ヒダッカさんは
ヒダッカさんは眠ってしまった。
寝ぼけた身体を動かし回りを見る。
「フォス国かぁ」
空がすこしづつ明るくなっていく。
緑の木立の間に黄色や赤に色づいた葉が混じってる。
朝の澄んだ空気は肌寒いけどすっきり目を覚ませてくれる。
小さい頃フォス国の大男の続きの話を聞いて、オレは夢中になった。何度も魔法を使ってみた、何も起きなかったけど。
だけど今はそのフォス国にいる。
魔法も使える。
「ふふっ。」
ヒダッカさんの精霊の守りの光を見たときドクンっと心臓が鳴った。懐かしかった。そんなこと恥ずかしくて言えなかったけど。
いまも心臓がいつもよりたくさん動いてる気がする。
小さくなった焚き火に拾ってきた木を足して回りを見る。
今日の夜か、遅くても明日中にはヒダッカさんの町に着くらしい。
トラシ町って言う所。
そこで試練をいくつか受けてから精霊の神殿に行く予定だ。
うまく出来るかな。フォス国の事知らなくても大丈夫な試練だと良いのだけど。
「ふうっ」
なんか緊張してきちゃったな。
横笛を吹こう。
落ち着くのに一番良いし。
荷物から横笛を取り出す。
ヒダッカさんを起こさないように少し距離を取って息を吹き込む。
……………………………………………
「ん?」
何か聞き慣れない音がした気がして目を覚ます。
焚き火の側に峰司が居ない。
ハッと身を起こすと先程の音がはっきりと聞こえた。
音のする方を見ると峰司の背中が見える。
「驚かすなよ。」
小さく呟く。
横笛か?
上手いもんだな、小鳥が歌うような明るい音色が聞こえる。
警戒を解き身体を横にした。目を閉じ、横笛の音色を聞く。
聞いたことの無い曲だ、不思議と心が落ち着く。
…………………………………………………
「ヒダッカさん、朝ごはん出来たよ。」
「うん?」
再び寝てしまっていたようだ。
峰司が昨日のスープを温め粥と言うものを作ってくれていた。
トロリとした米がスープを吸って旨い。
「旨いな。料理が出来るのか?」
「簡単な物なら。昨日のスープ美味しかったから粥にしたら美味しいと思ったんだ。」
焚き火を片付け歩き出す。
昨日の疲れを感じさせ無いしっかりとした足取りで着いてくる。この様子なら今日中に町へ着けそうだ。
一応ウルフに出会ったら武器の使えない峰司は木の上に避難するように伝えて有った。
攻撃魔法はまだ教えて無いし、と言うかそんなに直ぐに出来る物でもない。
ウインドで空に浮かんだのは面白かったな。
空を飛ぶフライと言う魔法は有る。風を纏い操って浮かぶのだ。ウインドのような一定方向の弱い風を起こして浮かぶなど考えたことも無かった。
峰司がもっと色んな魔法を覚えたら組合せで凄い事をしでかしてくれそうだ。トラシ町についたら魔法の詳しい者に教わるのも良いな。
そんなことを考えていたら遠くからガランガランと音がしてきた。
「おーい!」
「ヒダッカー!」
微かに俺を呼ぶ声もする。
「おーい!ここだー!峰司も叫べ。」
「おーい!」
「おーい!」
俺達の声が届いたのか、ガランガランと言う音が近づいてくる。俺達も音の方へ向かう。数人の暑苦しい男どもとノアタ、ヒボラが見えた。
「ヒダッカ無事だったんだね!」
「えっとその子どうしたんだ?」
「そっちこそなんだその大所帯?」
「いやいや、お前の捜索パーティーだぞ?何呑気な顔してるんだよ。」
「えっ?すまん……心配かけたな。」
ガヤガヤと無事を祝い、気の抜けた捜索パーティーと一緒に町へ戻る。
峰司はたくさんの人に囲まれ驚き、緊張した面持ちだった。
町ではウルフ討伐隊も編成され緊急事態の様子らしい。
俺はここまでの森の様子を伝えてウルフも見かけなかったと告げる。
「森の奥に戻ってくれたなら良いんだが。」
「そうだね。」
「それよりヒダッカはどうしてたんだよ、帰ってこないからウルフに囲まれてるか、怪我でもして動けないかと思ってたよ。」
「いや、色々とあってな。町に帰ったら話すよ。」
とりあえず自己紹介だけ済ませ賑やかに町へ向かった。大勢なのでウルフの襲撃を気にせず最短距離を進み、暗くなる頃には町へ着いた。
捜索パーティーのメンバーに改めて礼を言い解散した。
「え~と、ヒダッカの家で良いよね?」
「ノアタから親父さんに、俺達で連れて帰ってくるって伝えといたしな。」
「すまないな。話したい事もたくさん有るし付き合ってもらっても良いか?」
「ダメって言われても着いてくぞ。」
「僕なんか美味しいもの買っていくよ。峰司君は食べたい物有る?」
「フォス国の物ならなんでも食べてみたいです。ノアタさん。」
「可愛いなぁ峰司君は。じゃぁ後で合流するよ。」
通りをスキップしそうな勢いでノアタは歩いて行ってしまった。
「楽しそうだな……」
「安心したからだろ、まったく俺達に心配かけやがって。」
「すまん……」
「ごめんなさい。」
「いやいや、峰司君は悪くないから。」
ブツブツと文句を言うヒボラと共に家へ向かった。




