第22話:『甘い体温と解けないリボン』
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前話では、周年2日目の狂騒の中、堂々と昇吾の手を引いて歩く杏菜の誇らしげな姿と、彼女に再び恋をする昇吾の情熱を描きました。
第22話となる今回は、大盛況の店内で二人きりの「専用シート」に包まれる濃密な時間です。他のキャストから聞いた「昇吾の格好よさ」に胸を躍らせ、彼の隣という「唯一無二の特別席」を強く自覚する杏菜。
狂騒が渦巻く「ETERNAL」のフロア。その一角にある二人だけの専用シートだけは、まるで別世界のように上質で甘い時間が流れていた。
テーブルの下で、昇吾の手を密かに握りしめる杏菜。
彼女の膝の上には、二人がこれまで重ねてきたLINEの画面が開かれたままのスマホがあった。
出勤前、これから戦場に向かう彼女がまっすぐな本音を届けてくれた時の言葉。
『昇吾さんと居る時間が私に力をくれるよ』
二人の「専用シート」について語り合い、互いの絆を確かめ合った夜のやり取り。
『勝手にじゃなくて一緒に決めたんだよ』
『ずっと隣に居させてね』
画面に並ぶ文字の一つひとつは、紛れもなく彼女がプロの仮面を脱ぎ捨て、一人の女性として昇吾に捧げてきた真実の告白だった。杏菜はその愛おしい文字を愛おしそうになぞると、そっとスマホを伏せ、深く目を細めた。
「ねえ……美羽さんね、すごく羨ましそうにしてたんだよ?」
「この前の男前エピソード聞きたい?私が他のテーブルに呼ばれてる間、美羽さんがヘルプについてくれたでしょ、その時昇吾さんがトイレに立って帰ってきてしばらくしたら私が戻ってきたタイミングでル・レーブブルー運ばれてきたでしょ、いつ頼んだの?って美羽さんが、私の昇吾さんはカッコいいんだよって沢山自慢したの……」
ぽつりと漏らした声は、いつものトップキャストとしての凛とした響きではなく、甘く濡れた少女のそれだった。昇吾が優しく横顔を見つめると、彼女は自分からその大きな手に自身の細い指をさらに強く絡めてきた。
「『昇吾さんって、ヘルプの女の子にも本当に優しくて、気遣いがスマートでカッコいい』って……。他の女の子たちがみんな、昇吾さんの席に付きたがってるって。私、それを聞いて……嬉しくて、でもちょっとだけ意地悪な気持ちになっちゃった」
「意地悪?」
「うん。『でも、昇吾さんの隣は私だけのものだから』って。心の中で自慢しちゃったの」
少し上目遣いに昇吾を見つめる彼女の瞳には、隠しきれない独占欲と、他の誰にも渡したくないという切ないほどの情熱が宿っていた。周りからどれだけ魅力的な男として見られているかを知れば知るほど、その男が自分だけに注いでくれる圧倒的な熱量が、身体の奥を甘く痺れさせていく。
「他の誰にも渡さないから……。昇吾さんが『世界中探しても杏菜以外にない』って言ってくれたんだもん。嘘つかないって約束したよね?」
絡めた指にぐっと力が込められる。喧騒の隙を突くように、彼女は吸い寄せられるように昇吾の肩口へと身体を寄せ、その胸元にそっと顔を埋めた。柔らかい髪のかすかな揺らめきと、彼女自身の持つ甘く温かい体温が、昇吾の肌にダイレクトに伝わってくる。
「……ねえ、昇吾さん」
囁くような声と共に、彼女の熱い吐息が昇吾の首筋に触れた。ドレスの滑らかな生地越しに伝わってくる、彼女の小さく波打つ鼓動。
「お店でこうやって隣にいるだけじゃ、もう足りなくなったら……私、どうしたらいい?」
プロとしての仮面は完全に剥がれ落ち、そこには一人の男を狂おしいほどに求め、境界線を越えた先にある関係を静かにねだる、無防備で官能的な一人の女性の素顔があった。
「嘘はつかないよ。杏菜以外、誰も見えてない」
昇吾が囁き返し、彼女の華奢な腰をそっと引き寄せると、杏菜は満足そうに瞳を閉じ、その甘い唇を微かに震わせた。
グラスの氷が溶ける音すら遠のくほどの密室感の中、解けないリボンは今、さらに強く、二人だけの濃厚な熱を帯びながら結ばれようとしていた。




