それが良いかもしれん。」
「えっとどんな魔法ですか?」
「やってみるか。」
モーリット先生に先程の人形を直してもらい、さらに強度をあげてもらう。
俺は用意してきた10センチ程の両端を尖らせたクレイロッドを取り出す。
魔力をクレイロッドに纏わせ硬くしてから藁の人形に投げつける。その際にさらに風を纏わせてスピードをあげる。
「アサシンチェイサー!」
狙い通りドスンッと人形の胸にクレイロッドが突き刺さった。
「凄い!」
「ふむ、始めて見た魔法じゃのぅ。」
「俺が考えました。獲物の身も皮も傷が少なく倒せるように。クレイロッドは土魔法でベアーの毛を芯に入れて固めています。両端を尖らせて有り狙いは多少ずれてもベアーに吸い寄せられる仕組みです。」
「ほう、面白いのぅ。峰司君に教えられるかの?」
「準備しておけば投げるだけです。何とかなると思います。峰司はどうだやってみるか?」
「はい!オレ頑張ります!」
「よし。じゃぁこれを投げてみろ。」
俺は用意しておいたクレイロッドを峰司に渡す。
峰司は手にとって感触を確かめていたが藁の人形に向きなおり、投げた。
藁の人形に真っ直ぐ飛んだが足元に落ちてしまった。
「もっと近くで投げますか?」
「いや、近すぎると危険だし風を纏わせた時距離が有ったほうが加速するから。今くらいで丁度良い。そのまま練習しろ。」
「はい。」
距離は10メートルくらいか?魔法が外れて襲いかかられても、もう一度撃てるくらいの距離だ。
徐々に藁の人形にクレイロッドが当たりはじめた。
「峰司それくらいで良いぞ。次は魔法だ。風はおこせるか?」
「えっとウインドしかやってみたことは無いですけど。」
「うん?そうか、じゃぁウインドで良いぞ。くるくる回る様に出してみろ。」
峰司は何度か試した後で弱いつむじ風を作り出した。
「こうですか?」
「うん、良いぞ。今度はそれをぎゅっと小さく作ってみるぞ。手にクレイロッドを持ってそれを中心に回る様にな。」
「はい!」
峰司は師匠が言ってたように器用だな。これなら今日中に形になるかもしれん。
「峰司そのまま投げてみろ!」
「はい!」
峰司が投げたクレイロッドは真っ直ぐ藁の人形に当たりすとんと地面に落ちた。
「やるな!」
「えっと、刺さらなかったです…」
「そこはこれからやる。師匠、峰司は精霊の力を借りられるんですよね?」
「うむ、教えたし出来る筈じゃ。」
「ありがとうございます。そしたら峰司投げたあと風をさらに小さく回転も速めるんだ、精霊にお願いしてな。」
「はい。やってみます。」
もう一度クレイロッドに風を纏わせ投げる。シュッと音がして投げたクレイロッドが加速して藁の人形に刺さった。
「峰司、今のどうやった?」
「えっと風はくるくる纏わせてそのあとギュルンッて小さくしました。」
「そうか。凄く良いぞ。もし近くにクレイロッドが無くてもその風だけベアーの顔にぶつけても逃げ出すと思うぞ。」
「えっと?はい。」
「ベアーは鼻が弱点でな、顔に今のをぶつけるだけで充分効果は有りそうだ。あとはクレイロッドにも魔力を通せば威力がもっと上がるぞ。」
「はい!」
「ヒボラ、峰司もうそろそろ切り上げるぞ。」
「もうそんな時間か?」
いつのまにか日が高く登っていた。
「ヒボラ君続きも君が教えられるじゃろぅ。もう弟子を取っても良い頃じゃの。」
「弟子なんて俺には向かないですよ。」
「ほっほっほっ、まぁそこは良く考えると良いの。峰司君、依頼が終わるまで胡桃は儂が面倒を見ておくからの。」
「ありがとうございます。宜しくお願いします。」
「ヒダッカ君はもう卒業じゃ。良く頑張ったの。」
「世話になった。」
俺達は師匠に礼を言い町へ向かった。
疲れた身体を温泉で休め近くの店で食事を取る。
テーブルに座り食事が運ばれて来るのを待つ。
「ヒボラさんは攻撃魔法使いでしょう?攻撃魔法使いの仕事って特別な事じゃないんですか?」
「まぁな、そう言うのも有るよ。」
「ヒボラは面倒くさがりだからな。」
「あの、どういうことですか?」
「ほら、魔法使いって研究ばっかしてる奴とか、魔法騎士とかだと上下関係とか派閥とか色々めんどくさいんだよ。師匠みたいな魔法使いは珍しいんだよ。」
「えっと。めんどくさいから狩人ですか?」
「狩人になったのは守りたいからだよ。」
「「守りたい?」」
「それは俺も聞いたこと無かったな。どういう事だ?」
「まぁ聞かれた事無かったかもな、森から獣が出てきて危ない事とか有るだろう?」
「学校に通ってた時のワイルドボアーか?」
「ああ、あれも切っ掛けのひとつだな。畑とか町の人を守りたいってのが大きいよ。田舎町だけど良いところだろ?それに獲物を狩って帰ると母ちゃんも弟達も喜ぶからな。」
食事がテーブルに並べられ会話は終了となり空腹の腹に料理を詰め込んだ。
俺達はそこで別れヒダッカと峰司は一旦家に帰る。
俺はそのまま養蜂場に向かう。




