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建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~  作者: ヒロノF
第20章

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第593話 歴史編纂のために各地を奔走(赤き亜人と禁忌の土地の祟り説)

 少しして本を持って来てくれた。


「読み終わりましたら、受付にてご返還ください」

「ありがとうございます」


 ところが、持って来られたのは端っこに二つ穴を開けて紐で括られた原稿のようなもの。きちんとした本の形をしておらず、表紙も裏表紙も無い。手書きで殴り書きされたような読み物だった。

 タイトルは『禁忌の土地で出会った赤き亜人』。

 中を読んでみると、書いてあるのはレッドトロルたちと数日過ごした時の手記や感想みたいだ。

 この手記内では、レッドトロルを『赤き亜人』、グリーントロルを『緑の亜人』と書かれている。『あまり頭は良くない』とも書かれているわ。やっぱり同じ先祖を持つ分化進化した種族ってことなのかな?

 でもこの著者、飄々とした性格みたいで、ヒーナさんみたいにイライラしているような記述は無い。むしろ種族の違いを楽しんでいるかのようだ。

 まあ……この辺りは壁作る責任者とフイッと訪れた旅人の違いかな?


 資料に目を通しながら、メモを取る。

 この作業が結構面倒。ヘパイトスさんにお借りした手記みたいに持って帰れれば、うちでリラックスして作業できるんだけど……

 あと、正直言うとカイベルにコピーを作ってもらえば良いのだが、今回の場合は歴史の教師(ラフィミィナ先生)に矛盾を突きつけられてしまっているため『現地へ行って直接目で見て資料の見た目を確認するって行程』がどうしても必要だから、コピーしてもらって簡単に済ますってわけにもいかない。

 自身で確認しておかないと、どうしても齟齬とか出るかもしれないしね。

 カイベルに頼んで済ませてたら、『禁書扱いで一般人は見れない』ってことも知らなかったわけだし。

 それに、世界に一冊しかない本のコピーなんて作ったら、後が大問題だ。まあ……用が済んだら燃やして隠滅すれば良い話なのだが……


 著者は冒険家で様々な土地に行って見分を広めているエルフだということが分かった。


「あれ? 『冒険家で様々な土地に行ってるエルフ』? これどこかで聞いたような気が……言ってたのは……フリアマギアさんだったかな?」


 そう思い、裏側を見てみると、本編より更に雑な手書きで『クジロカノン・エルフ・ブックマン』と署名されていた。


「これ、『黒き邪神の物語』を編纂したヒトと同じだ!」 (第566話から第567話参照)


 ただ、裏の署名は何だか急いで書いたかのようだ。

 名前と一緒に併記されていたのは『九千三百六十九年』という文字。


「六百年以上前だ! マジ!? ヒーナさんの手記より前じゃん!」


 驚くほどに遠い過去の古書だ! 地球じゃ六百年前のものなんて古文書のレベルなのに!

 年代の前には大抵『冥陰暦』という文字が付いてることが多いが、走り書きに見えるところを考えると『冥陰暦』を省略せざるを得なかった状況だったのかもしれない。


 赤き亜人との初めての遭遇はトロル種の例に漏れず襲撃だったようだが、このクジロカノンさんが強くて、魔法と体術で簡単に叩き伏せたようだ。エルフで体術が得意ってのは初めて聞いたわ。大抵魔法が得意だと思うけど。

 そして、記述によるとグリーントロルよりも好戦的な性質に感じる。


「そう言えば、私のレッドトロル(彼ら)との邂逅(かいこう)って、アルトレリアを襲撃してきたからだったな……確か、旧トロル村が豊かになったから食べ物を奪おうとしてきたんだった」


 当時の二種族間の栄養状態の違いとトーマス仕込みの槍術で百人くらいで襲撃して来たレッドトロルをたった六人で制圧したって事件があった…… (第189話参照)

 好戦的な部分は、頭良くしたことによって中和されたってところかな?


「現代では、リーヴァント曰くたまにいざこざが起こるけどそれほど頻繁ではない、みたいなニュアンスだったように思うけど、何で最近はあまり接触が無かったのかしら?」


 読み進めると、彼らの生活の様子が事細かに書かれているが、村は大きめの石でバリケードが作られていて、外敵を阻むようにできていると書かれている。

 腹が減ったら狩りに行き、帰って来て食事。

 獲物を狩って来たらまず火を起こして食事の支度をするとか。

 時折バリケードを破壊して侵入してくる獣がおり、それらを集団で囲って殺し、その日の食事になるらしい。


「レッドトロルは火を起こせるんだね……バリケード作って外敵に対抗する辺りを考えてもグリーントロルより少し頭が良い?」


 狼や豚の丸焼きを振る舞われたが、総じて薄味でそれほど美味しくはないと書かれている。

 水は近くを流れる川から汲んで来ており、水汲みに困らないところに村があるらしい。木材なども手に入り易く、それを利用して家が作られていたようだ。

 赤き亜人のコミュニティはここだけではなく、当時は中立地帯の各地に小規模なものが点在していたようだ。人数は千人以上、二千人未満ではないかとの予測が書かれている。


「随分多いな、私が彼らを種族大移動させた時には四百人くらいしか居なかったのに (第193話参照)、しかし、何でおバカが多いのやら……六百年の間に頭の良い個体が消えて行ったのか?」


 この書物の記述から考えると、ヒーナさんの時代に至るまでの百年の間に異種族紛争で数を減らしたってところかな?


 最も多い人口の集落は川の近くにあったらしい。ただ、流域にあるわけではなく少し離れた場所にあると書かれている。

 クジロカノンさんが滞在している間に川の増水があったため、水没しないような場所に村があるのではないかとの予想も書かれている。

 このヒトの予想によると、川の上流、つまり水の国で豪雨などがあった場合に川が氾濫するのではないかとも。


 そして、一つの記述が目を引いた。


「えっ!? 緑の亜人(グリーントロル)の村って川の近くにあったの!?」


 当時はグリーントロルの村がレッドトロルの村と近いところにあったらしく、度々いざこざがあったとか。

 クジロカノンさんの滞在していた期間にも種族の違いからいざこざが何度かあったようだ。自分が介入すると余計に拗れることを恐れ、制止することなく遠目に観察していたとのこと。


「この頃は川の近くにグリーントロルの村があったはずなのに、何で今は赤龍峰の麓なんていう遠い場所に居るのかしらね……」


 この本の記述によると、いざこざは木から作った武器や大きめの石つぶてなどを投げて応戦していて、この両種族は顔を合わせる度にほぼ戦争状態だったみたいだ。

 そして、ここにも『怪我が短時間で治る』との記述がある。

 双方共に攻撃してもなかなか致命傷にならないから、争いはかなり激しかったらしく、殺し殺されは日常茶飯事だったようである。

 そこまでタフなら何でクジロカノンさんが攻撃されないかとも考えたが、自分たちの使えない技術 (魔法)を使える者相手では、勝てるはずがないとでも思ったのかもしれない。


「こ、これ、書き残されてたのによく広がらなかったな……書かれてすぐ禁書扱いになったのかしら?」


 時代背景を考えると、ヒトが目に触れる前に禁書として取り上げられた可能性が高い?

 殴り書きに近いし、後でまとめるためのメモのような感じだったのかも?

 もしかしたら、雷の国を訪れた時の身体検査か何かで取り上げられて焚書(ふんしょ)されることなく、流れ流れて図書館、って感じかな?

 この裏側に雑に書かれた署名も、後から返してもらおうと取り上げられる前に急いで書き足したのかもしれない。

 何だか、こういった資料見る度に、ギリギリの綱渡りをくぐり抜けて、トロルの生態が広がることなく現代に存在しているかのような印象を受けるわ。


 しかし、この紙の素材がとても六百年前のものとは思えないくらい質が良い。

 日本の和紙のように繊維を集めた()き紙のような手法で作られているようで、羊皮紙のようなパリッとした劣化は無い。彼の出身地のエルフヴィレッジは森の中だし、素材は沢山あるからこういった技術が生まれたのかもしれない。


「ん?」


 また別の記述に目が留まった。

 別の種族とのいざこざが書かれている。

 緑の亜人とは別に青い肌をした亜人との(いさか)いもあったらしい。


「青い肌の亜人? まさか本当にブルートロルが居るのか?」


 この記述によると北東から襲来したと書いてある。


「北東って言うと……水の国の方角か……何だかこの頃のトロルって自分と同じ種族以外は『敵!』って印象が強いな……」


 いや、ヒーナさんにしろ、クジロカノンさんにしろ、トロル以外の種族は馴染んでいるようだから、自分たち以外の異同種を敵扱いしてるという感じか。

 …………いやいや、そうじゃないかも。ヒーナさんもクジロカノンさんも初対面は襲われてるから、単純に強き者に従った結果かな? 私の時も襲われて蹴散らしたから、それ以降大人しくなったし。

 なるほど、頭良くする前は『強い者に従う』って傾向が強かったわけか。


「まあ、ある意味今も強い者に従ってる感じか」


 …………いやいや、ヒーナさんの手記を見たところだと、どう見ても従っていたようには思えない。『言うこと聞かない!』ってイライラしてた記述が多かったしな……

 つまり、同調は強い者に従った結果ではなく、彼らの性質ということになるか。


「元から仲間だと思った者には優しい性質なのかもね。怠けやすいけど……しかし、ブルートロルの居そうな集落なんてあったかしら……?」


 以前レッドトロルの集落を探し回った時にそれらしい集落は……


「…………あ! あったわ! もう一ヶ所探してないところ! そう言えばレッドトロルの集落とドワーフの滞在跡 (※)ともう一ヶ所集落みたいなところ (※)があった! もしかしたらアレが?」

   (※ドワーフの滞在跡:現在捏造している古代遺跡のこと。詳しくは第438話から第440話参照)

   (※集落みたいなところ:第191話参照)


 もしかしたらアレがブルートロルの集落の可能性がある。

 あの時には二個目の集落跡でレッドトロルたちを見つけたから、もう一つはスルーしてしまったけど……あれも確認しておいた方が良いかも?


「そうすると、今までアルトレリアには二回冬が訪れてたけど、その集落は大丈夫だったのかしら……?」


 もしかしたら寒さで全滅してたりとか……


「………………は、早いとこ確認しておいた方が良いかも!」


 下手したら次の冬でもっと死人が出かねない。

 しかし、どうやらこの書物には、ブルートロルに関する詳しい記述は無い。


「そうすると、エルフヴィレッジにあるっていう一冊が気になるな……」


 フリアマギアさんの話では、クジロカノンさんと同郷らしいし、もしかしたらこれの続編の可能性が高い。

 渋られるだろうけど、エルフヴィレッジへの同行をお願いしてみるか。


「よし! じゃあメモもまとまったし引き上げるか」


 ページの量も多くはなかったから短時間で読み終え、受付へと返却する。

 すると、中立地帯について書かれているこの本を読みたいと言うヒトはあまり居ないからなのか、受付に尋ねられた。


「有意義な情報は得られましたか?」

「はい! 色んな事が分かって助かりました! 読ませていただきありがとうございました」 


 そう言って図書館を後にした。

 その足で土の国の市役所の図書館へ。


   ◇


 土の国第二首都(ルガイア)の市役所内に併設された図書館。

 それほど蔵書量は多くない。規模的には少し大きめの『図書室』という感じだ。


「え~と……種族・民俗学の棚は……あ、あった。中立地帯、中立地帯、禁忌の土地、禁忌の土地……」


 また無いわ……

 これはまた禁書の部類か? でも私この国の高官に知り合い居ないぞ?

 まあ……とりあえず受付に聞いてみるか。


 が、たまたま風土・土地文学の棚を通り過ぎようとした時に目に入った。


「あ、あった。トロルに関して書かれたものではないっぽいな。タイトルは『禁忌の土地』か……」


 そのまんまのタイトルだね……


 手に取って席に着く。

 随分新しい本だ。

 読み進めたところ、書いてあるのはやはりそこに住む住民に関するものではないようだ。


「体験談……かしら? …………いや、違うみたいだ。『こういう祟りにあった』みたいなものを集めた症例集みたいだ」


 行商人が禁忌の土地を通り、数日間高熱にうなされた、発疹に見舞われた、肺病に冒されたなど体験談が書かれている。

 そこを通過したことにより、彼らにとって感染したことの無い未知の病原菌やウイルスを貰ってきてしまったと考えられる。

 裏表紙を見ると書かれたのは冥陰暦九千五百四年。


「あ、しかもこれ、さっきのと違って出版物だ!」


 奥付には――


┌──────────────────┐


 書名: 禁忌の土地

 成立: 冥陰暦9504年

 底本: ヒュプノベルフェ国立図書館

 復刻: ルガイア出版

 発行: 冥陰暦9967年 10月 1刷発行


└──────────────────┘


 ――と書かれていた。


「復刻されたのは三十年くらい前で、原本が五百年くらい前、ちょうどヒーナさんが土の国から水の国へ招聘された頃の手記と同時期ね…………いや二十年くらい後だから、全然“ちょうど”ではないか」


 五百年も前のことだから、病気やウイルスも呪いの類いと信じられていたのかもしれない。

 現代になって、私が強制的に環境を変えたからこれらの病原菌やウイルスも薄まったとか、そんなところと予想。

 体験談に記されたことによると死人も出ているらしい。


「昔から“禁忌”の土地って言われてるし、そこを通過して死人が出てれば通過したことによる呪いや祟りと考えてもおかしくないかもね」


 だから、ずっと“禁忌”の土地であり続けたわけだ。


 が、一方で何ともなかったというヒトの記述もあった。

 これらはきっと種族の抵抗力の違いによるところが大きいのではないかと思う。何せこの魔界、地球と違って遺伝子ごと全く異なりそうな種族のオンパレードである。

 以前、アルトレリアで食中毒を起こした時も、ドワーフ以外に体調の悪くなったヒトはほぼいなかったくらいだったし。 (第375話から第378話参照)


 しかし、『死人が出た』という事例の影響力は大きい。これにより禁忌の土地の悪評はパワーアップしてしまった可能性もある。


「手記によればヒーナさんたちが病気に倒れた記述は無かったから、運が良かったのかも?」


 クジロカノンさんは冒険家だったから、こういった危ないところにも意気揚々と挑戦していってたのかもしれない。


「あ、事例としてまとめてあるから短期間で集めた体験談だと思ったら、全然短期間じゃないじゃん」


 最初のヒトの体験談がこの本が復刻出版される二百年くらい前、最後の体験談が二年前。

 原本はもしかしたらカルテか何かなのかもしれない。


「ここまで年数に開きがあることを考えると、通過した時に偶然病気を発症した可能性が高いな。この本によって“禁忌”の土地としての悪評を振り撒いて、中立地帯に行かないようにさせてたって目的がありそうだ。他国に行くのに近いからと、行商人などに大量に侵入されて国際問題になるのも面倒だし」


 だから禁書にもならず、こんな普通に読めるところに置いてあるのか。

 カイベル、ここに一冊って言ってたけど、復刻してるなら他の家にもありそうだな。

 まあ、この事例を考えると、中立地帯をわざわざ横切ろうというヒトはそれほど多くはないようだ。

 アルトレリアに訪問者が激増したのも、私がそこに国を打ち立てたことが噂で広がったことにより、『ある程度安心して通行できる』ということが知れ渡ったせいかもしれない。


「よし! メモもまとまった! 一旦帰ってフリアマギアさんに交渉するか」


 本を元の位置に戻し、図書館を出て【ゲート】で帰宅。

 ブルートロルの存在が判明!


 次回は2026年4月10日の投稿を予定しています。

  第594話【歴史編纂のために各地を奔走】

 次話は来週の金曜日投稿予定です。投稿時間は21時付近までのいずれかの時間になります。

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