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『ETERNAL』  作者: 千筆拓
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19/30

第19話:『まどろみの境界線』

境界線を引いているのは誰か。確かめないまま重ねた時間が、いつしか何よりも確かな絆に変わっていく。

踏み込みすぎないからこそ見える素顔と、夜の街の喧騒のなかで交わされる、静かで甘い熱についての物語。

白地に散る、漆黒のドット柄。

計算された幾何学模様のワンピースは、清楚さと背徳感を同時に漂わせている。短めに設計された裾が揺れるたび、視界の端でしなやかな脚線美が残像を描いた。

ふたりは、互いに一歩を踏み出せずにいる。

同伴の誘いも、プライベートを縛り付ける言葉も、昇吾の口から出たことは一度もない。アフターの約束すら、いつも杏菜の気まぐれな響きを帯びた誘いから始まるだけだった。境界線を引いているのは自分なのか、それとも彼女なのか。確かめないまま重ねる時間が、逆に二人の距離を誰よりも近くさせていた。

「——昇吾さん」

スマートフォンの画面を伏せた杏菜の画面には、閉店間際を狙って呼び出そうとする客からの必死なメッセージが明滅していたはずだ。


「15分だけ、顔だしてくるね。すぐ帰るから」


送りの最終時刻である午前5時まで、あと15分。

午前4時45分まで自分の隣で心を緩めていた彼女が、プロとしての最小限の義理を果たすためだけに、わずかな時間だけその面倒な空間へ顔を出しに行こうとしている。言葉には出さずとも、その「15分」という無機質な数字が、誰が特別で誰が仕事かを雄弁に物語っていた。


「いってらっしゃい。無理しちゃだめだよ」


昇吾さんがいつもの穏やかなトーンで送り出すと、杏菜は小さく頷き、歩き出した。

時間が押しているはずなのに。

面倒な客のもとへ向かう道中、彼女は振り返り、角を曲がってその姿が見えなくなるその瞬間まで、ずっと手を振り続けていた。

そしてわずかな顔出しを終え、彼女は約束通り午前5時ちょうどの送りの車へと滑り込んでいく。揺れるドット柄の裾と、遠ざかる記憶。あの眼差しの中に隠された甘い熱量を、探り合うような真似はしない。

夜が明ける直前の曖昧な空気の中で、昇吾さんのスマートフォンの画面が静かに灯った。


《これ思われニキビなんだ! 初めての経験かも?笑》


お茶目な照れ隠しの裏に透けて見える、無防備な彼女の素顔。


強引に奪おうとする男たちが決して触れられないその心を、自分はただそこにいるだけで満たしている。

言葉にならない確信と、触れ合わないからこそ深まる静かな情熱。

ふたりの物語は、急ぐことのない確かな歩みで、次の夜へと紡がれていく。

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