太陽が昇って
太陽が昇っていた。雨は夜のうちに止んだみたいだ。
「行ってきます。」
ヒダッカさんは直接依頼の場所に向かうって、もう家を出た後だった。
トラシ町を一人で歩く。
道路には少し水溜まりが有ったけど、空気は澄んで気持ち良かった。
今日もコノカちゃんは庭で待っていてくれた。
……
……
……
ぐったりと疲れヒダッカさんの家に帰ってきた。
「ただいま。」
そのまま夕飯の準備中で良い匂いのするキッチンに入る。
……手にいっぱい食べ物を持って。
「おかえり。」
「おかえりなさい。」
「おかえり~?それどうしたの?」
「えっと、またお礼にってその親達から……」
「そんなに?」
「えっと。いつの間にか近所の子が集まってきちゃって。コノカちゃんの家でも少し貰ってくれたんだけど。お礼だから持って帰りなさいって。」
「それは峰司君大人気だったねぇ。今は何処も忙しい時期だし喜ばれただろう、良いことをしたね。」
「あの、皆で食べて貰えますか?」
「わーい!」ロイ君のニコニコ笑顔と背の高い大人二人の頷きに安心した。
夕食にはスコットさんがパイを焼いてくれていた。この間オレが美味しかったって言ったのを覚えていてくれていたんだ。その他にも増えた大量の料理をなんとか食べきった。
「美味しかった~しあわせ~もう動けない……」
「私もまだ若いな、三人前くらい食べた気が……」
「スコットさんのパイすごく美味しかったです。ありがとうございます。色んな料理食べられて面白かったけど……もう無理です。」
「俺も久しぶりに頑張ったぞ……」
お腹をさすりながら椅子に背を預けるような態勢でヒダッカさんが笑う。
突然のご馳走の山に嬉しいけど戸惑いも覚えていた。だけど3人の満足そうな様子に今日頑張って良かったと心から思えた。
スコットさんの目配せに僕達は声を合わせて言った。
「「「「ごちそうさまでした。」」」」
…………………………………………
モーリット先生を待たせる訳にもいかず、俺達は重い体を引きずる様にして魔法の授業に行く。
今日は庭で授業と言われていたが灯りが点り、庭全体が浮き上がって見えた。
玄関で声をかけるとモーリット先生はすぐに出てきてくれた。
「宜しく頼む。」
「宜しくお願いします。」
「さぁ始めようかの。」
まずは峰司からだ。
「昨日の木じゃよ。これを庭に植えるのじゃ。」
「はい。」
モーリット先生はガラスの花瓶に挿した枝を持っていた。
俺達はモーリット先生について行き庭の一角に進んだ。
「この辺りが良いのぅ。峰司君の木には根が生えて無いじゃろう?」
「はい。」
「この木が根を伸ばしたいと思う美味しい土を作るのじゃ。」
「美味しい土ですか?」
「そうじゃ、今日は土の声を聞くのじゃ。」
「はい。」
峰司は地面に座り土を触り始めた。
その様子に納得したのかモーリット先生は俺を振り返る。
「ヒダッカ君はあの的を射ってみるのじゃ。先ずは魔力を込めずいつも通りでの。」
「ああ」
言われた通り弓に矢をつがえ射つ。
「ふむ、なかなかの腕前じゃな。次は矢に氷を纏わせて射ってみるのじゃ。」
「やってみる。」
俺は矢じりに昨日と同じ氷の塊を作り尖らせた。氷の重みでずれた重心を調整し矢を放った。
「見てみようかの。」
モーリット先生が的へ向かったので俺もついていく。木の丸い的に矢が2つ突き刺さっている。まず最初に射った矢を外し出来た傷を見るように言われる。次に氷を纏わせた方の傷も見る。
「どうじゃ?」
「同じか?」
「そうじゃな、大体同じかのぅ。」
「何でだ?込めた魔力が少な過ぎるのか?」
「矢じりは上手に作れていたからのぅ。あとは精霊と仲良くなる必要が有るのかのぅ。」
「精霊と仲良く?」
「そうじゃのう、峰司君にも知っておいてもらおうかの。」
峰司が呼ばれ一緒に話を聞く。
「儂らの魔力は精霊からの借りものと言うのは知っておるじゃろ?」
「ああ、聞いたことは有る。」
「えっと、初めて聞きました。」
俺ははっとした。表情には出さない様にしながらも、モーリット先生と紹介してくれたヒボラに感謝した。
「ふむ、魔力を消費しても自然と増えるのは何故じゃ?」
「……考えた事も無かったな。」
「体の中で作られる感じですか?」
「ふむ、多くの魔法使いが今も研究しておる。でも分からんのじゃ。じゃがのぅ儂らには見えない‘魔力のもと’が世界に有りそれが体に集まってくると言うのがおおよその見解じゃの」
「「魔力のもと?」」
「そうじゃ、精霊の力とも魔素とも言われておる。儂らの体の中の魔力は限りが有るじゃろ?魔法を発動するとき周りの精霊の力を一緒に取り込むのじゃ。そうすることで魔法が強くなるのじゃ。」
「……」
「精霊の力……」
「ふむ、やってみるかの。」
俺は言われるまま氷の矢じりを三本作る。
モーリット先生がそのうちの二本に手をかざす。
「その矢で射ってみるのじゃ」
俺は矢をつがえて的を射る。
「バンッ」
的がまっぷたつに割れてしまった。
矢を拾ってくる様に言われ先程作った矢に並べる。
「矢じりを比べてご覧。」
一本は氷が溶け始めモーリット先生が手をかざした二本は鋭く硬い氷がついたままだった。
「なんかこの二本はゆらゆら光ってますね?精霊の守りみたいです。」
「ふむ、そうじゃ。それには精霊の力を纏わせて有る。精霊の守りも精霊の力の塊みたいなもんじゃからのう。精霊の力を借りたから数時間はこのままじゃよ。どうじゃ?」
「凄いな。どうすれば精霊の力を借りられるんだ?」
「儂は精霊と仲良くすると出来るがのぅ。人に寄って借り方は様々じゃ、周囲から集まってくるように意識する者、呼吸と一緒に取り込む者、精霊に祈る者とかのぅ。」
「そうか、やってみる。」
「峰司君も続きをしようかの?精霊の力も借りつつの。」
「はい。」
……………………………………………
さっきまでオレが触れていた土をモーリット先生が調べてくれた。
「ふむ、柔らかくなっているのぅ。あとは栄養じゃが……」
ガラスの花瓶に入っていた枝を持たされた。
モーリット先生が柔らかくなった土に花瓶の水をかけ、そこに枝を刺すように言われた。
「ふむ、木の欲しい栄養を聞くのじゃ。早くしないと枯れてしまうぞ。」
「ぅえっ!…はい。」
枝を支える様に持ち木の栄養、木の栄養と考える。
枯れてしまうといわれオレはちょっと焦っている。
せっかく芽が出たのだから元気に育って欲しい。
木がすくすくと延びている所を思い浮かべよう。
大きな木、大きな木と思っていたら槐の木が浮かんだ。
木のうろの中は乾いていたけど木に触れて眠ると枯れ木じゃないのが分かった。
水の気配?そういうものかも知れない、水と一緒に栄養を吸い上げるってモーリット先生も言ってた。
すくすく、ごくごく。あとは太陽の光。ポカポカかな?
魔力を枝から土、土から枝って動かした。すくすく、ごくごく、ポカポカ。何度も繰り返す。
「ふむ、良いじゃろう。」
モーリット先生の声に目を開けると
持っていた枝は少し伸びしっかりと地面に根を張っていた。
「出来ました!」
「よく頑張ったのう。」
ヒダッカさんを見ると、すでに矢を片付けていた。
「今日は遅くなってしまったのぅ。早く帰って休みなさい。」
「「はい。」」
ヒダッカさんも魔力を使いすぎてへとへとだって事だった。
明日は魔力を使わず、明後日続きをすると言われた。
氷がゆらめく矢を3本持ってヒダッカさんと一緒に帰った。




