第17話:振り返る視線と、絶対の居場所
閉店後のお会計を済ませ、他店への挨拶へ向かう道中も、彼女の手は片刻も離れることはなかった。
他のキャストの前で誇らしげに昇吾を自慢し、「昇吾さんの隣だけが素にいられる」と微笑む杏菜。
夜の街の角を曲がるまで何度も振り返り、手を振り続けた別れ際の余韻と、翌朝のLINEに刻まれた解けない絆——。
お会計を済ませ店を出ると、杏菜は「ちょっと顔を出さないといけないお店があるの。15分だけ顔を出すから、昇吾さん帰ったあとにちょっと行ってくる」
昇吾の手を固く握りしめたまま違うキャバクラへ行こうと手を引っ張り歩き出す杏菜。
歩くたびに、杏菜の腕に着けられたアクセサリーが昇吾のズボンにカチカチと触れ、優しく絡みつく。
立ち寄った店に入ると、杏菜はそのお店のキャストに向かって、誇らしげに昇吾の自慢を始めた。
「こんなに自分の素を出して、楽にいさせてもらえるのは昇吾さんだけなんだよ」
ソファの背もたれにゆったりと身体を預けながら、杏菜は愛おしそうに昇吾を見つめる。
「この背もたれにもたれかかれるの、昇吾さんの席だけなんだから」
他人の目など気にも留めず、自分が昇吾にとってどれほど特別か、そして昇吾が自分にとってどれほど絶対的な存在かを熱っぽく語る彼女。夜の世界のトップとしてのプライドを捨て、一人の女として全力で誇っている姿がたまらなく愛おしい。
夜風が吹き抜ける街角。別れ際の交差点で、杏菜は「昇吾さんが角を曲がるまで見送るね」と言って足を止めた。
一度、二度、三度——。歩みを進める昇吾が振り向くたびに、杏菜は満面の笑みで大きく手を振り続けていた。何度も何度も振り返り、お互いの存在を確かめ合うように視線を交わす。その姿は、まるで映画のワンシーンのように鮮明に夜の闇に浮かび上がっていた。
翌朝、スマートフォンに届いた杏菜からのメッセージが画面を明るく照らす。
『昨日偉そうな事をたくさん言ってしまいましたが あんな風に愚痴をこぼせるのも昇吾さんの隣だからだよ。もっとちゃんと、凛としていたいのに。』
『でも、隣に昇吾さんが居てくれるなら頑張りたいな。』
『呼吸するように会いたいという言葉が今の私の心に1番グッと来ました。』
昨夜見せた甘えや愚痴を恥ずかしがりながらも、昇吾が紡いだ言葉に心を揺さぶられたと語る杏菜。
昇吾は静かに画面をタップし、愛おしさを込めて返信を打ち込む。
「呼吸するように会いたい、は本当だよ。杏菜大丈夫だった?ずっと角曲がるまで手を振って見送ってくれたこと嬉しかったよ。ずっとこれからも隣にいたい」
どれほど夜の街が虚飾に満ちていようと、二人が交わした本物の温もりが消えることはない。解けることのない強い絆を胸に、二人の物語はこれからも深く、永遠に続いていく。




