第591話 手記発見(壁完成、そして別れ)
しかし、この辺からちょっと技術的な話が多くなってきたな……
私には分かりにくいんだよなぁ……
飛ばそうか……もう少しだけ読んでみる?
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冥陰暦9482年2月20日
中立地帯、し●も禁忌の土地で、中立地帯である以上、今後俺たちがおいそれ
とここを訪れることはないだろうから、長いこと整備の必要が無い形にし●お
いてやる必要がある。
あまりに一つの壁が長すぎると長い年月が経った時に自重で崩壊する可能性が
ある。そのため十から二十●ートルほどでクリアランスを設け、壁を分割して
設置している。
この分割することこそが壁の寿命を長くする。
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ああ、そうか。一枚岩にしてしまうと重過ぎて長い年月建っていてくれないのか。
天然ではなく、人工で作ったものだからなお弱いのかもしれない。
で、『クリアランス』って何だっけ?
え~と……確か『隙間』とか『余裕』とか、そういう感じだったかな? 建築に当てはめると『あそび』ってところかな?
つまり、壁と壁の間に隙間を設けてるわけね。
でも、このままだとこの隙間を長い年月かけて削られればガルムが入ってきちゃう可能性があるんじゃないかしら?
あ、続きにその答えが書いてあるわ。
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だが、この●まだと隙間から中を見て獲物が居ると考える狼どもが、このクリ
アランスを削って入ろうとする可能性があるだろう。
そこで、壁と壁の間に●灰を流し込んで補強とクッション、目隠しを同時にす
る●とにする。
──(壁)──│──(壁)──│──(壁)──│──(壁)──
↑ ↑ ↑
こ こ が 石 灰 の 壁
こんな感じにな。
まあ、こ●は両脇の壁が完全に乾いた後の作業だな。
今は隙間を埋めるより壁を作ることに専念しよう。
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ああ、これが壁と壁の継ぎ目なわけか。
現在でも、多少ボロボロになっているが、五百年経った今もまだまだ壁を維持している。
でも、技術的なことが多くて、私には面白くないな……やっぱり飛ばそうか?
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冥陰暦9482年2月20日
『オラたち』の男●もから揚重 (※)が大変だと愚痴が出始めた。
確かに木桶リレーでは中々にキツイ作業だ。
壁の内側に土魔法でスロープ (坂)を作っ●歩いて材料を運べるようにしてやった。
足場に居るヤツに手渡して、木枠に流し込んで突き固めるって寸法だ●。
このスロープは壁完成後に撤去する。
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(※揚重:運搬・配置する作業のことだそうです。『荷揚げ』とも言う)
「う~ん……やっぱり読み飛ばすか」
面白い面白くないで考えちゃいけないかもしれないが、正直言って建築関係に明るくない私では読んでもどんな状況なのかイメージがし難い。
「まあ……もし次に読む必要に駆られたら、カイベルにコピーを作ってもらえば良いか」
と言う訳で、最後の方まで飛ばしま~す。
一応掻い摘んだ部分を補足しておくと、この間に『足場を補強したり』、『スロープを長くしたり』、『また事故が起こりかけたり』ということがあった。
しかし、あのぐちゃぐちゃ事件以降、大きいトラブルも無いようだ。流石のトロルたちも目の前で見たから学習したらしい。
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冥陰暦9482年9月2日
よし! 紆余曲折あったが、今日壁の大部分は完成した!
これで狼ど●がこの村を襲撃することも難しくなるだろう。
あとは、クリアランスを石灰で埋めて完成だ!
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ここまで九ヶ月弱か……
ようやく終わりが見えて来たか……
ヒーナさん、頑張ったのね……よく頑張った! 感動した!
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冥陰暦9482年10月5日
しまった……気が緩んでいたのか管理が足りていなかった……
クリアラ●スを埋めるための石灰の量が足りないことに気付かなかった……
アイツら、ここまでの疲れの所為か、分量を少し多めに使っていたらしい。
最後の三ヶ所の壁の石灰が足り●いにも関わらず、俺に黙って土と藁クズで嵩
増しして、壁に使っていたようだ。
後で不具合が起こら●●れば良いがな……
まあ、少し不具合があるかもしれないが、百ヶ所のうち三ヶ所だ。
大目に見よう。これまでよく頑張って●れた。
それでも数百年保つ計算だし、その数百年の間に誰かが訪れて整備してくれ●
●もしれない。それに期待しよう。
…………よく考えた●アイツらの村の話だから、俺がそこまで心配する道理は
無いのか。
まあ、明日から型枠を外して、表面を整えれば完成だ。
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「と、思ったら、壁の少数ヶ所に不具合がある可能性? ………………え~と……何ヶ所か大きい穴が開いてガルムが入って来てる場所があったけど……不具合がある場所って、多分あそこのことだろう」
私が魔界に転生された直後に、ガルムは壁の“内側”に居たし。 (第3話参照)
耐久度の低い位置の壁が脆くなってきたタイミングで、集中攻撃されて穴を開けられたと考えられる。
私が来るまでのしばらくの間は、空いた穴と正門とで、見張りを立てていたのかもしれない。
まあ…………初めて村を訪れた時は、トロルたちを大怪我しない程度に蹴散らして歩いたから見張りに気付かなかったんだけど…… (第5話参照)
とは言え、ここまでの五百年間、この壁はきちんと村を守ってくれていたわけだ。
「流石ヘパイトスさんのご先祖様だ」
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冥陰暦9482年10月15日
よし! 今日で完成だ!
これで『オラたち』が絶滅するような事態も避けら●るだろう。
明日ここを発つ。
長距離用の干し肉と水を荷ソリに乗せておいた。
襲って来る獣用に武器も作っておいたし、準備は万端だ。
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おお、やっとこの村を出るのね。ほぼ一年くらいここに居たってことか。
この後に壁完成の宴会とかは…………そんな記述は無さそうか。彼ら結構催し物好きみたいだったけど、この頃はまだそうでもないみたいだ。
もしかしたら、壁作ってる日々が既に宴会に近い状態だったのかもしれないな。
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冥陰暦9482年10月16日
お別れの日。
「がんばってけろ」、「気を付けて行くだぞ」、「また来てくれろ」
などと別れの言葉を言われるも●の、何となく感情が乗ってない……
その言葉を聞いてローゼンと顔を見合わせるとお互い苦笑い。
感情については、頭悪いから仕方ない●かもしれない……
まあ……怠け者も多かっ●が、総じて気の良いヤツらだったよ。
そんな中、ウォルニールほか数人は、きちんと壁が出来た感謝を述べ、涙まで
流して別れを惜しんでくれた。
お前たちが居てくれたから、この壁も完成を迎えられた。
お前た●が居なければ、疾うの昔に見捨てて水の国へ行っていた●ろう。
握手をして別れを惜しむ。
一方でマリアた●婦女子会は相当に別れを惜しんでいる。
少しだけ女性の方が頭が良いようだ。
ここは俺たちドワーフとあまり変わらないな。
別れを言い、この村を発った。
今後もこの村の子孫たちが続いていくことを祈る。
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「あ、ここでトロル村編は終わりみたいだ」
そしてもう次の日記はトロル村を発って五日経ってるし。
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冥陰暦9482年10月21日
狼に襲われること多数。
アイツら……『オラたち村』に壁が出来ちまったから、そこ●ら出て来た俺た
ちを狙って狩りに来たらしい。
常に俺とローゼンが前方と左右、マリアが荷ソリの後ろに乗りながら後方に気
を使って歩く。
まあ襲って来ても棍棒で蹴散らして、土魔法で追い払ったがな。
しかし、馬車や妖精が居ない旅路というのは、こんなにも厳しいとは思わなか
った……
あんな寒村でも、旅することに比べたら随分と楽な環境だったらしい。
筋骨隆々の俺と●ーゼンはまだ良いが、細身のマリアはくじけそうだ……
まだ、光を出す石があるからマシだが、これ持ってな●ったら、とっくに狼た
●の餌食だったかもな。
ヤツらの領域で●る、気温の高い範囲を抜けるまでは気が抜けなかった。
寝る時には土魔法で俺たちの周囲に簡易防壁を作ってその中で就寝だ。
全く、俺たちが土魔法が得意な種族で良かったよ。他の能力だったらおちおち
寝てもいられなかったかもしれない。
さて……●●からあと何日だろうな?
確か、土の国から水の国まで馬車で一週間くらいだったな。そこから首都まで
となると……十日から十二日っ●ところか。
歩きだとこの一.五倍くらいか? 十五から十八日前後か。
途中、六本脚の馬を見かけた。見たことないから多分この中立地帯の固有種だ
ろう。 (※)
捕まえて道中の足にしようと思ったが、あまりにも移動速度が早い。
流石に三人での捕獲は無理●と断念した。
はぁ……向こうへ着いたら、美味いもん食って酒をたらふく飲みたいもんだ。
そしてふかふかのベッドで寝させてもらうぞ!
└───────────────────────────────────┘
(※六本脚の馬:第31話に少しだけ登場。その後第214話などに登場)
おいおいおいおい!
何か不穏な空気じゃないか! 大丈夫なのか? ちゃんと水の国に着けるのか?
ん?
「あれ? ここで日記終わってるわ。この続きは次の巻か。まあこの三人の末裔であるヘパイトスさんと、フィンツさんと、ルドルフさんと、フロセルさんが現代に生きてるんだから、ここで死んでるってことはないか」
日誌を閉じ、蔵の窓から外を見るといつの間にか夜が明けていた。
「もうこんな時間!? 随分熱心に読み込んでしまったみたいだ。さて、壁についてのことは分かったし、アルトレリアに関連ありそうなのは、これとこの次の巻くらいか。この二冊をお借りして引き上げるか」
鍵は壊れてかからないため、門を閉め、閂だけかけてから蔵の区画を出た。
◇
また立派な屋敷の脇を通り抜けようとしたところ、商会に出勤しようとしていたヘパイトスさんを見つけた。
「お? アルトラか。おはよう」
「おはようございます」
夜通し読んでいたために、眠い目を擦りながら挨拶する。
「どうだ、目当てのもんは見つかったか?」
「はい、大量にありましたよ手記」
「そんなにか!?」
「数えたら七十冊くらいでした」
「へぇ~、何年分だ?」
「大体二百五十年です」
「そんなにか!?」
さっきと同じリアクション……
「随分マメなご先祖様だったんだな。読み応えがありそうだ」
「それで、この二冊だけお借りして行きたいと思います」
「ああ、分かった」
「あと、『2』の蔵しか入ってないんで、そこだけ掃除しておきました」
「そうか? 悪かったな、掃除までさせて」
「いえいえ、それで蔵の中で気になったところをおおまかに三つ。玄関の鍵が壊れてて鍵必要無い状態でしたよ。かけ替えた方が良いと思います。『1』の蔵や『3』の蔵も同じ状態かもしれません」
「お、おぉ……そうか」
「それと二階の床が大分傷んでましたね。一部ミシミシ、ふかふかする場所があります。あと炎の剣が抜き身で大量に置いてあるんで、あれもちょっと危ないかなと。一本試しに魔力を込めてみましたが錆びてダメになってましたね」
「そうか、まあ推定五百年前の物だしな。報告すまんな。後で該当箇所をチェックしておくよ」
「ふわぁぁ……」
大あくびしてしまい、慌てて口を押える。
「まさか今までずっと読んでいたのか?」
「そうですね……じゃあ……眠いのでここで失礼しますね。じゃあ編纂終わったらお返しします」
「ああ、返すのはいつでも良いぞ」
【ゲート】を出し、アルトラ邸へと帰還した。
最後大分端折りましたが、過去日誌の壁作り編は終わりですね。
ああ、そうそう、最近少し大きい動きがありまして、『GEM Standard』とかいうメディアサイトに、私の『建国のアルトラ』がランクインしてました。
あと、9日間のうち74時間読み込んだ読者が現れたり、過去31日間の30分以上読者の割合が32.6%を数えたりと、何だか大きいデータ更新が大量に……
詳しくは、私の最近の活動報告をご覧ください。
次回は2026年3月27日の投稿を予定しています。
第592話【歴史編纂のために各地を奔走】
次話は来週の金曜日投稿予定です。投稿時間は21時付近までのいずれかの時間になります。




