第592話 歴史編纂のために各地を奔走(雷の国図書館)
我が家に帰って来たが、今日はこのままパトロールに行かないとね……今日の窃盗犯など軽犯罪者の強制送還業務があるし。 (第573話参照)
「ふわぁぁ……」
流石に読み込みが深すぎた……パトロール終わったら一旦寝よう。
「カイベル……今日の軽犯罪者の所属国は?」
と、カイベルにどこの国所属かを聞いておき、それに対応した国境付近の町や村へ、【強制転移】で強制送還するのが日課。
なぜ所属国を聞くか、それは“嘘吐く者が居る”ため。この手の輩は自国に転送されたくないからと聞いてものらりくらりはぐらかそうとするし、自分の所属国を偽ろうとする者も多い。あわよくばアルトラルサンズを通じて発展している国や平穏な国へ不法に侵入を試みようとする。
アルトラルサンズが出来る前の中立地帯は、『禁忌の土地』、『侵入したら各国が黙っていない土地』という印象が強かったため、この土地を通って別の国に行こうとする者はそれほど多くはなかった。アルトラルサンズが中立地帯であった頃は、大きく迂回しなければ他国へ行けなかったため、窃盗などを行うような悪人たちも他国に行くのが難しかったわけだ。
しかし、私が七大国の中心に位置する場所に国を興してしまったために、『ここは通って良い場所』という認識がされ、近道をして他国に行くためのルートができてしまった形になる。
つまり、私が国を興してしまったことにより、図らずも結果的に別の国から別の国へ橋渡しする役目を持ってしまったというわけ。
そのため、そういった輩を他国へ渡さないために、正確な情報を知っているカイベルに聞いて、母国へ強制送還するのだ。
ただ、転移先が国境付近なので、またアルトレリアに戻って来る者もあるが、何度も繰り返してるともう来なくなる
そんなことになる以前に、窃盗とかしなきゃ強制送還もされないのに……
「はい。樹の国のホブゴブリン二人と土の国のドワーフと……」
「え……? ドワーフにも犯罪者が居るの?」
「もちろんです。種族全体が善人など有り得ませんから」
「た、確かに、そうよね……。あとは?」
「他には…………」
と全員の所属を聞いてから強制送還をしに行く。
「じゃあ……ちょっと行って来るわ……」
すぐに寝たいところだが、拘留設備のある警察署へ赴き――
◇
――パトロールが終わったら、一旦家に帰って寝た。
そして、また各国への歴史資料漁りだ。
起きたらもう昼を大分過ぎていた。
朝食ならぬ昼食のため、テーブルに座ってカイベルの料理を待っていると、ネッココが庭から帰って来た。
『あ、アルトラ帰ってたのね!』
「ああ……ネッココ、おはよう……」
『もう昼過ぎてるんだけど……!』
「うん……ちょっと夜更かししちゃってね……」
「アルトラ様、昼食です」
カイベルがご飯を運んで来た。
今日はオムライスか。
「ありがと。今日もこれから資料探しに行って来るわ」
『じゃあ、私も出てくるわね!』
出てくる? いつもは『庭で寝てるわね』って言うのに。
庭に埋まってお昼寝ではないのか?
「どこ行くの?」
『最近メリルのお花屋さんを手伝ってるのよ! お金も貰えて美味しい肥料まで貰えて一石二鳥ってわけ!』(メリルについては第36話、第197話参照)
「へ、へぇ~……」
ネ、ネッココ、働いてたのか……
あまりに低身長過ぎて (赤ん坊サイズ)、力も弱いし働くのは無理かと思ってたんだけど…… (貧弱さについては第577話参照)
日中はずっとうちの庭に埋まってお昼寝してるイメージだった。
「花屋で何やってるの?」
『お花の体調観察かしら!? ちょっと元気無くなってしおれてこないとメリルには分からないらしいから、私がお世話して体調管理してあげてるのよ! 「ネッココちゃんが来てからお花たちが活き活きするようになって助かるわ!」って言われるのよ!?』
「凄いじゃない、流石ネッココ!」
植物相手に『体調管理』というところがネッココらしい。
ネッココ自体が植物だから、花の言ってることとかも分かるのかもしれない。
『じゃ、行って来るわね!』
出て行った。
「リディアは?」
「朝からご友人の家です。昼食も現地で食べるからとお弁当を持って出かけられました」
リディアはいつも遊び回ってるな……
まあ、もうすぐ学校始まるから、それも終わりだが。
「さてカイベル、旧トロル村に関する資料がある場所をピックアップしてもらえる?」
「はい。雷の国首都の国立図書館に一冊、水の国首都の民家に二冊、樹の国エルフヴィレッジの書庫に一冊、土の国第二首都の市役所の図書館に一冊、火の国首都の国立図書館に一冊、氷の国首都の国立図書館に一冊ですね」
「そんなに分布してるの!?」
これは……行けないところも多いな……
火の国は目を付けられてるだろうから空間魔法で行くのも中々リスクが高いし、氷の国はそもそもツテが無いから行くこと自体が不可能。それに、まだまだ情勢不安で行商人もあまり行きたがらないらしい。エルフヴィレッジは私一人で行くと多分門前払いされるだろうし。
しかし、もっと簡単に情報を得られそうかと思ったが、何で世界中に数冊しかないのかしら?
「中立地帯を記した本って何でそんなに数が少ないの? もしかして公に発行されてないものなの?」
「そうですね。増刷はされなかったようです。現在と違い、過去の中立地帯は腫物扱いの土地でしたので、それを記した書物もあまり広げるわけにはいかなかったというところです」
「じゃあ何で多くが図書館にあるのよ?」
「珍しい資料ですので、処分されずに流れ流れて最終的に図書館に行き着いたというところですね。破損したものや焚書されたものもそれなりに存在します。これら数冊はその時代を免れた書物ですね」
「水の国の民家ってのは?」
「フィンツ様とフロセル様・ルドルフ様のご実家や血縁のある家ですね」
「それってもしかして、マリアさんとローゼンさんの手記だったりとか? あの三人って二人の末裔なんでしょ?」
「その通りです」
これは……フィンツさんたちにお願いしなきゃいかんやつかな……
いや、ヘパイトスさんと違って彼らは私が歴史編纂のために資料を探し回ってる事情を知らないから、もう一度ヘパイトスさんにお願いかな……
彼らの大親方だから実家にも顔利きそうだし。
「まあ、とりあえず雷と土の国の図書館を漁って来るよ。ごちそうさま」
◇
雷の国首都の図書館に来た。
流石世界有数の人口を誇る都市だけあって、蔵書量も多い。
入り口に立って、建物内を見渡すだけで圧倒されるほど本の量。
一体何万冊あるのか……
「この中から見つけるのか……おおよその場所も聞いておくんだった……」
全く、いつも私は少し足りてないな……
とりあえず、種族とか生態とか、民族とかそういった場所を探してみよう。
◇
種族・民族学などの棚を探し歩いたが……
「無いな……そもそも何てタイトルなのかも分からないし……」
私は『トロル』と呼んでいる。しかし、ヒーナさんたちは『オラたち』と呼んでいた。ここにある本の著者は全く別の名前で呼んでいるかもしれない。
つまり、それがタイトルになっている場合は、全く予測もできないわけだ。
「一旦戻るか?」
他国に転移するのも面倒なのよね……他人に気付かれないように転移して来ないといけないから。
ヘンリーさん曰く、空間魔術師の行動は黙認されてるって話だったけど、空間の揺らぎを感知・捕捉されれば事情聴取くらいはされるかもしれないし。 (第573話参照)
まあ、この国でももう私のことを『他国の空間魔術師』として登録されているかもしれないけど。
「受付に聞いてみるか」
そういうわけで、受付に向かう。
「すみません」
「何かお探しですか?」
「中立地帯に住む種族についての本を探してるんですけど」
「少々お待ちください」
受付に置いてあるコンピューターで調べてもらったところ――
「一冊だけ見つかりましたが……」
「どこにあるんですか?」
「禁書に指定されてますね」
――という返答。
「禁書って……それ見られるんですか?」
「無理ですね。一般の方の閲覧は禁じられています。ここへ入るには、書記局次長以上の公職にある者か、近衛騎士、あるいは騎士団の中隊長クラスの同伴が必要で、持ち出すにも許可証が要ります。当館の職員であっても、一級司書かつ書庫主任以上の権限がなければ立ち入りすら許されません」
「基本的なことを聞くようですが、禁書って何ですか?」
「詳しくは申し上げられませんが、世の中に出た場合に多大な影響、または悪影響が出る本のことです。取り扱いを間違えると命に関わるものもあります」
何だソレ? 読むだけで生命力を吸われるとか?
「それで、何で中立地帯に関する本が禁書に?」
「現在は中立地帯にアルトラルサンズという新興国が出来て外交も始まったようですが、あの辺りは地獄の門が存在している地であるため、禁忌の土地と呼ばれているのはご存じですよね?」
「はい」
『ご存じですよね?』と半ば決めつけのような感じで聞いてくる辺り、中立地帯が禁忌の土地ってのは一般的に広く浸透してる事実ってわけね。
「『地獄の門』という一点だけ見ても各国から重要地として見られ、どこの国も政治的な意味で占領できるような場所ではなかったため、我が国ではそれを書いた本については禁書扱いになってるんです」
「な、なるほど……」
この土地の情報が広く知れ渡るのは、各国にとっても都合が悪いから隠蔽しているってことかな?
中立地帯であることが形骸化していたとは言え、五大国はよく国として認めてくれたな……
だとしたらもう国が興った以上、禁書である必要は無いのでは? こうったことは“上”が認めて禁書指定を解かないといけないとかなのかな?
しかし、禁書か……
同伴をお願いするにしても、この国で知り合いって言ったらアスモ周りしか居ないしな……
「その権限の許可って女王陛下でも良いんですか?」
「えっ!? も、もちろんですけど……じょ、女王陛下とお知り合いなんですか?」
「はい。じゃあちょっと許可貰って来ます」
ただ、聞いておいてなんだけど、飛び入りで王城へ行って会わせてもらえるだろうか……?
◇
ということで王城に来て――
「女王陛下にお目通り願いたいんですけど……」
――と城の受付に尋ねてみたが……
「……失礼ですが、本日女王陛下とお会いするご予定が?」
「いえ……」
まあ普通会えるわけないよね……
あっちからは簡単に会いに来るのに……何だか理不尽だわ…… (第115話、第261話参照)
「ア、アルトラが会いに来たと伝えていただけませんか? それだけで通じるはずなので!」
「そう言われましても……本日はご公務で王城に居られません」
居ないのか……困ったな……どうしよう……
そう思っていたところ――
「おや? アルトラ殿ではないですか?」
――後ろから声をかけられた。
「ラッセルさん! 良いとこで会いました!」 (ラッセルについては第118話から第121話、第458話から第463話辺りを参照)
「ラッセル閣下、この方とお知り合いですか? それにアスモとは……?」
「ああ、以前この町で発生した空間魔法災害を鎮圧したのが、女王陛下とこの方なのです。アスモデウス陛下とアルトラ殿は以前から知り合いだそうで、呼び名が『アスモ』、『ベルゼ』なんですよ」
それを聞いた受付は態度を改め――
「そ、それは失礼致しました!」
――と平謝り。
「いえ、大した身分ではないので……」
「大した身分ではないって……貴女、アルトラルサンズの国家元首じゃないですか!」
「国家元首!? か、重ねて失礼致しました!」
受付の子のお辞儀がより深くなっちゃったよ……
「お、お忍びで来てるので、あまり大っぴらに言わないでください。そ、それに新興小国ですから……。ところでラッセルさんって女王陛下の護衛ですよね? アスモに付いてなくて良いんですか?」
「別の者たちが付いています。本日の私は待機組ですね」
「そうなんですか」
そりゃ休みの日だってあるか。
「それで、何用で女王陛下に?」
「図書館にある禁書を読みたくて……書記局次長以上の公職の許可が必要ということで。私、この国に知り合いはアスモとその周囲の近衛騎士くらいしかいないので……」
「ああ、許可証ですか。それなら私が発行できます。少々お待ちください」
◇
少し経って……
「お待たせしました。これを図書館員に見せれば禁書庫から希望の本を持ち出してくれると思います。しかし、何を見たいんですか?」
「ここの禁書庫に中立地帯の歴史的資料があると受付で言われたので、それを見たくて……」
「歴史的資料? なぜ他国に?」
「はい、今度学校ができるようになって、それに自国の歴史を編纂するため、各国へ行って資料を探して回ってるところです」
「歴史の編纂? アルトラルサンズに資料は無いのですか?」
「ありません。そういったものが無い寒村でしたので」
「なるほど、そういうことですか。もしかしたら期待するようなものではないかもしれませんが?」
「それでも良いんです! 必要なのはそこでどんな歴史が営まれてきたかってことが重要なので! ありがとうございます! 助かりました!」
ラッセルさんにお礼を言い、図書館にとんぼ返り。
◇
「許可いただいてきました!」
ラッセルさんに貰った許可証を図書館員に見せる。
「ず、随分お早いですね……普通数日かかるところなのですが……」
怪しまれてる?
「…………少々お待ちください」
受付が引っ込み……少ししてから別の図書館員がやって来た。
多分、さっき言ってた書庫主任なんだろう。
「確かに、近衛騎士ラッセル氏の紋章入りと確認されました。しかし、禁書庫は許可があると言えども自由に閲覧はできません。希望のものの閲覧だけになり、貸し出しはできませんが、よろしいですね?」
「はい。中立地帯に関するものをお願いします」
ネッココはお花屋でお手伝いを始めたようです。
次回は2026年4月3日の投稿を予定しています。
第593話【歴史編纂のために各地を奔走】
次話は来週の金曜日投稿予定です。投稿時間は21時付近までのいずれかの時間になります。




