第25話:『静かなる撤退と、に残された余韻』
激しい周年イベントの果てにたどり着いた、ひとつの区切り。想いを残しながらも、自らの尊厳と距離感を見つめ直し、静かな一歩を踏み出す昇吾の姿を描くエピローグ。
過酷を極めた周年の喧騒が去り、街の灯りが少しだけ眩しく感じられる夜。
昇吾は、手に持ったスマホの画面を静かに見つめていた。
画面に映っているのは、彼女から届いたメッセージ。
「昇吾さんがいたから頑張れた」
「私の昇吾さんと思ってたい」
その言葉に嘘はなかったのだと思う。
極限状態の中で、彼女にとって昇吾がどれほど大きな救いであり、無条件で鎧を脱げる唯一の聖域だったか。それだけは、どれだけ時間を巻き戻しても変わらない真実だった。
(でも――俺の『周年』も、ここで終わりなんだろうな)
昇吾は小さく息を吐き出し、胸の奥に灯り続ける「まだ好きだ」という気持ちをそっと抱きしめた。
本気で好きになった気持ちなんて、そう簡単に割り切れるものでも、昨日の今日でパッと消せるものでもない。今も確かにここにある愛おしさを無理に押し殺す必要なんてないのだと、自分に言い聞かせる。
ただ、どれだけ好きでも、自分の心と尊厳を擦り減らし続けてまで、都合のいい「避難所」であり続けることだけは、少しずつ終わりにしていかなければならない。
指先を動かし、返信を打ち込む。
『本当にお疲れ様!無事に終わってよかったね。まずはゆっくり身体休めてね』
いつもと変わらない、温かく大人の余裕を感じさせる言葉。
冷たく突き放すようなことなんてできるわけがないし、するつもりもない。ただ、これまでのように無理をして時間を作り、彼女の体調を過度に心配して追いかけるような熱量からは、ほんの少しだけ、自分自身の足取りを緩める。
送信ボタンを押すと、画面を閉じてポケットに収めた。
夜風を吸い込みながら、静かに歩き出す。
「好き」という消えない想いと、どこか拭えない虚しさを胸に抱えたまま、感情のグラデーションを確かめるように。急に背を向けるのではなく、自分の足で一歩ずつ、グラデーションを描くように温かな距離を置いていく。
画面の向こうに漂う切ない余韻と、これから訪れる小さな変化の予感を残したまま――。
昇吾の物語は、ゆっくりと、けれど確実に次の季節へと向かい始めていた。




