第16話:ちいかわの笑顔と、甘い独占欲
月曜日以来、わずか数日ぶりの再会。しかし杏菜にとっては「他のお店に行ってしまうのでは」と心を痛めた長い時間だった。
たくさんのちいかわグッズに瞳を輝かせ、無邪気に甘える彼女の素顔。
高級シャンパンとカクテルを並べ、世界で一番贅沢で愛おしい夜が更けていく——。
土曜の夜の喧騒が嘘のように、二人だけのテーブルには穏やかで甘い時間が流れていた。
新しいドレスで登場した杏菜。朝の光を弾くピュアホワイトの生地に、漆黒のドットが夜空の星屑のように繊細に散りばめられた一着。
清楚な第一印象を軽やかに裏切るように、やや短めに設計されたスカートの裾は、彼女が歩を進めるたびにしなやかな脚線美を覗かせ、計算し尽くされた凛とした色気を放つ。
可愛らしさに甘えることなく、自らの魅力を知り尽くした者だけが着こなせるそのシルエットは、甘さと鋭さが同居する彼女の素顔そのものを鮮やかに物語っていた。
プレゼントしたたくさんのちいかわグッズを前に、杏菜は目を大きく開けて「あー!これはシールだ!」と無邪気に声を上げる。チュッパチャプスを口に含み、もう片方の手にはちいかわの形をしたヨーグルト味のグミ。完璧なトップキャストとしての仮面は完全に剥がれ落ち、そこには自分の世界を心から楽しむ一人の可憐な少女がいた。
注文したトリュフとポルチーニのパスタ、そして桃とシャインマスカットが彩るフルーツと生ハムのサラダが運ばれてくる。
昇吾が優しくパスタを食べさせてあげると、杏菜は照れくさそうに微笑みながら、「昇吾さんに教えてもらったから、自分で巻いて食べる練習する!」と、スプーンを使わずに器用にパスタをフォークに巻きつける練習を始めた。
「トリュフは好きだけどフォアグラは苦手なんだよね。……ねえ、キャビアって何なの?」
首をかしげて尋ねてくる無防備な問いかけに、昇吾の口元が緩む。
「このポルチーニのパスタのレシピ知りたいな」
「明日送ってあげるよ」
「昇吾さん、よくパスタ作るんだ!」
テーブルの上には、輝くアルマンドゴールドのボトルと、特注のシャインマスカットのカクテル。色鮮やかなグラスを並べてご満悦な表情を浮かべる杏菜の瞳には、愛おしいほどの満足感が満ちていた。
だが、ふとした瞬間に彼女は少し甘えるように目を伏せた。
「昇吾さん、久しぶり……」
月曜日以来、ほんの数日ぶりの再会。それでも彼女にとっては、永遠のように長い時間に感じられていたのだ。
「今日会えると思ってなかったし、来ないと思ってた……他のお店で他の女の子と飲んでるんじゃないかって、ずっと思ってたんだよ?」
隠しきれない強い独占欲と不安。昇吾が他の誰かに奪われるのではないかという切ない本音が、甘いおねだりのように溢れ出す。
「そんなわけないだろ。杏菜に会いに来てるんだよ」
昇吾の揺るぎない言葉と温かい眼差しに包まれ、杏菜は胸を撫でおろすように弾んだ笑顔を取り戻した。店内を包む幸福な時間は、あっという間に閉店の瞬間へと向かっていくのだった。




