今日もトラシ町は
今日もトラシ町は晴れていた。
「父さんおはよう。」
「ヒダッカおはよう。」
パンの焼ける良い香りが部屋に満ちている。
母さんが死んだあと父さんは靴屋を辞めて自宅で靴工房を開いた。
家の事は母さんに任せっきりだったから苦労したと思う。それでも俺とロイの側に居られる様に頑張ってくれた。
料理も出来なくて膨らまないパンや焦げたスープとか散々だった。今では笑えるがその当時は我慢して美味しいって食べてたな。
「何にやにやしてるんだ?」
「いや、良い匂いだろ?父さんの料理の腕ますます上がったなと思ってさ。」
「ああ膨らまないパンとか思い出してたのか?」
何で分かるんだ……
「い、いや。ほ、峰司は起きたか?」
「ロイと庭で鶏に餌をあげて、水汲みもしてくれていたよ。もう終わった頃かな?」
カーテンの向こうのキッチンでホウジとロイが何かしている。
「鶇村のお茶を淹れたよ!」
何故かロイが自慢そうにティーポットを持って出てきて、その後ろから峰司はパンの入った駕を手についてきた。
「気に入ってもらえると良いんですけど。」
それぞれ席に着きお茶を注いで父さんの言葉を待つ。
「ありがとう峰司君、ロイ。じゃあ食事にしようか。精霊の恵みに感謝して……いただきます。」
「「「いただきます!」」」
自分のカップに注がれた異国のお茶に不思議さを感じつつ口に含んだ。緑の澄んだお茶は爽やかで旨かった。何となく鶇村を初めて見たときの景色が浮かんだ。
……………………
「「行ってらっしゃい!」」
父さんとロイに見送られ家を出る。
ギルドまでは峰司と一緒の道だ。
「あの、ヒダッカさんオレ付いてきちゃって迷惑じゃなかった?」
「今更どうした?」
「皆とっても良くしてくれるし、服も靴も貰っちゃって……」
「うん?その格好だとトラシ町の子供にしか見えないな。靴は丁度余っていた物だし服は峰和に渡された槐国の通貨を換金して買ったから問題無い。」
「そうなの?でもうまく言えないんだけどフォス国の人にも暮し?日常?そう言うのが有るって思わなくて着いて来ちゃって……悪かったかなって……」
肩を落としてすまなそうに言う峰司からすればフォス国は物語の中の国。
物語の世界に日常が有るなんて俺も考えたこと無かったかもな……少し考えたが梢が言ってたように俺にも幸運だったなと思い答えた。
「何難しく考えてるんだ?フォス国に帰らせてくれただろう?案内料も受け取ったし良いことばっかりだぞ。」
「うん、そっか。」
峰司のすまなそうな様子は消え、はにかんだ笑顔を浮かべた。
「それより体調はどうだ?」
「身体軽いよ。魔力も毎日動かす様に頑張ってるし大丈夫だと思う。」
「そうか。」
「今日は水汲みをしたけど、魔法で作ったりしないの?」
「ウォータークリエイトか?魔法でする者も少しは居るがな。トラシ町は水が豊富に湧くから井戸を掘るものが多いな。」
「そっか。何でも魔法でする訳じゃないんだね。」
「何でも出来たりはしないな。魔法に助けられてはいるがな。」
ギルドの前で別れた峰司の真っ直ぐ歩く後ろ姿を見送り俺も仕事へ向かう。
………………………………
「こんにちは~」
少し迷いつつもコノカちゃんの家に着いた。
今日も少し待たされ産婆さんに家にいれてもらう。
産婆さんから母親の部屋には入らないで、天気が良いので庭で遊んでも良いけれど町へは出ないで等と注意を幾つか受ける。
「それでは峰司君宜しくお願いしますね。」
「はい。」
「おにいちゃんきょうもあそんでくれるの?」
「うん、何して遊ぼうか?」
オレと産婆さんの話を大人しく聞いていたコノカちゃんが耳の下で切り揃えられた髪を揺らし小首を傾げる様に聞いてきた。
「あの、ごほんよんで?」
「うん、良いよ。」
昨日も読んだ絵本を取り出し読む。
小さい子に読み聞かせ等した事は無かったけどコノカちゃんはわくわくして聞いてくれるのでオレも楽しめる。
時おり絵を小さな手で触り、これなあに?って聞いてくるので答えたりもする。フォス国の絵本には大体精霊が出てくる見たいで、オレも何だろう?って思う所は分からないから後で聞いてみようって話した。
絵本の事はコノカちゃんの母親に聞けば良いのだろうけど今日も部屋から出てこない。と言うか出てこれないほど具合が悪いのかな?薬を飲んでいるようだし出産って大変な事なんだな……
今日もコノカちゃんに教わりながら昼食を作り、午後からは少し庭で遊んだ。
大人しい感じしか無かったけど外に出て見たら、声をあげて笑い走り回って楽しそうだった。
疲れたのか眠ってしまい、そのまま起きる前に父親の帰宅で今日もおしまいとなった。
ちょっと疲れながらも無事に依頼を終了してほっとした。
ヒダッカさんの家へ帰ろう。
夜には魔法の先生の所へ行く、今から楽しみ。




