第24話:『喧噪の果て、透き通る誓い』
華やかな熱狂の裏側に隠された、限界を超えたプロの意地と執念。
飾りのすべてが剥ぎ取られた極限の夜の果てに、二人がたどり着いた絶対的な絆の形を描く、第24話
グラスが打ち鳴らされる狂乱の祝杯、店内の空気を鼓膜ごと震わせる重低音の讃歌、そして空間を支配する最高級シャンパーニュの芳醇な香り。
連日連夜の狂騒が続き、熱気の渦と化していた周年イベントも、ついに最終日の夜を迎えていた。けれど、その華やかな狂乱の裏側で、杏菜の心身はすでに限界をはるかに超えて悲鳴を上げていた。
ほんの一杯、二杯のお酒を口にしただけで、意識が遠のくほどの泥酔状態。頭の奥ではキーンと冷たい耳鳴りが鳴り響き、激しい吐き気が彼女の小さな身体を苛む。それでも彼女の頭から離れないのは、残酷なまでに突きつけられる周年の対象シャンパンの売上数字だった。
何度も席を立ち、逃げ込むようにトイレへ駆けては何度も吐いてしまう。蒼白な顔で席に戻り、温かいお茶とお味噌汁を少しずつすするものの、まともな会話すら成り立たないほど憔悴しきっていた。
「もう十分だよ……お願いだから帰って休んで?」
目の前で苦しむ姿を見かねた昇吾がそう優しく声をかけても、杏菜は首を横に振るしかなかった。
「……ううん……気になるの……お店に、いなきゃ……」
途切れ途切れに呟く言葉。体調は最悪で今すぐにでも倒れ込みたいはずなのに、売上への焦りとトップキャストとしての重圧が、彼女を頑なにその場へと縛り付けていた。
華やかな笑顔も、気の利いた営業トークも一切作れない。けれど、そんなボロボロの姿を晒してでも席に留まろうとする彼女の壮絶な意地を、昇吾は嫌な顔ひとつせず、ただ静かに受け止めていた。
見返りの接客も、楽しげなお祝いの空気もいらない。ただ、彼女がこの過過酷すぎる夜を無事に生き抜いてくれること。そのプロとしての苦しみと重圧を100%理解し、一切の嘘や見栄を捨てて隣に居続けること。
「いいんだよ、杏菜。よくここまで頑張った」
激しい耳鳴りとプレッシャーで意識が朦朧とする中、昇吾がかけてくれる言葉だけが、彼女にとって唯一の温かい救いだった。
昇吾が店を後にした後も、彼女はそのまま店から動くことができず、閉店後の誰もいなくなったフロアで深く眠り込んでいたという。そこまで自分を追い込み、身体を削り尽くして戦い抜いた周年イベント。
完璧な接客など何ひとつできなかった夜。けれど、飾りのすべてが剥ぎ取られ、苦しむ素顔をそのまま晒し合ったからこそ、二人の間には「客とキャスト」という表面上の関係を完全に超越した、誰にも壊せない絶対的な信頼と絆が刻み込まれていたのだった。




