↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ETERNAL』  作者: 千筆拓
PR
2/3

第2話:『シェルピンクのドレスと、隠された翳り』

ご覧いただきありがとうございます!

不夜城『ETERNAL』で渦巻く視線と、杏菜が見せる可憐な素顔。そしてLINEに込められた小さな本音——。


少しでも「引き込まれた」「二人の関係が気になる」と感じていただけましたら、作品ページ下部より【ブックマーク登録】や評価(★★★★★)をいただけますと、大変励みになります!


『昇吾さん! 今週もお店来てくれるよね? 新しいドレス買ったから早く見せたいな!』



週の半ば、昼過ぎに届いたLINE。文章のあちこちに散りばめられたキラキラしたマークやハートの記号は、相変わらず明るく華やかだった。



「今週も来てくれるよね?」という小さな確認で肯定を引き出し、「新しいドレス」という限定の話題で期待感を煽る。客の心を段階的に繋ぎとめる、洗練されたプロの距離感。



『金曜の遅い時間に行くよ。楽しみにしてる』



『やったー! 絶対待ってるね! 無理しないでお仕事頑張ってね!』



即座に返ってきたテンポの良い返信。語尾にはまたしても賑やかな記号が添えられている。



だが、その金曜の夜、地下へと続く『ETERNAL』の大階段を下りた昇吾が目にしたのは、いつもとどこか違う緊張感に包まれたフロアだった。


スタッフたちの立ち回りにはどことなく不自然な間合いが生じ、他のテーブルについているキャストたちの視線には、刺々しい毒が含まれていた。


――社会的証明の罠。


「周りも皆そうしているから」という同調心理を利用し、特定の誰かをじわじわと排斥していく夜の街特有の集団心理。フロアに満ちる冷ややかな空気の正体だった。



「お待たせ、昇吾さん!」



少し遅れて席に滑り込んできた杏菜は、いつもの満面の笑みを浮かべていた。生成りの温もりを残したシェルピンクのニットドレスが、彼女の細くしなやかでスタイルの良さが際立つラインを優しく包み込んでいる。



「ドレス、似合ってるよ。綺麗だ」



「本当!? 嬉しい! 昇吾さんに一番に見てもらいたかったの!」



無邪気に喜ぶと、彼女はギュッと両手で昇吾の手を包み込むように握りしめてきた。柔らかくて温かいその手の感触と、悪戯っぽく首を傾げて覗き込んでくる大きな瞳。小動物のような愛らしさで距離をゼロにしてくる所作は、計算を超えた無防備な愛嬌を放っている。



「ちょっと、そんなに見つめないでよ……」



そう言ってふにゃりと頬を緩める笑顔には、売れっ子キャストの完璧な作り物ではなく、年相応の無邪気で可憐な表情が覗いていた。



だが、彼女がグラスを口につける直前、視線をわずかに右下へ落とした。心理的に不安や葛藤を隠そうとする典型的な視線移動。昇吾はその目の奥のかげりを見逃さなかった。



「……何かあったのか?」



昇吾が静かに問いかけると、杏菜は一瞬だけ表情を固めたが、すぐにパッと華やかな笑顔を作って首を振った。



「えっ? なにもないよー! ちょっと今週忙しくて疲れちゃっただけ! 復活の早さだけが長所だから全然平気!」



打ち消すように軽いトーンで笑う杏菜。


だがその時、隣のテーブルを担当していた後輩キャストと黒服が、通りざまに冷ややかな視線を杏菜に向け、ボソリと小さく吐き捨てた。



「……また特別扱いされてさ」



杏菜の肩が、ピクッと小さく跳ねた。


ぎゅっと握りしめられた指先に、わずかに力が入る。売上が上がれば上がるほど、周りからの嫉妬と足引っ張りが激しくなる不条理。彼女はその真ん中で、一人で耐え忍んでいた。


それでも、昇吾の前では決して弱音を吐かず、「完璧なキャスト」を演じ続けようとする。



その夜、店を出た後に届いたLINE。



『今日も会いに来てくれて、8月の最後昇吾さんが隣にいてくれて本当に嬉しかったよ♡』


『ねーーーーーーーー昨日写真撮るの忘れた( 〒 - 〒 )アルバムに追加したかった本当ショック。。。』



本音が漏れ出しかけたメッセージの後に、慌てて連投された、絵文字と大きな顔文字で飾られた無邪気なLINE。


写真が撮れなかったことを「本当ショック」と何度も嘆いて甘える可愛らしさの裏で、彼女が必死に隠している寂しさと葛藤。


昇吾はスマートフォンの画面を見つめながら、静かに呟いた。



「無理して笑わなくていいのに……」



まだ飾り立てられた記号の裏に隠された彼女の本音へ、昇吾がゆっくりと手を差し伸べようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。