第9話:『鳳梨とロゼの独占欲』
鮮やかなロゼの泡と、甘いパイナップルの香り。
独占欲と愛おしさが深く交差する、二人だけの特別な夜の記録です。
少し意地悪で、どこまでも深い優しさに揺れる彼女の素顔をお楽しみください。
テーブルの上に運ばれてきたル・レーブ ロゼの鮮やかなピンクのボトルが、店内の洗練された照明を反射して妖しく煌めいていた。
グラスに注がれた果実の泡と、昇吾がメニューにあったパイナップルジュースを頼んで混ぜ合わせた特製カクテルから、甘い香りが密度の濃い空気の中に溶け込んでいく。
「パイナップルカクテル、すっごく美味しい……これも二人だけの大切な思い出だね」
昇吾の肩にぴったりと頬を寄せ、ボトルを大切そうに抱えながら、杏菜は少し潤んだ瞳で見上げて言った。
「……ねえ、モテなくて一途がいいんだって」
前触れもなく言葉をこぼした杏菜に、昇吾はグラスを傾けながら問いかける。
「モテる男がいいって言ってたの、杏菜でしょ?」
「モテるの分かってるから言ってるの。なんか嫌だ……ほら、またこういう気持ちになってきた。ねー、モテなくていいの!」
「うん、全然モテないから大丈夫だよ」
「ウソ、絶対モテるもん! 初めて会った時に『モテない人よりモテる人が好き』って私言ったじゃん? でも、モテるのに一途だったらそれが一番良くない?」
自分の昔の発言を引き合いに出しながら、杏菜はさらに甘えるように言葉を重ねる。
「なんなら、ヘルプの子とかにも冷たくして……」
駄目を押すように繰り返す杏菜の愛おしい我が儘に、昇吾は少し色のついたメガネの奥の瞳で柔らかく微笑んだ。
「そんなことしたら、杏菜の株が下がっちゃうでしょ」
スマートに、けれど優しく諭すように昇吾が言葉を返すと、杏菜は悔しそうに唇を噛みしめ、熱い視線を向けた。
「……そういう優しいとこなんだよ」
逃げ場のない優しさに抗えない溜め息を漏らしつつも、彼女の瞳はまっすぐに昇吾だけを捉えて離さない。
ふと、昇吾が彼女の身に纏っている黒いドレスに視線を落とし、問いかける。
「あれ、初めて二人で飲んだ夜のドレス……赤じゃなかった?」
「……えっ?」
杏菜の動きが止まった。顔を上げた彼女の瞳には、一瞬で小さな嵐が吹き荒れる。
「ドレスの色、覚えてないの!? あの夜のこと、覚えてないの!?」
「いや……少し色のついたメガネのせいかな。全部反対の色に見えるんだよ」
「……じゃあ、いま私のこともブスに見えてるってこと!?」
「そーだよ」
「……っ、じゃあなんで好きなの!?」
食い下がるように理由を求めてくる彼女のまっすぐな瞳を見つめ、昇吾は一呼吸置いてから呟いた。
「……性格かな」
「可愛くて性格もいい、に変えて!!」
本気で怒ってみせる彼女のあまりの素直さと愛おしさに、昇吾は降伏するように笑みを溢した。
嘘をつかず、感情のすべてを真っ直ぐにぶつけてくる彼女。
二人の写真をアルバムに大切に収め、深夜に
「今日も隣に居られて幸せだった」
「明日も仕事なのに会いに来てくれてありがとう」
と送ってくる彼女の心は、もう隠しようもないほど昇吾の熱で満たされていた。
「ずっとこんな時間が続けばいいな」
スマホの画面に届いた彼女の切実な願いに向けて、昇吾は静かに指先を滑らせる。
『ずっっとこんな時間は続かないよ。』
「……えっ?」
目を疑う杏菜……
『今よりもっと幸せな時間が続くから』
青いハートを添えたその返信に、画面の向こうで彼女がどれほど深く胸を躍らせ、愛おしさに身を悶えさせるかを知りながら。
二人が紡ぐ時間は、もう二度と解けない強い結び目となって、どこまでも深く甘い熱を帯びていくのだった。




